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Vol.160 社会的共通資本の実現に向けて

医療ガバナンス学会 (2016年7月14日 06:00)


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内科医 占部まり

2016年7月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

初めまして。 内科医の占部まりと申します。

唐突ではありますが、社会的共通資本という考え方をご紹介いたしたく、投稿させていただきました。

私の父は、宇沢弘文という経済学者でした。サンタクロースのような髭をたくわえた独特の風貌で、どこかで見かけた方もいらっしゃるかもしれません。2014年9月18日に86歳で亡くなりましたが、人々が幸福に生活をするために経済学という学問がどのようなことができるかを考え続けた生涯でした。幸い、死後も多くの方に共感していただけているようで、著作も地味に再販を重ねています。誰でも共感できるようなことを、数理経済学の基盤を持って主張しているのが支持されているのかもしれません。

私は、地域に密着した医療を目指して臨床医として過ごしてきました。数学や経済学は全くの門外漢ですが、医療が社会的共通資本として守られなければならないという意味や重要性が実感として身にしみてきました。必要な時に的確な医療を受けられることが、どんなに大切なことか、
心に留めながら日々精進しています。社会の持続的発展成長には欠くことのできないものです。

父が主張した社会的共通資本とは、人々が豊かな生活を送るための基盤です。それは市場原理に乗せてはいけない、国もしくはそれに準ずる機関が保護していくべきだとしています。そして、それは決して官僚的に管理させてはいけないと繰りかえし述べています。教育や医療といった生活になくてはならないものは、利潤を求める資本主義の中に組み込まれると、その本質が見失われてしまうと父は考えていました。医療が社会に合わせるのではなく、社会が医療に合わせるべきだ、主張していました。もちろん、その医療を行う集団はプロフェッショナルであることが必要条件となっています。専門集団が必要と認めた費用はすべて、公的もしくはそれに準ずる機関がまかなうようにする訳です。医師、看護師、薬剤などの諸々を経費として計上し、それを維持していく費用を公的なもので維持するという考え方です。専門家としての医師が、必要とした医療はすべて認めようということなのです。もちろんその専門家は高い倫理観と知識を持ってその集団を運営していかなければなりません。

父は数理経済学者の立場から、社会的共通資本を保護しても経済が回っていくことを示しました。保護することで、格差も狭まることでしょう。ただ、国が主導して制度を整えていくようになるにはまだまだ時間がかかると思います。ですが、我々医療集団はその専門性をいかに高めていくかということを社会に提示することはできるのではないでしょうか。社会的共通資本としてとして医療が、一般の人々から信頼を得るために、どのようなことをしていくかを考えることが必要ではないかと感じています。医療費の制約がない場合、どのような医療が理想なのかを考え、それに必要な教育、環境をどのように整えるべきか、医療の専門家が提示することで社会的共通資本として認められる道筋ができていくと考えています。

上昌広先生とご縁をいただき、今後定期的に勉強会などできればと考えています。

最後に岩波新書の「社会的共通資本」のはしがきを載せます。ご興味のある方は是非、現物を読んで頂けましたら幸いです。拙文にお付き合いいただきありがとうございました。
はしがき

二十世紀は資本主義と社会主義の世紀であるといわれている。資本主義と社会主義という二つの経済体制の対立、相克が世界の平和をおびやかし、数多くの悲惨な結果を生み出してきた。この二十世紀の世紀末は、19世紀末と比較されるような混乱と混迷の最中にある。この混乱と混迷を超えて、新しい二十一世紀への展望を開こうとするとき、もっとも中心的な役割を果たすのが、制度主義の考え方である。

制度主義は、資本主義と社会主義を超えて、すべての人々の人間的尊厳が守られ、魂の自立が保たれ、市民的権利が最大限に享受できるような経済体制を実現しようとするものである。制度主義の考え方はもともと、ソースティン・ヴェブレンが、十九世紀の終わりに唱えたものであるが、百年以上も経った現在にそのまま適応される。社会的共通資本は、その制度主義の考え方を具体的な形で表現したもので、二十一世紀を象徴するものであるといってもよい。

社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。

社会的共通資本は自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の三つの大きな範疇にわけて考えることができる。大気、森林、河川、水、土壌などの自然環境、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの社会的インフラストラクチャー、そして教育、医療、司法、金融制度などの制度資本が社会的共通資本の重要な構成要素である。都市や農村も、様々な社会的共通資本からつくられているということもできる。

社会的共通資本が具体的にどのような構成要素からなり、どのようにして管理、運営されているか、またどのような基準によって、社会的共通資本自体が利用されたり、あるいはそのサービスが分配されているかによって、一つの木にないし特定の地域の社会的、経済的構造が特徴付けられる。

本書では、まず社会的共通資本の考え方とその役割を説明する。そして、社会的共通資本の考え方が、経済学の歴史のなかで、どのように位置づけられてきたかを考える。さらに、社会的共通資本の重要な構成要素である自然環境、農村、都市、教育、医療、金融といった、個別的な事例を取り上げて、それぞれの果たしてきた社会的、経済的な役割を考えるとともに、社会的共通資本の目的がうまく達成でき、持続的な経済発展が可能になるためには、どのような制度的前提条件がみたされなければならないかを考えたい。

本書が、日本が現在置かれている世紀末的混乱と閉塞とを乗り超えて、新しい世紀への展望を開くために、何らかの役に立つことができれば、著者にとって、望外のよろこびとするところである。

2000年8月
宇沢弘文

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