臨時 vol 35 『安心と希望の医療確保ビジョン』第5回会議傍聴記 後
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~ 幹部官僚たちの前で舛添爆弾炸裂 ~
ロハス・メディカル発行人 川口恭
野中
「田上先生に伺いたい。日米で検診率に差があるということだったけれど、これは医師の問題なのか、それとも国民意識の問題なのか。坂本先生に伺いたいのは、看護師の療養上の世話というのは大事なんだと思うし、そこを本当は期待されているが、その部分はどうやって育むのか。また、看護師は責任を取りたいのか、取りたくないのか。看護協会の久常会長とお話をした時には『指示待ち看護師を減らしたい』とのことだった。平均在院日数を短縮したら入院患者が倍増したとのことだったが、スタッフの数が変わらないのなら病床を減らす、病床を減らさないのなら増員するということは考えなかったのか。堀内先生には、国民は本当はどこでお産をしたいと思っているのか、ということ。在宅医療の問題でも、患者さんは本当は住み慣れた家で亡くなりたいと思っていてもそれを受け入れる体制がない。助産師はどこまで責任を担えるのか」
田上
「費用の面と社会的意識の面と両方あると思う。米国の場合、歯科治療はほとんど保険でカバーされないので高い。従ってそうなる前にということで、美容院へ行くような感覚で歯科医院へ行き、その方が安くつくと捉えている。日本の場合トラブルがあっても安く治療を受けられる。文化的にも、米国は笑顔が重視される社会で、卒業アルバムなど見てもみんな白い歯を見せて笑っている。歯をケアするのが社会的常識となっている面もあるだろう。それから日本の場合には、診療報酬の問題もあって、検診から予防プログラムへとつなげるものが機能していない」
坂本
「責任については鶏と卵の関係で、負わなければ、いつまでもドクターの背中に隠れているような看護師が主流になってしまうだろう。ある病院で、看護師が誤薬をした時に、そこの副院長が『ドクターが責任取るからいいんだよ』と言ったのを横で聞いて、とてもビックリした。医道審では全部看護師の責任になっている。責任を取らなければ自立もない。スタッフの数に関しては、入院患者が増えた分外来患者を減らしてということは考えていたが、しかし外来も1日あたり2000万円からの収入がある。それを捨てられるかといったら、なかなか難しい。将来その方が楽になるから今は赤字でも構わないという病院ならできるだろうが、今日も稼げなければならないという病院にとっては目先の収益を追わざるを得ず、難しい。増員に関しても、全体の費用に占める人件費の割合を考えると、そんなに簡単には増やせない。何らかの政策誘導があれば話は別だろう。ベッド数を減らすのも、そのベッドがあれば得られる収益が目の前にある時には、とても難しい」
堀内
「たしかに、助産師がすべて責任をもと担いたいと考えているわけではなく、腰砕けになるグループもある。しかし助産師の場合には、開業している腹の据わった方々のモデルがあり、それを見て、だんだん責任のとり方を学んでいる。施設内の一人一人もプロセスを経て、学んで徐々に覚悟を決めていくのだと思う」
辻本
「学校教育の中で歯磨きを給食の後にできないものか。それから医療費の問題に関して、歯科では混合診療が進んでいるので、不明瞭だという相談をよく受ける。その辺説明不足ということはないか。組織の中でナースが副院長をやるのが当然とならないか。もう一つは一口にナースといっても、その受けてきた教育から意識から技術から様々な人がいて幅広い。本当に責任を取るということが可能なのか。有資格者が助産師として働いていないのも多いと聞く。これについてはどうするのか。それから、開業助産師が責任モデルだというお話だったが、協力医と連携することが義務付けられたが、連携できていない助産師もいる。その辺のピアレビューというか、どうやって監視しているのか。ハイリスクの妊婦さんに関して言うと、ドクターへの期待が非常に高い。ドクターが顔を出してくれないというだけで不満に感じてしまう。そう人たちも、助産師だけで完結できるのか」
