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Vol.205 アトピー性皮膚炎の原因としての栄養素オーバーフローモデル

医療ガバナンス学会 (2016年9月12日 06:00)


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アトピーなんか飛んで行け!の会 代表
NPO法人 日本綜合医学会 食養指導士
谷尾敦子

2016年9月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は20数年前、娘の重症のアトピーを食生活の改善(食養生)で治しました。しかし、私が薬学部で学んだ西洋医学の知識やその後調べたアトピー専門医の医療情報などでは、どうしてもなぜ治ったのかの説明がつきませんでした。そこでアトピーの本当の姿を研究し、その成果を多くの患者さんに伝えるために「アトピーなんか飛んで行け!の会」というボランティア団体を立ち上げました。おかげで多くの患者さんからはとても納得が行くとの感想をいただき、多くの方がアトピーを克服して行かれています。

今アトピーをはじめ、アレルギー患者がどんどん増えていると言われますが、その多くも実は栄養素のオーバーフロー(動物性脂肪、植物油、タンパク質など栄養素の過剰摂取)が原因と思われます。この考え方によって、アトピーだけではなく、喘息、花粉症、その他多くの生活習慣病、未病などの原因、食養生で治る理由も理解できるのではないかと自負しております。

この20年間の研究をまとめて、「アトピー性皮膚炎の原因としての栄養素オーバーフローモデル」という題で昨年NPO法人日本綜合医学会に論文を提出しました。
次の目標は、この栄養素オーバーフローモデルを科学的に証明してもっと多くの方に理解してもらい、アトピーその他の標準的な治療、予防法として食生活の改善を取り入れてもらうことです。
アトピー・喘息研究に関心のある皆さん、ご本人やお子さんのアトピー・喘息で困っている皆さんに是非ご協力いただければと思います。

1.アトピー性皮膚炎の従来のとらえ方と最新のとらえ方

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)は従来乳・小児期に発症し、成長とともに自然治癒する疾患と考えられていた。しかし、近年は小児期を過ぎても治癒せず、成人性ADに移行する患者や、成人になってから発症する例も増えて、大きな社会問題となっている。1)
アトピー性皮膚炎という名前を提唱したザルツバーガー博士は、この皮膚炎をアレルギーの一つと捉えたために、世界の研究家の多くもそう考えてきた。
しかし、オレゴン医科大学ジョン・ハニフィン教授は、食べ物やダニによるアレルギーというのはあくまでも二次的な要因で、ADを引き起こす根本的な要因は別のところにあるのだろうと考えていた。2) そのため、1980年にハニフィン教授が作成したADの診断基準は?痒み?典型的な皮膚症状?慢性的な症状?アトピー疾患の家族歴 この4つの内3つ以上が有る場合となっており、これが今でも世界共通の基準として使われている。(日本皮膚科学会による診断基準では、現在アトピー疾患の既往歴・家族歴を基本項目から参考項目に変更している)3)
ここには、「アトピー性皮膚炎はアレルギーである」という観点は全くないのである。

1995年には、Halbert Anne R らによる「アトピー性皮膚炎:それはアレルギーか?」という論文が出されている。4)ADに免疫グロブリンE(IgE)の関与が薄いという根拠として、「喘息を合併したAD患者にはIgE高値を示すものが多いが、AD単独では低い。IgEの値と皮膚状態が相関しない。IgEの血中半減期が5日程度であるにも関わらず、皮膚改善してからIgEが減少するのに数ヶ月から数年もかかる、IgE欠損症患者でも発症する。」などを挙げている。これらを踏まえて著者たちはこう結論付けている。

「ADの原因は未だ不明である。現時点では、一部の患者の悪化要因になることは有るものの、アトピー性皮膚炎発症の主原因としてアレルギーが関与しているという証拠は乏しいと判断した。従って、日常的にアレルギーテストを実施したり食事制限や環境調整を進言することに正当な理由はほとんど見いだせない。」

また、アレルギーと考えると府に落ちないこともたくさんあり、それを医師たちも認めている。たとえば、季節によって症状が出る時期と出ない時期がある。多少食べても何ともないが、たくさん食べると症状が出る。なぜ急増しているのか。などなど。
その後、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは別の病気であり、一部の患者に両方り患しているものがいるという認識が強まった。5)しかし、ハニフィン教授の新たな研究により、「アトピー性皮膚炎が食物アレルギーの原因になる」という説が今は有力となっている。6)

