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Vol.264 医者にも経営意識が必要、チャンスは東北地方に眠っている

医療ガバナンス学会 (2015年12月22日 06:00)


仙台厚生病院 森田麻里子

2015年12月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

昨今、有名な大規模病院の経営危機が囁かれるようになっている。8月の朝日新聞では、千葉大学医学部附属病院や千葉県鴨川市の亀田総合病院の窮状が報じられた。消費税増税の後も、それを補填できるほど診療報酬は増加しておらず、実質的に減収となっていることが病院経営に悪影響を及ぼしているようだ。

一方で、これまで医師がお金のことを考えるのはタブーであった。
医学部で病院経営を考えて診療をするように教えられた記憶はない。医学生は、大学時代にアルバイトをしても家庭教師などの狭い世界に留まることが多く、社会との接点が少ない。大学を卒業すると、研修医として朝から晩まで診療を行う。亀田総合病院は、実は私が研修医として勤務していた病院だが、私も目の前の患者のために最善を尽くすことをまず考えて診療を行ってきた。命は何よりも大切であり、お金などといった下世話なことを考えないのが美徳である、という雰囲気が、病院にはある。

しかし本当に残念なことだが、どんなに素晴らしい診療をしていても事業を維持できなければだめだ、という現実は社会人として勉強になった。

■仙台厚生病院のコスト意識
私が現在働いている仙台厚生病院は、2013年度の利益率が16.5%と、医療法人でトップになった病院だ。昨年度に就職して驚いたのは、病院全体のコスト意識の高さだ。

例えば、厚生病院アワードというイベントが年一回開催されている。病院の業務改善の試みとその具体的な結果を、事務も医師看護師も含め、全職員がレポートで提出するのだ。提出は任意だが、提出するだけでも年度末のボーナスが増額される。さらに一次、二次審査を通過したグループは、レッドカーペットが敷かれたホテルでのプレゼンテーションに招待される。そこで理事長が最優秀賞を選定し、上位受賞者には豪華賞品が手渡されるという一大イベントである。過去には、適切な点滴セットを使用することでコスト削減に繋がった事例や、事務スタッフによる患者説明を充実させることで医師が手術や投薬の業務に集中できるようになった事例が入賞している。

昨年度末には、理事長から全職員に向けて、パワーポイントファイルが配信された。業務向上のため「乾いた雑巾を絞る」ような努力を求めるという内容で、ボーナスを受け取る際に閲覧することが義務付けられた。なかなかのインパクトであったが、病院の業績がボーナスに直結しており、それは一人ひとりの努力に依っているという当たり前の事実を実感させる出来事だった。

■柔軟な理事長の姿勢と、人への投資が成果を生んでいる
一方、人への投資は惜しまない。今年の2月から若手医師の教育に力を入れるため、各診療科の若手医師を集めたプロジェクトチームを発足した。他の病院を視察に行き、研修医の就職説明会に若手を派遣して地道な勧誘を強化した。当院の見学に来た医学生とは、可能な限り全員と夕食を共にし、病院の良さを知ってもらうようにした。

その結果、病院の知名度が上がり、9月までに100名以上の見学者が押し寄せた。採用面接受験者もここ数年で最多であり、初期研修の採用内定者は昨年の2人から4人に倍増した。こういった成果が出てきたのは、必要な費用や院内の調整も含め、目黒泰一郎理事長の全面的なバックアップがあってのことだ。通常、病院のトップが若手医師の意見を聞いて方針を決めるようなことはあり得ない。私達若手医師にとっても、理事長と直接意見を交わし、病院のプロジェクトの一旦を担うことができる、貴重な機会となっている。

■東北に眠っているチャンス
それではなぜ、仙台厚生病院ではこのような投資が可能なのだろうか。コスト削減といっても限界があるだろう。実は、これは立地と関係がある。医療の価格は全国一律だが、土地代や人件費は場所によって随分違う。東北地方は他の地域と比較して、有利な立場にあるのだ。東北で働く医師は少なく、医師さえいれば事業をさらに拡大できるチャンスがある。そこで人的投資を行い、さらに成果がでるという良い循環が生まれているのだ。

■医者も社会における医療の価値を考える時代に
高校時代、通っていた塾の先生が朝日新聞「私の視点」のコピーをくださった。金沢大学名誉教授・河崎一夫先生による2002年の寄稿である。「医学を選んだ君に問う」と題したこの文章の中で、河崎先生は目の前の患者を助けること、医学研究に打ち込むことが医師の歓びだと述べていた。私は心打たれ、医学部を目指し受験勉強に邁進した。

しかし時代は変わり、医療を持続的に提供できる体制を作ることもまた、医師の重要な仕事になった。病院が倒産したら、困るのはその地域の患者さんだ。医療費が元で日本が潰れてしまったら、それこそ本末転倒である。

これは、もはや病院の経営者だけが考えれば済む問題ではない。医師一人ひとりが、社会における医療の価値とはどれほどのものなのか、謙虚に考えていくべきだ。

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