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Vol.169 中国全体と上海市の免疫プログラム比較

医療ガバナンス学会 (2016年7月23日 06:00)


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この原稿はハフィントン・ポストからの転載です。

http://www.huffingtonpost.jp/zhang-qian/compare-vaccine-policy_b_10982252.html

上海市嘉定区疾病コントロールセンター
公衆衛生専門医 張倩

2016年7月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ワクチンは、人類の疾病との闘いの歴史において、その開発の一つ一つが社会全体に影響を及ぼすという役割を果たしてきました。ワクチンの接種は、世界的に広く認められた、最も経済的で利便性が高く、且つ最も有効な感染症予防及びコントロールの手段になっています。国レベルでの免疫プログラムの実施は、国民の健康保障及び一人当たりの寿命の増加に対して大きな役割を果たしています。

中国では、1978年に小児へのワクチン接種普及活動が実施され始め、3年内に全国で計画的なワクチン接種の実施が求められました。BCGワクチン、小児麻痺 (ポリオ) ワクチン、麻疹、百日咳とジフテリア・破傷風二種混合ワクチン(DT)を接種することにより、結核、ポリオ、麻疹、百日咳、ジフテリアと破傷風の6種の高頻度の感染症が予防されるようになりました。2002年から国務院は、新生児へのB型肝炎ウイルスワクチン接種を免疫プログラムに盛り込みました。国家免疫プログラムに含まれる範囲は、さらに5種類のワクチンに拡大され、7種類の感染症も予防されるようになりました。

免疫プログラムの継続的な発展に伴い、2007年には国レベルでの免疫プログラムの範囲が拡大され、6種類の基本的な国家免疫プログラムワクチンに加え、従来型から改良した無細胞ジフテリアワクチン、A型肝炎ワクチン、流行性髄膜炎ワクチン、B型髄膜炎ワクチン、新三種混合ワクチン(MMR)が国家免疫プログラムに盛り込まれ、適齢期の児童に対しては無料で定期接種が行われています。

上海は、中国の経済及び金融の重要な中心であり、世界的にも規模や面積が最大の都市の一つです。上海市の免疫政策は、基本的な国家免疫プログラムに加え、やや異なる点があります。そこで、小児の免疫プログラムワクチン、第二類ワクチン接種及び成人のワクチン接種という三つの観点から比較、解説を行います。

1. 小児免疫プログラムにおけるワクチン
上海市では、国レベルの免疫プログラムによる基本的なワクチンに加え、満4歳の児童に更に新三種混合ワクチン(MMR)を接種しています。2008-2015年の上海市免疫計画ワクチン報告によると接種率は99.50%以上でした。国務院から発布された《衛生事業発展「十二五」計画》では、2015年に全国の市町村単位で、適齢期の小児国家免疫プログラムワクチン( National Immunization Program Vaccines,NIPV) の接種率の90%以上という達成目標が掲げられています。

当目標の実施進捗状況を検討するために、2013年に全国32省における市町村単位での適齢期の小児NIPV接種率に関し多段階での抜き取り調査を行われています。調査の結果では、全国から抽出された1073市町村の中で、8 種類のNIPV予防接種率90%以上が達成された市町村の比率は75.4%でした。北京、天津、河北、黒龍江省、吉林、遼寧、上海、江蘇、江西、河南、海南では、8 種類のワクチン接種率90%以上が達成された市町村の比率は90%以上にまでなりました。

調査では、北京、天津、黒龍江省と上海のすべての市町村が調査されています。内モンゴル、安徽等8省では、8種類のワクチン接種率90%以上が達成された市町村の比率は80%以上でした。同様に山西、浙江等6省での比率は60%以上でした。一方、湖北、広東等7省では、7種類のワクチン接種率90%以上が達成された市町村の比率は60%未満になっています。中でも、チベット自治区においては、7種類のワクチン( チベット自治区などでは通常日本脳炎の接種は行わない)の接種率90%以上が達成されたのは僅か9.4%の市町村に過ぎません。

以上のように、中国の一部では基本的なワクチン接種の接種率が極めて低い地区もありますが、それらと比べ上海市のNIPV接種率は高いレベルを有していることが示されています。上海市の拡大免疫プログラムが高レベルの接種率を維持していることは、政府による財政政策の実行が保証されており、免疫予防に関わる専門人員チームが安定していること、予防接種を実施する診療所の構築、及び予防接種サービスが適切に配備されている事実を示していると言えるでしょう。

2.第二類ワクチンの接種
第二類のワクチンとは、自費且つ自らの意思で任意に接種を受けるワクチンを指しています。上海市では、無料のNIPV接種の提供を除き、地元の疾病の流行状況及び市民の健康のニーズに応じて、第二類ワクチン接種サービスも同時に提供しています。