田上
「歯磨きは低学年ではかなりやられて成果を上げている。もう少しやるなら保健体育の中でも教育ができればと思う。中学高校大学と進むと急に乱れて歯が悪くなるので。混合診療に関しては実際には限られたものしか認められていない。だから現場としては何をやっていいのか分からずビクビクしながらやっている。必然的に説明もなんだかハッキリしないことになる。さらに保険だと、削って詰めていくらということで、説明時間は費用にならないから、当然説明時間も短くなる。本当は1人30分くらいかけてやりたいが保険点数がそれを許さない。自費診療の人に対してはずいぶんと愛想よくなるはずだ」
坂本
「ナースが副院長をするというのは、視点が部門から病院全体になるので、どんどん進めたらよい。たしかに色々なナースがいるけれど、正規分布の橋端と端を見ても仕方ない。真ん中がどうか。現状で全員が責任を担えるかは分からないが、認定看護師、専門看護師として、ある程度の責任を与えるとモチベーションが上がるのは間違いない。もちろん責任を担わせるのは相応の教育が必要だが、可能か否かで考えるのでなく、あれだけの数がいる人々に責任を担ってもらわずにどうするのかという考え方が大事だと思う」
堀内
「働いていない助産師には復職支援プログラムを助産師会で実施しているけれど、乗って復帰する人は少数に留まっている」
辻本
「それはなぜ」
堀内
「たいていは家庭があって小さな子供がいてというケースなので、生活と仕事のバランスが取れないということ。連携医療機関が不十分なことに関しては、職能団体が働きかけている。東京のように搬送ネットワークがあるところは連携機関を探すのも容易だが、そもそも医療機関どうしのネットワークもちゃんとしていないようなところでは、かなり努力しないと難しい。三次施設がオープンシステムのような感じで研修なども行ってくれると、お互いが顔の見える関係になるので、病院にも行政にもネットワークづくりの橋渡しをお願いしたい。ハイリスク妊娠を助産師がやろうとは思っていない。むしろ、それ以外を整理し助産師が担うことで、医師をハイリスクに専念してもらおうということ。その分、ローリスクは助産師がやりますよというものをつくりたい」
矢崎
「大臣にお願いしたい。先進国では当たり前に行われているスキルミックスがわが国では極めて分限的だった。しかし、それを進めようとした時に、これまで現場からは『責任取れない』という声が上がるのが普通だった。今、お二方から『責任を取りたい』という極めて勇気のある発言があった。ぜひともサポートしていただきたい。ただし無条件に権限を与えるのでは、国民の納得は得られないであろうから、その教育研修システム構築もお願いしたい。私どももサポートしてまいりたい。そのうえで田上先生に伺いたいのは、歯科医師は医療行為に踏み込もうという意識はないのか、今後どういう方向で考えているのか」
田上
「歯科6年間の教育の中で隣接領域の医学教育の単位も取得している。全身疾患に対する投薬や歯科麻酔の研修もしている。口の中に関しては医行為を行っている。領域論になってしまうと話が進みにくいが、全般的なところまでは管理できる教育はしている。特に摂食・嚥下に関しては我々の責任が大きいだろうと考えている」
矢崎
「侵襲を伴うものはともかく、全身的な管理、麻酔のようなことは考えられないか」
田上
「まさにそうかと思う。歯科医院は郵便局より数が多いとも言われており、日常的な健康管理の面で役に立てることはあるだろう」
この時点で終了予定時刻が迫っていた。大臣が総括的にお礼でも述べて終わるのかと思ったら全然違った。そして、この後1時間近く延長して議論が繰り広げられることになる。
舛添
