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Vol.173 事故調査の中立・透明・公正-中立性・透明性・公正性のパラダイムシフト-

医療ガバナンス学会 (2015年8月29日 06:00)


この原稿はMMJ 8月15日発売号より転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2015年8月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1.参議院厚生労働委員会附帯決議
10月1日から実施される今般の医療事故調査制度は、旧来の責任追及・説明責任・原因究明といった趣旨目的が削除され、もっぱら再発防止・医療安全の確保・自己学習をその趣旨目的とすることに、いわばパラダイムシフトした。医療事故調の典型もしくは体系が旧来型から転換したのである。
ところで、医療事故調査の際に重要なこととして強調される概念に、中立性・透明性・公正性といったものがある。これらの概念は、改正医療法が成立する際に、参議院厚生労働委員会において附帯決議の中で明示された。
「参議院厚生労働委員会附帯決議(2.医療事故調査制度について)」のイでは、「院内事故調査及び医療事故調査・支援センターの調査に大きな役割を果たす医療事故調査等支援団体については、地域間における事故調査の内容及び質の格差が生じないようにする観点からも、中立性・専門性が確保される仕組みの検討を行うこと。また、事故調査が中立性、透明性及び公正性を確保しつつ、迅速かつ適正に行われるよう努めること。」とされている。

2.中立・透明・公正もパラダイムシフト
前段の中立性・専門性は、支援団体に関するものとして言及された。特にそこでいう「中立性」とは、患者・遺族や社会を視野に入れた関係のものではなく、各種医療者や医療団体、各種専門分野や診療科などとの関係で、もっぱら医療界の内側における中立性を意味している。ただ、その点は支援団体だけに関するものなので、特に重要なものは、医療事故調査全般に通ずる後段であろう。後段こそが、「事故調査の中立性・透明性・公正性」を宣言した箇所である。
既に述べた通り、医療事故調査制度についてはその根幹が、旧来型の「原因究明・再発防止」から、今般の「再発防止」のみへとパラダイムシフトした。当然、これに伴って、中立性・透明性・公正性もパラダイムシフトしているのである。したがって、中立性・透明性・公正性を旧来型と捉えて固執していてはならない。

3.中立性のパラダイムシフト
そもそも中立とは、分離(切り離された所で、冷静な第三者性を確保)と公平(意見・立場の異なる人々に対するバランスのとれた支援)という相反する要請のバランシングをとることである。
これを院内事故調査に当てはめると、事故調査は院内の医療安全の確保・推進のためのものであるから、中立性の確保を患者遺族や社会一般との関係でのバランシングと誤解してはならない。これがパラダイムシフトした中立性において、特に注意しなければならないことである。
もっぱら院内での意見・立場の異なる人々(典型的には、たとえば管理者対当該医療従事者)の間のバランスやこれらの人々との距離感を常に計らなければならない。特に、外部の調査委員が前のめりになることは、中立性を自ら害することになってしまう。現に今までは、外部委員がその自らの思いを超法規的権威に基づく地位利用によって実現させようとして、自ら事故調査の中立性を害している例が、少なからず見受けられた。
つまり、外部委員が加わる際には、特にその外部委員は、あえて受動的・謙抑的に振る舞わなければならない。そうやって、分離しながら公平を保つよう、細心の注意を払って調節し続けなければならないのである。

4.透明性のパラダイムシフト
かつては、透明性というと、患者遺族や社会一般に対する透明性と捉えられていた。患者遺族・社会一般、時には警察にも、事故調査情報をオープンに提供する。その裏返しとして、院内の当該医療従事者に対しては事故調査情報を秘匿し、時には管理者たる院長に対してさえも秘匿しておく。そのいわば院外には透明化して情報共有、院内には情報を遮断して秘匿する。そのような取扱いが、「透明性」と捉えられて来た。
しかし、院内の再発防止や医療安全の確保・推進を目指しながら、院内には情報を秘匿するというのは、背理である。つまり、再発防止や医療安全の確保・推進を目的とする以上、何よりも先ず、当該医療機関内において、管理者と当該医療従事者とが調査情報を共有しなければならない。事故調査の透明性は、当該医療機関内において、管理者も当該医療従事者も事故調査情報を共有することによって確保されなければならないのである。
そして、逆に、院外に対しては秘匿性を守るというのが、WHOドラフトガイドラインにほかならない。したがって、両面を合わせれば、医療の「内」側には「透明性」、医療の「外」側には「秘匿性」が大切なのである。これこそ、透明性のパラダイムシフトと呼んでよいであろう。

5.公正性のパラダイムシフト
事故調査の公正性というと、かつては、責任追及・原因究明・社会的責任が強調されていたので、責任認定や責任分担の公正性という意味合いが濃かった。もちろん、医学的・科学的な合理性という意味での公正性でもあったが、責任問題における公正さが強調され過ぎていたのである。
しかし、もっぱら再発防止や医療安全の確保・推進というようにパラダイムシフトしたのであるから、公正性の概念に責任問題の要素が入り込むのは当を得ない。
したがって、事故調査の公正性は、特に説明責任や社会的責任・法的責任の観点を徹底的に排除して、もっぱら医療安全の観点から医学的・科学的に調査を実施することによって図られなければならない。裁判の如き責任の認定の公正と誤解してはならないのである。
こう考えると、パラダイムシフトした公正性の下においては、弁護士らの法律家や患者代表といった有識者は、調査委員として不適格という結論になるであろう。

6.パラダイムシフトした院内調査を
10月1日の施行が目前である。旧来型の指向に留まっている医療者・医療機関は、中立性・透明性・公正性に対する認識を転換し、パラダイムシフトした院内調査の体制に整え直していくべきであろう。

http://expres.umin.jp/mric/mric_20150825.pdf

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