医療ガバナンス学会 (2015年5月18日 15:30)
来年度以降の予算額について、平成26年4月以降に具体的に検討していきたいと思いますが、すでに平成26年度の当初予算額を18,000千円に組んでいるので、私の案としては、平成27年度に調整していただくことはいかがでしょうか。
平成25年度 11,377千円(補助額)
平成26年度 18,000千円(補助額)
平成27年度 24,623千円(補助額)
計 54,000千円(補助額)
講座では地域包括ケアについての映像シリーズ36本、書籍、規格を作成すべく、作業を行ってきた。DVDと書籍については、すべての基礎自治体と保健所に配布したい、ついては千葉県から配布してもらいたい旨、2015年2月4日、目黒敦前医療整備課長と早川直樹前医師・看護師確保推進室長に説明し了承されていた。
映像と書籍は2015年5月10日現在、最終的な編集の詰めの段階にある。販売についても業者と最終調整に入っていた。プロモーションについても、業者に委託することにしていた。
予算が来ないと大きな損失を被ることになる。高岡課長と新田室長に2時間にわたって抗議するとともに、事業の概要とこれまでの経緯を説明した。高岡課長からは、県庁に持ち帰って再検討するとの返事をいただいた。
◆千葉県地域医療再生計画
従来、我々は地域医療再生計画について大きな問題があると認識していた。2012年8月31日の千葉県地域医療再生本部会議で、2009年度の地域医療再生臨時特例交付金50億円にかかる事業の中間報告が行われた。計画の対象となった2次医療圏は、香取海匝医療圏と、山武長生夷隅医療圏である。大半の費用が東千葉メディカルセンターに投入されていた。医療人材不足の中での三次救急病院の新設は、地域の医療提供体制に混乱をもたらすと予想していたが、実際にそうなった。講座の一員である小松俊平は、この会議に随行者として出席し、事業に疑問を抱いた(1)。
中間報告には、2011年度までの事業実績が記載されている。そこから分かるのは、事業費の多くは、病院の施設・備品代、情報システム整備代、イベント代、講座代にあてられたということである。補助がなくても診療報酬で対応できるものや、切実性の低いものばかりであった。
結局、50億円もの交付金は、医師・看護師の養成にはまったく使われなかった。
千葉県における医療供給の阻害要因は、極度の医師・看護師不足である。事態を改善するには、医師・看護師の養成数を増やすしかない。養成数を増やさずに、公費を使って無理に特定の病院で医師・看護師を確保しようとすれば、他の病院の医師・看護師が奪われ、あるいは他の病院の医師・看護師を確保するための費用が押し上げられる。
千葉県は、極端な看護師不足にある。しかも、全国第2位の速度で高齢者が増加している。千葉県が2014年4月に発表した推計では、2025年には、14,000人看護師が不足する。看護師養成数は少なく、2009年、人口当たりの看護学生数は全国45位だった。同年、千葉県では看護師養成数が減少に転じたが、原因の一つは千葉県自体にある。2009年、千葉県立衛生短期大学、千葉県立医療技術大学校が再編整備され、千葉県立保健医療大学に改組された。結果として、千葉県による看護師養成数が1学年240人から80人に減少した。明らかな失政である。
◆医師・看護師を確保するには養成するのがベスト
2013年4月、千葉県から亀田医療大学に地域医療学講座の話が持ち込まれた。地域医療学講座の目的は、地域の医師、看護師確保である。
医師、看護師を確保するには、養成するのが最も有効である。
看護師については、資格を持っているにもかかわらず看護師として働いていない潜在看護師を再教育して復帰を促す方法がある。潜在看護師掘り起し事業は、すでに亀田総合病院の看護部が実施してきた。今後も継続する予定である。工夫を凝らして努力しているが、成果は極めて限られている。これは、全国的な傾向でもある。