「いくつか問題を提起したい。それぞれの医療資格者が、どれだけの数いれば適正かというのは、どうやって弾いているのか。スキルミックスを何が阻害しているのか。厚生労働省の政策ではないという前提でうかがうが、それぞれの職能団体、ギルドが阻害要因になっていないか。看護協会のトップが『不倶戴天の敵は医師会だ』と言っているようでは、それで割りを食うのは患者だ。医師会は参議院に代表を出せていない。たった1人の代表を出せるか出せないか程度の団体どうしの関係性でスキルミックスができないというのは、甚だおかしい」
王様の耳はロバの耳。蔭ではみんなが言っていることだが、公的な場で聞くと感動を覚える。同じ参議院選挙で、業界代表と同じ土俵の比例区で圧倒的支持を得て当選した大臣ならではの自信かもしれない。
「歯科の予防義務化について個人的にはやるべきと思っている。私も母親の介護をやったので分かるが誤嚥性肺炎が実に多い。だから歯科医の往診があったらとは思った。一方で予防に保険適用した時にそれで飯が食えますかというのも聞きたい。
私も産婆さんに取り上げられた子供だが、国民の期待水準が高くなっていて、一流の病院じゃなきゃやっぱりイヤだという人が多いのでないか。介護でも同じことだが、イザという時にはここに搬送しますよというようなその次に来るものとの連携が取れていないと、すべての問題が連携にかかっているのかなという気がする。
大きな構造改革、労組のありかたにしても、日本の企業のすごさは、ハウス内労組で労使協調するところ。しょっちゅうストしているのはギルド。チーム医療をどうやって組み立てていくのだろうか。その解は本当の意味での地方自治だと思う」
田上
「10万人の歯科医がいるといわれ、これは対人口で見て、どの国と比べても多すぎる。患者さんから見れば歯科医院を選べる良い時代なのかもしれないが、歯科医院の経営は苦しい。本当に患者さんの役に立っていればそれは通じるということで良い歯科医が選ばれ淘汰が始まっているのだろう。とはいってもせっかく多額の公費を投じて養成した医療資源を無駄遣いするのもどうなんだろうか。今の受診傾向のままなら過剰である。しかし先ほども試算を示したように予防に動けば、1人あたり1000人からを担当することになり、その費用がたとえば1人1年1万円として最低1000万円。チェックしていれば治療も発生するので、検診・定期的ケアが標準になってくれば、歯がある限り仕事があり、なくてもそれはそれでまた仕事があると思う」
坂本
「職能団体がスキルミックスを妨げているのでないかとの指摘は置いておいて、私が指摘したいのは、看護師の数をどうするのかということ。今いる数を維持しようとするなら、高校生の7人に1人がならないといけない。数には無理が来ているのでないか。私自身が病院で感じていたのは、本当にいろいろな患者が来て、7対1の病院に来ていいのかというような、もう少し患者さんの形を整えなければいけないのでないか。そういった取り組みもされてはいるのだろうが、今はまだ発展途上でただ現場が疲れているだけだ。NTT病院の例で言えば、救急患者の8割は救急で来なくてもよい患者だと言う。そのトリアージを誰もしてない。自分で来てしまう。医療職の無駄遣いをしないように体制を整えたうえでないと、今ある形のままで何人と出すのは尚早。ニーズに合わせてスキルを整える。生活重視なら介護だけでなく看護師も連携する必要があり、医療と介護の境に関しても必要に応じて看護師が置かれていくべきでないか」
堀内
「職能団体が独自に動くというより、多職種連携の仕組みができないかなと考えている。同じ土俵に集まって作れないかと。長い間医師が偉くて多職種共同がなかなかうまくできていなかった。開業助産師が戦後間もなくのように復活するとは考えていないけれど、助産師にとって開業助産師があるというその存在が大切。連携してオープンシステムというか三次施設の傘の下に連携するようなシステムができるといいなと考えている」
さすがの坂本教授、堀内教授も、大臣の問題提起を受け止めきれなかったようだ。元よりそんなことは期待していなかったのか、大臣もアッサリ矛を収める。
舛添
「多職種共同は確かに素晴らしいのだが、病院内で医師がリーダーシップを取るべきなのか、行政が制度を変えたらいいのか、具体的なアイデアを教えてほしい」
野中
