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Vol.031 規模の大きさや診療科目の多さは、患者に取っての本当のメリットではない ~大切なのは専門分野の知識と経験をどれだけ持っているかである

医療ガバナンス学会 (2016年2月1日 06:00)


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※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45670

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

2016年2月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2016年、私が診療を行っている全国最大級のメディカルモールである「武蔵浦和メディカルセンター」(埼玉県さいたま市)は10周年を迎えます。2006年のオープン当初は7件だった入居クリニックも11件まで増え、利用して下さる方も毎年増え続けています。
複数のクリニックを1カ所に集めるメディカルモールという形態は全国に数多く作られました。しかし、業界大手の「日本複合医療施設」(メディカルコンプレックスシリーズを運営)が2010年に倒産したのをはじめ、今は存在していない、ないしは眼科(コンタクト販売)と歯科だけが残り、メディカルモールとはいえない施設も多くあります。

実は、規模の大きさや診療科目の多さは患者にとって、ほとんどメリットはありません。
クリニックが継続して利用し続けてもらえるかどうかは、医療提供者が優れた治療を提供できるかどうかで決まります。いちばん大事なのは、各診療科が経験と専門知識をどれだけ持っているかなのです。
そのため、武蔵浦和メディカルセンターでは、オープン時の宣伝広告に 広告代理店が当初提示した「全ての診療を引き受ける“かかりつけ医”」のような表現をあえて前面には使いませんでした。その代わり用いたのが、「あなたにぴったりの専門家医師が見つかる」というキャッチコピーです。
専門に特化した施設を作ることで評判が良くなり、利用者がふえれば、診療改善への投資コストがまかなわれ、さらに経験が蓄積され、ますます効率も向上する──。このようなサイクルを回すことこそがメディカルモール成功の鍵であったと私は考えています。
狭い地域で診療科目を過剰にそろえようとする方針は、コストが見合わないものになりがちです。おまけに全てを提供しようとすると、結局は“悪くはないが優れてもいない”医療を蔓延させるだけになってしまうのです。

●共用設備による効率化は限られたものだった

メディカルモールが乱立していた時代には、クリニックを1カ所に集めてレントゲンやCTや血液検査などの設備、また、受付予約などの医療事務業務を共同にすれば医療の効率化が進むという考え方もありました。
しかしながら、予約受付や会計レセプトなどの医療事務作業の効率化は、インターネット・電話自動予約システムや電子カルテ、オンラインレセプト請求システムなどの普及によってほぼ達成されてしまいました、
ですから、複数のクリニックで医療事務作業を共同にするコストメリットはもはやあまりないのです。むしろ、外注する分割高になり、それが反映されたメディカルモールの高額賃料が逆にデメリットになっているとも言えます
実際に、日本複合医療施設が倒産した原因は、共同受付などによって高額になった賃料に対して入居クリニックが集まらなかったことによるものでした。
CTやMRI、迅速血液検査装置などの高額医療機器も、複数のクリニックが共同で使う程度では十分な件数が集まらず、コストメリットはありません。武蔵浦和メディカルセンターが入居するタワーも、迅速血液検査やCTやMRIの機器購入・運営コストはクリニック7件では採算が取れないことが判明し、 検査機器設置予定区画は保育園に変更となりました。CTとMRIの検査専門施設は、その後、2009年にメディカルスキャニング社により武蔵浦和ではなく 大宮にオープンしています。

●全てを提供しようとすると“そこそこ”の医療が蔓延する

もしも、武蔵浦和メディカルセンターが“専門施設の集まり”というコンセプトではなく、“ほぼ全ての疾患をワンストップで診療することが可能な施設”を目指していたらどうなっていたのでしょうか?
まず、患者をどこで診療するかの調整に労力を使うことになります。例えば、内科・胃腸科・小児科においては診療する範囲がオーバーラップする部分があります。花粉症ならば内科・耳鼻科・眼科のどの科目でも対応可能です。
また、どこで診察を受けても大差ない医療を行わざるを得ず、専門診療を深めることができなかったはずです。
CT・MRIも、専門の放射線技師・医師と組み合わさってこそ質の高い撮影と診断ができるのです。私のいる武蔵浦和メディカルセンター内にCT・ MRIを設置した場合、機器維持コストを捻出するのに精一杯で、検査技師や専門放射線医師のコストまではとても手が回らなかったでしょう。
大宮にCT・MRI専門撮影施設をつくることで、移動時間が多少かかるにせよ、専門技師と専門医師のもとでの質の高い検査を利用者は受けることができるというわけです。
全てを提供することを目指す方が耳障りは良いかもしれません。でも、実態として、それは、“悪くはないが優れてもいない”医療を行い続けることになっていたのではないかと私は考えます。

●分野を絞ってこそ低コストで質の高い医療を行える

武蔵浦和メディカルセンターが専門家集団として、頭痛専門外来・認知症専門外来を行ったり、ポリオの不活化ワクチン(※)を大量に個人輸入して接種したり、大学病院を超える件数で胃と大腸の内視鏡検査を行ったり、美容ドクターコスメを開発したりすることは、儲かる得意分野のみを行う“いいとこ取り の医療”と思われるかもしれません。実際に、そのように言われることもありました。
(※ 当時、日本で行われているポリオの経口生ワクチンはポリオを発症させてしまうことがあったため。2012年以降は日本でも不活化注射ワクチンに変更された)
しかしながら、狭い地域内だけでなく地方全体から、さらには全国から利用者を呼び寄せられる医療機関を作ることは、専門得意分野に特化して、それをさらに伸ばすことによって初めて可能になるのです。
2016年4月の診療報酬改定は大枠で全体1%引き下げ、医師、歯科医師、薬剤師の技術料部分、いわゆる診療報酬本体については約0.5%の引き上げで決着しました。
技術料本体がマイナスにならなかったことは喜ばしいのでしょうが、これを機会に、本当にコストに見合った質の高い医療を提供できているのかが検討されるべきだと思います。
武蔵浦和メディカルセンターのこの10年間のやり方は、低コストで質の高い医療を行う1つの解決策として通用することが証明できたのではないかと考えています。

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