医療ガバナンス学会 (2016年8月31日 06:00)
一般財団法人厚生会仙台厚生病院
心臓血管センター循環器内科 西願 誠
2016年8月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
後期研修医とは、おおまかに医学部卒後3〜6年目の医師を指す。二年間の初期研修を終え、循環器内科や脳外科などの専門的な診療に従事する。
この時期の医師には大きく分けて2つの進路がある。ひとつは大学病院の医局に席を置き、医局人事に沿って仕事を行う人たち。もうひとつは市中病院で働き、そこでキャリアアップを行う進路だ。前者は医局の設定したプログラムに則り、関連している病院で働き修練を重ねる。医局員であるため、大学が自身の身分を保証してくれ、また大学が専門としている研究に従事し、専門性を高めることが出来る。
しかしながら、大学の専門としていること以外の分野に関してはやや手薄になりがちであり、また大学の人事に大きく左右されるため、数年毎に働く病院が変わる可能性がある。一方、市中病院の一番のメリットは自分で働く環境を選ぶことが出来るということだ。自分の興味のある分野を専門としている病院を自由に選ぶことができる。しかしながら、大学と比較して将来性は確約されてはおらず、大学に所属することに比べ不安定といえるかもしれない。私は後者を選択した、そして現在、仙台厚生病院の循環器内科の後期研修医として働いている。
私が仙台厚生病院を選択したのは、自らのキャリアアップを考えたからだ。大病院の多くは総合病院を目指す中、仙台厚生病院は選択と集中を掲げる珍しい病院である。循環器科、呼吸器科、消化器科の三つの分野に特化している。このため、この三診療科に限定すれば、症例数、治療成績は東北一で、全国でもトップクラスだ。仙台厚生病院で研修すれば、多くの症例を経験でき、循環器内科医として必要な総合力、専門的で高度な技術を早期に習得できる。勿論、専門医資格を取得できる。
循環器内科は内科が専門分化された診療科だが、さらにいくつかの専門分野に分かれている。例えば、虚血性心疾患、不整脈、末梢血管などだ。病院によって得意分野が異なり、診療内容や研究内容が特定の分野に偏っていることが多い。仙台厚生病院は、循環器内科は多くの専門分野が存在しおり、循環器内科医としての総合力を高めることができる。
循環器内科の専門の中でも、私はできるだけ早くに虚血性心疾患の治療を習得したいと考えている。虚血性心疾患の最も重要な治療法として、経皮的冠動脈形成術(カテーテル治療)が挙げられるが、その技術、知識の習得には多くの症例を経験する必要がある。そのためには、施設の症例数が多く、さらに医師一人あたりの医師が経験する症例数が多い病院で働くことが重要だ。私は後期研修医1年目で虚血性心疾患に対する経皮的冠動脈形成術を術者として60症例ほど経験した。所属する大学病院にもよるが後期研修医1、2年目は術者なることは難しくサポートに徹し、後期研修3年目頃から術者になることが多いと聞く。また日本心血管インターベンション治療学会認定医の資格には200症例のカテーテル治療の経験が必要であるが、仙台厚生病院では早くから多くの症例を経験できるため2〜3年間で獲得することが可能だ。
また医師が成長するには、技術知識の習得だけではなく、研究を行い、論文を作成することも重要だ。しかし、論文を独学で執筆することは困難であり、指導者が必須だ。大学病院と異なり、市中病院では指導者が不在の事多く、一般的には論文執筆が難しいとされている。しかしながら、当院は市中病院でありながらも、論文作成指導も行われており、多くの若手が積極的に学会発表や論文作成を行っている。私の指導医であった宮坂医師はCatheterization and Cardiovascular Interventionsとういうカテーテル治療業界では有名な雑誌に当院での研究成果を報告している。私も論文作成中であり、また日本循環器学会総会、日本心血管インターベンション治療学会総会、American College of Cardiology総会で発表する機会を頂いた。
初期研修医を終えた後の数年間は自分の進むべき専門科を決め、技術、知識、実績を集中して習得し、医師人生のなかで一番成長できる期間である。その時期を「新専門医制度」のように様々な診療科をローテンションして広く浅く研鑽を積むことはもったいないように思われる。私は仙台厚生病院では知識、技術、実績を獲得することできると考えたため、仙台厚生病院での後期研修を選択した。そして今のところはその選択は間違っていない。今後制度がどのように変わるかはわからないが、自分のキャリアは自分でデザインし、一番最適な環境を選択することが重要である。