亀田グループの2013年4月時点における看護師養成数は、亀田医療技術専門学校と亀田医療大学合わせて、1学年160人だった。2014年4月には館山市で安房医療福祉専門学校を開校させることになっていた。グループで年間200人養成することになる。ギリギリの経営状態の中で、看護師養成に多額の資金を病院から支出している(2)。最も効果的な補助金の使い方は県内の看護学校の経常経費に投入することであるが、千葉県は再三の要請にもかかわらず、これを拒んでいる。
医師確保についても養成するのが最も効果的である。我々は、メディカル・スクールの創設を働きかけてきたが、法律を変えない限り認められることはない。
養成できないとすれば、県外、あるいは、外国から呼ぶしかない。医師については免許の関係で、外国から簡単に招くことはできない。看護師については、亀田総合病院は中国、フィリピン、韓国から看護師を招いて、日本の資格を取得させるために費用をかけて教育している。
亀田医療大学で地域医療学講座の準備を進めていたところ、県内の教育機関から横やりが入り、亀田総合病院にこの話が回ってきた。千葉県は、地域の医師、看護師を対象に講演や講習を頻繁に行うことを期待していた。全国に働きかけなければ確保対策になるはずがない。2013年9月ごろ、亀田総合病院の亀田信介院長から、筆者と小松俊平経営企画室員に対し、地域医療学講座について、前提を捨てて考えるよう指示された。講座そのものの理念、方法から新たに考えることになった。
◆南相馬市立総合病院の医師確保
全国で医師確保対策が問題になっている。医師を確保するためには、その病院が医師にとって魅力的でなければならない。魅力とは、優れた卒後教育を提供していること、社会の要請に応えようとしていること、医師のやりがいと誇りを演出することである。特定の大学に支配されていないことも、全国から医師を集めるための必須条件である。魅力を提示できない場合、大学に多額の費用を支払って、寄付講座を設置し、そこから医師を病院に派遣するという方法がとられている。少数の医師を確保できるかもしれないが、他大学の卒業生の参入を減らす。大規模病院では必要医師数が多いため、特定大学だけに頼るのは自殺行為である。
筆者は南相馬市立総合病院の医師確保対策に関わってきた。亀田グループは東日本大震災でさまざまな支援活動を展開した。透析患者61人とその家族、病院職員を南房総に受け入れた。老健小名浜ときわ苑の丸ごと疎開作戦を立案し、利用者120人と職員50人をかんぽの宿鴨川に受け入れた。磐城共立病院の人工呼吸器装着患者8人を亀田総合病院に受け入れた。福島県社会福祉事業協会の知的障害者施設9施設の利用者約300人と職員100人を鴨川青年の家に受け入れた。南相馬市立総合病院に医師1人、リハビリ職員2人を派遣した。
南相馬市立総合病院(180床)は、12人いた常勤医師が震災後4人にまで減少した。桜井勝延南相馬市長、金沢幸夫院長に依頼され、筆者は、東京大学医科学研究所の上昌広教授、亀田総合病院の亀田信介院長と共に、医師確保策を立案、実行した。筆者は、公立相馬病院と南相馬市立総合病院を統合させて臨床研修病院にすることを提案した。統合は実現できなかったが、亀田総合病院が研修の足りない部分を補完するという条件で、南相馬市立総合病院は臨床研修病院に指定された。
医科学研究所の大学院生である坪倉正治医師は、内部被ばくについて科学的に調査し、世界に向かって発信し続けた。亀田総合病院から出向した原澤慶太郎医師が仮設住宅で診療を開始し、医学雑誌ランセットに報告した。根本剛医師が在宅診療部を創設した。東大の国際保健学チームが震災関連の情報を科学的に分析し、世界の学術雑誌に発信した。2015年4月に入職した4人の初期研修医の1人は、若い医師が活躍していること、価値がありいきがいの感じられる活動が行われていることをインターネットで知って応募した。2015年4月段階で、常勤医師数は29人になった。これほど成功した医師確保対策を筆者は他に知らない。
(2)につづく