医療ガバナンス学会 (2016年1月18日 06:00)
そうした中、健康影響を少しでも防ぐため、私が働く南相馬市立総合病院では、及川友好副院長が中心となり、継続的に健康講話と健康相談が行われている。8つの仮設住宅を隔月で1回ずつ、診察の終わった午後7時〜午後8時の1時間講話を行い、終了後に健康相談を行う。2013年以降は毎年テーマを決めて行っており、2013年はメタボリックシンドローム、2014年はロコモティブシンドローム、2015年は認知症だった。始まったのは2012年7月で現在述べ136回行われ、述べ1465人が参加してきた。
私は及川医師とともに震災から4年4ヶ月後の2015年7月、住民の方々の健康状態の知るため、住民の協力の下、110人に対して仮設住宅での採血検査とアンケートを用いたヘルスチェックを行った。
その結果、多くの仮設住宅の住民において、生活習慣病をはじめとする問題を抱え、治療を必要としていることがわかった。協力いただいた方の平均は72歳であり、男性比率は27%であったが、生活習慣病の罹患率は軒並み高く、高血圧73.6%、糖尿病18.1%、脂質異常症45.7%、慢性腎臓病56.0%、認知症12.8%、貧血36.1%、うつ病5.6%だった。
骨粗しょう症が強く疑われるのは5.7%であった。厚生労働省のデータ(平成23年国民健康栄養調査報告)と比べても、どの疾患も同程度、もしくは高い値となる傾向であることがわかった。実際に震災前小高区在住に家庭菜園を行っていた方で震災後体を動かす回数が減ってしまい糖尿病が悪化したといった声も診療で聞いたことがあった。もうそろそろ震災後5年近くとなるが、多くの仮設住宅の住民が医療を必要としており、4年弱にわたり健康講話と健康相談を行ってきたが、今後も継続してケアを行う必要があると考えている。
加えて、メンタルヘルスに対してK6というものを用いて評価した。6つの質問に答え0点から24点で評価するものである。K6が13点以上の場合、うつ病の可能性が高いと考えられる。結果13点以上のうつ病のリスクが高い方は5.6%で、以前の平成25年の福島県の県民健康調査では24.8%であり、それと比べると低くなっている。しかし、K6が5以上の人の割合は50%で、震災前の平成23年の25%というデータと比べると高いままだった。実際に仮設住宅で仮設住宅の生活に疲れたり、介護疲れであったりで心療内科にかかっているという声も聞くことがある。
詳しくみると外出が多い人や離れて暮らしている子どもに愚痴を言う機会がある人、地域に愛着がある人がK6のスコアが低く、誰かと一緒に住んでいる人と、この地域の人はお互い助け合うと思っている人がK6のスコアが高かった。つまり、仮設住宅の外に繋がりがない人の方が、うつ病のリスクが高いということが分かった。やはり仮設住宅の外にいろいろ溜まった鬱憤を吐き出すはけ口があることはメンタルヘルスにいい影響を与えるのかもしれない。そして、誰かと一緒に狭い仮設住宅に暮らさなければならないことは逆にストレスになるし、地域の人々が多くの場合人の役に立とうとすると思っていることは逆に自分も役に立たなければならないという圧力になってしまったのではないだろうか?
いずれにせよ仮設住宅内外での住環境や人間関係が大きくメンタルヘルスに影響していたことは明らかだ。当院の小鷹昌明医師が主催する男の木工などは仮設住宅の中と外をつなぐような役割を果たしており、そう言った仮設住民が入れるコミュニティを多く地域に持つことが重要でないかと考えている。
既に放射線による被ばく量は低く、今回の震災では環境の変化が生活習慣病やメンタルヘルスに影響を与えたのだろう。今回のヘルスチェックの結果を考えるときちんと生活習慣病を診断し、医療をしっかり受ける事と仮設住宅の外と関わりを持つ事が重要であると考えられる。加えて仮設住民が中だけで塞ぎ込んでしまわないように外部との関わりを持てるような仕組みを積極的に作る必要があるのではないかと考えている。