「坂本先生の病院の中での機能分化とスキルミックスをしっかりやっていただくということになるだろう。治療に埋没して、そのことがなかった。方向性は正しい」
矢崎
「名のある看護師というお話だった。認定・専門その方向で能力の高い看護師をどんどん養成していただくことが大切。そのための研修を看護協会独自にやっているが、医師も専門医は各学会でやっているけれど、それが国民に分かりやすいか、スキルミックスやる場合には役割分担を明確にしないと」
堀内
「保助看法変更まではいかなくても半歩前進するならば、認定看護師であればここまでできるというような解説書を厚生労働省から出してもらえないだろうか。違法でないと保証されることが大切だ」
坂本
「専門ナース、認定ナースはドクターから重宝がられている。患者さんにも頼りにされている。それでもなお、ナースはドクターの指示を受けないと動けないのかということがある。すべての指示をドクターが出す仕組みは疲労している。卓越した人にだけでも権限を与えてもらえないか」
舛添
「スキルアップがキャリアアップ、ペイアップにつながっているか。それがないとインセンティブにならない。米国でアシスタントフィジシャンが研修を積むと医師になれるようなキャリアアップと組み合わせて権限をどう付与していくのか考える必要がある。今の制度では難しいかもしれないが、やるならそこまでやらないといけない」
坂本
「ぜひ権限を与えていただきたい。それがキャリアアップにもつながる」
辻本
「認定ナースは今度から広告できるようになった。それなのに、病院のホームページを見ても、看護師の名前はおろか看護部長の名前さえ出ていないものが多い」
坂本
「ホームページの研究をして改善したい」
矢崎
「国立病院機構でも高い能力の看護師を育成しようと思っている。本当は僕らが学校法人を作りたいのだが、厚生労働省がウンと言ってくれないので、思いを共有する法人からプロポーザルを受けて、その課程には我々でデグリーあげよう、で、そうした看護師は国立病院機構では1ランク上に処遇しようということで考えているので、それがキャリアパスの一つの形態になる。それが一つのモデル事業になると思う。モデル事業やらずに全国一律は難しい」
舛添
「厚生労働省としても認める方向で検討を」
野中
「一番大事なのは連携なんであって、個人のスキルアップ、キャリアアップも結構だけれど、それが連携を妨げる方向に行ったら患者さんが不幸になる。地域の中で地域医療計画としてきっちり立てていく作業が必要。それが先ほどやり玉に挙げられた医師会としても、再生するには地域の中で地道に取り組まないといけないと思う」
舛添
「他に何かないか。陳情でも結構だが」
田上
「歯科の中でも歯科衛生士の業務範囲が問題になっている。熱心な人も多いし、4年制のカリキュラムも出てきた。欧米では予防に特化する形で開業できるところが多い。どこでも最初は歯科医師会が自分たちの権益が侵されると反対するのだけれど、やってみると結構うまく棲み分けている。歯科医の方では国家試験の不合格率が高くなっていて、不合格者の処遇をどうするのか、歯科衛生士として働いてもらう手もあるのでないか」
事務局
「西川副大臣より訊いておいてほしいと託されたことのうち、大体話は出たと思うのだが、院内助産所実現への課題を伺いたい」
堀内
「ローリスク部分を助産師が独立して行うには業務範囲を明確にすることが大切だ。そこがクリアされればできる。モデル的な病院では、入院時のインフォームドコンセントで、ローリスクの可能性が高い人に対しては『ローリスクで推移した場合には最後まで助産師があたります』と説明しておくと苦情が出ない、かえって安心したと言ってもらえているようだ。何より医師が『気が楽になった』と喜んでいる。会陰縫合など医行為の認められる『緊急的』の範囲をハッキリ出していただくことが必要だ」
(この傍聴記はロハス・メディカルブログ<a href=”http://lohasmedical.jp”>http://lohasmedical.jp</a> にも掲載されています)