医療ガバナンス学会 (2015年8月10日 06:00)
近年、少子・高齢社会の進展や医療技術の進歩により、看護師へのニーズが高まっている。看護内容が拡大するだけでなく、高度化してきている。実際の医療現場では、看護知識のアップデートが目まぐるしく行われるため、看護学生時代にならった内容が数年後には時代遅れになることも珍しくない。特に、褥瘡管理や院内感染への対応など、10年前の常識が平気で覆る。そのため、新しい知識をどんどん取り入れつつ看護を実践していき、看護師教育にも努め、医療チームとして向上していくことが重要だと考えている。しかし、日々の看護経験の中でそのように理解はしてきたが、これまで学びの場へ「行きたくても行けない」ジレンマを感じてきたのも事実である。
看護や医療に関する学会やセミナーなどは恰好の学びの機会になるが、大きな都市で開催されることが多いため、会津地域からの移動時間の長さが最大の難点である。さらに、十分に職場の理解が得られてはじめて、交代制の看護勤務の合間をぬってそういった学習の場に参加することができる。これは会津地域のみならず、地方で働く看護師の多くが経験するところだろう。日々の看護業務を経て、看護師としてさらにスキルアップを目指す場合には、資格認定制度(専門看護師、認定看護師)があり、特定分野での看護専門性を高めていくことになる。また、未来の看護師を目指す看護学生に様々な看護の基礎を教える学校教員の道もある。いずれの場合にも、通常は一定期間の休職をして通学することが必要であり、職場のみならず家庭の理解・協力が肝心であり、それらが得られずに断念するケースも多い。特に看護師不足の現状が、このような看護師のスキルアップや日々の学習環境における困難さに拍車をかけていると容易に想像できる。
全国的な看護師不足とは言われているが、毎年看護職員数は増えており、今や150万人にのぼり、働く女性の20人に一人が看護職という状況である。これには看護学校や看護学部の新設が相次いでいることも大きく関与している。そして、大学受験でも看護系の志望者がどんどん増えているという。あまり議論の中心になることはないが、看護学生の増加に対して、各学校で看護教員の確保に苦しんでおり、看護教員が増えないことには、これからの十分な看護師の増員もおぼつかないことになる。
看護師の高等教育化が先進国で最も進んでいるアメリカにおいても、看護師が不足しているために、臨床現場を離れにくくなっている。本来アメリカでは、クリティカルシンキングや臨床的な推論技術を持った有能な看護師が必要とされており、積極的に学士教育が進められ、さらに学士課程を教育する教員には修士号や博士号が求められている。そこで、休職をせずとも学習が進められ、かつ遠隔地でも利用できる教育法、すなわち通信教育が大いに活用されている。
日本でもこの看護教員不足を打開するべく、星槎大学大学院において看護教育研究コースが新たに設置された。通信教育で教育学修士を取得し、看護教員を目指すカリキュラムである。私はこの春よりその一期生として入学が決まった。入学式では同期学生の方々や指導教官と対面し、普段はICTを利用しながらレポート作成や看護研究の相談を行っている。従来の通信教育で陥りがちな孤独感もなく、新鮮な気持ちで学習を開始している。
先日、受講科目の対面式授業(スクーリング)があり、教育について同期生とディスカッションする機会があった。教育学専攻であるため、大学院生のほとんどは小・中・高校の現職教員である。中には現役の校長先生や発達障害の教育について学習している方々もいた。今まで看護教育にだけ焦点を当てて学んできたが、「教育」というカテゴリーから様々な職種の方々と交流し新たな発見も多かった。現職教員の方にとっても、私たちのような看護師の意見は違った視点からのもので新鮮さが感じられたとのことである。今回の入学で、新たな世界への歩みを実感している。
専門分野は様々だが、どんな職種にとっても「教育」「育成」という視点は対象者を助ける力となり、またその職種全体の質の向上と発展に繋がり、大きな価値がある。これから看護教育に視点を当てた研究に取り組み、看護師への教育の質を高め、患者さんへ安心できる医療が提供できる看護師育成を目指したい。
横山 絵美
福島県生まれ、看護師。2010年より一般財団法人竹田健康財団竹田綜合病院に勤務。救急外来・救急病棟担当とともに、医療安全、新人看護師教育、看護学生指導にも従事。