提供される第二類ワクチンの主な種類には以下のものが含まれています、B型肝炎ワクチン、 不活化小児麻痺(ポリオ)ウイルスワクチン、無細胞ジフテリア・破傷風二種混合ワクチン-インフルエンザ菌b型複合型ワクチン、無細胞ジフテリア・破傷風二種混合ワクチン-不活化小児麻痺(ポリオ)ワクチン-インフルエンザ菌b型複合型ワクチン、不活化流行性B型脳炎ワクチン、A群及びACYW135群髄膜炎菌多糖体ワクチン、インフルエンザ菌b型多糖体結合ワクチン、水痘弱毒化生ワクチン、ロタウイルス弱毒化生ワクチン、  インフルエンザワクチン、23価肺炎球菌多糖類ワクチン、ヒト用狂犬病ワクチン、コレラワクチン等。

2013年、全国の第二類ワクチンの平均接種量が1万人あたり690.48剤であり、上海市の中では最高で1万人あたり2670.21剤を超えていました。2014年の全国平均接種量は1万人あたり783.31剤であり、上海では接種量が最も多く、1万人あたり3149.04剤に達しています。一人当たりの第二類類ワクチン使用量は、最も多い上海市と比較すると、2013年に最も低かった青海省の24倍、2014年に最も低かった遼寧の19倍も高い数値で、社会経済の発展レベルによる影響が大きいことが示されています。

3. 成人のワクチン接種
ワクチンは小児だけ接種が必要という訳ではなく、成人でも接種が必要です。特に、一部のワクチンは非常に重要なことに注意が必要です。上海市では、2013年から全市を対象にで重点的な公共衛生サービスプロジェクトとして、「60歳以上の高齢者への肺炎球菌ワクチン接種」を実施しています。政府による全額負担により、市民の任意接種での方式で成人の予防接種を押し進めています。

このプロジェクトに選ばれている23価肺炎球菌多糖体ワクチンは、非常に実績のあるワクチン製剤であり、世界100カ国以上で30年余り継続的に使用されて、有効性、安全性とも十分に検証されたものです。当該ワクチンの接種後、高齢者の肺炎球菌感染症が有意に低下することが示されています。一部の研究結果では、当該ワクチン接種後、ある程度呼吸気慢性疾患の症状も改善されるので、高齢者及びその家族の疾患による経済的な負担も有効に軽減できるとされています。

ワクチン接種プロジェクト開始後3年間で、全市において約110万人の接種対象の高齢者がこの恩恵を受けました。上海市疾病予防管理センターによる接種後の効果の評価状況では、高齢者集団における大規模な当ワクチンの接種が疾患を有効に予防し、かつ安全性と信頼性を有していることが示されました。さらに公衆衛生の向上のため小児の予防接種も協力して実施し、規定された拡大NIPV接種を遂行し、加えて、状況に応じた自費でのワクチン接種も引き続き勧奨されています。もう一方では、成人の予防接種にも多く注目が集まるよう公衆に呼びかけられています。これらにより、できるだけ早く高齢の両親を連れて肺炎球菌ワクチン接種し、高齢者が疾病の苦痛から逃れられるよう、また、家庭で軽視され易い高齢者の関心を高めるよう取り組みが進められています。

上海市は、毎年1000万剤に及ぶワクチン接種を通じて、ワクチン接種率を向上させ、ワクチンで予防可能な疾患を有効にコントロールしています。各ワクチン製剤の安全且つ有効な接種を保証する為に、上海市では予防接種の全プロセスの管理に着目しています。その中で、予防接種機関のレベルに対して認証、査察を実施し、予防接種スタッフのトレーニングとコミュニケーションのチェックも定期的に実施しています。市レベルでも、統一的なワクチン発注及び配送プラットフォームを構築し、全プロセスでのコールドチェーン監視システムを実施し、加えて、配送に関連する実時間の監視も段階的に実施しています。児童予防接種情報管理システムを構築し、加えてデジタル化サービスの試験的導入も始まっています。流行性疾患発生調査の処理及び予防接種副反応シミレーション処理をモデル化し、日常のモニタリングを重視し、「両親教室」等の形式で予防接種の広報を広く展開することも行われています。

同時に、上海市における予防接種に特有の問題として転居などに伴う児童の流動性が大きいので、免疫予防を実施が難しい面があります。加えて、予防接種スタッフの業務負担が過重となっており、予防接種副反応などに伴う事故処理が困難である等が問題となっています。免疫予防のサービス品質を更に向上させる為に、行政の参画を一層強化し、多部門の連携も充実される必要があると考えています。

張倩:
上海市嘉定区CDC(感染症予防コントロールセンター)
予防接種プログラム部門公衆衛生医師
2006年華北煤炭医学院卒
2010年北京協和医学院卒、M.D.
中国での麻疹流行状況などの研究に従事、上海健康科学研究所で教鞭も執る。専門は感染性疾患の疫学や予防接種

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