2.アトピー治療の現状

20年経った現在皮膚科では、食物の関与について考慮するのはスキンケアや薬物療法、環境整備を行ってもADの症状が改善しない場合との考えが主流となっている。小児科では血液検査だけでは判断できないとして、実際にアレルギー反応のある食べ物だけを除去するように指導する医師も若手を中心に増えているようだが、いまだに血液検査結果のみや独自の考えで除去食を指導する医師も存在する。7)除去食を強いられて、どんどん食べられるものが無くなったり、タンパク質食品が全く食べられなくなるなどの悲劇もいまだに続いている。

これだけ矛盾点があるにも関わらず「除去食」が無くならないのは、良く観察している医師や患者、その家族に食物が何らかの影響を及ぼしているという実感が有るからではないだろうか。
また、AD患者には皮膚バリア機能が低下している人が多いことが近年明らかになっているが、それでも標準治療ではステロイド剤などで対症療法を行い自然治癒するのを待つしか方法はないと言われる。
一方東洋医学やその流れを汲んだ民間療法では、戦後の食生活の西洋化が原因とする考えから、食生活の改善(食養生)で症状を解消できる例も数多い。8)9)ただし、食養生でもなかなか改善しなかったり、逆に悪化する例も多い。

3.「食物に対するアレルギー」ではなくとも、アトピー性皮膚炎への食べ物の関与は否定できない

著者の子どもは二人とも小さいころからADがあった。血液検査では食べ物やダニは関係ないと言われたが、卵や牛乳の摂取で症状がでることは確信していた。そのためステロイド剤を少し使いながら除去をしているうちに徐々に軽快して行った。そして娘が5歳の時に、完治することを期待して空気と水のきれいな場所に引っ越した。
兄の方のアトピーはどんどん良くなり、環境の影響かと喜んでいたが、妹のADは逆に徐々に悪化して行き、最後は坂道を転げ落ちるように大悪化してしまった。どの医院でもステロイドで様子を見ましょうとしか言ってもらえず、絶望していた時に出会ったのが、食養生を教えてくれる料理教室であった。
食養生でアトピーを改善しながら、子どもたちや一緒に教室に通っている患者たちの皮膚の様子を詳細に観察した結果、「食物アレルギー」ではなくとも、食べ物が関係している可能性までは否定できないことに気付いた。そして、ADには特定の栄養素の過不足が関係し、栄養素ごとに湿疹の形状も違うことに気付き、これを「栄養素のオーバーフローモデル」と名付けた。(後述)

このことを苦しんでいる患者たちに知らせ、著者が立てた仮説が他の患者にも当てはまるか、共に確認するために、著者は1996年にボランティアグループ「アトピーなんか飛んで行け!の会」を設立した。研究目的を説明し募集したところ、これまでの19年間に約750組のアトピー性皮膚炎患者家族が入会した。食事については何も言われたことが無かった、除去食を何年間もしていたが治らなかった、様々な医療機関、民間療法を試したが治らなかった、東洋医学系の医療機関でも治らなかった、など様々な人が入会してきた。
これら会員の内研究方針を理解し詳しい経過報告書や写真を提供してくれた方たち、交流会に参加して、症状改善の過程を観察させてくれた方たちの情報をもとに、論文にまとめた。10)

4.アトピー性皮膚炎の発症原因としての栄養素オーバーフローモデル

厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、1960年以降摂取エネルギーに占める糖質エネルギー比率は年々減少しているのに対して、脂質エネルギー比率は1960年の10.6% から1988年には25.5% に達し、年々増加傾向を示している。特に動物性脂肪の摂取量は1952年の4倍以上になっている。タンパク質はあまり変化が無いが、個人差には開きがあると思われる。

これらはどれも必要な栄養素であるが、食生活の欧米化により特定の栄養素の過剰または不足が生じ、血液中に過剰になったり、血管内に沈着したりするのが糖尿病、高脂血症、動脈硬化などの生活習慣病であり、皮膚や粘膜に症状が現れるのがAD、喘息、花粉症、中耳炎などと考えられる。肉類や乳製品の多食、植物油の摂り過ぎ、タンパク質の摂り過ぎ、砂糖や穀類の摂り過ぎ、必須脂肪酸の不足、つまり少なくとも4つの栄養素(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、タンパク質、糖質)の摂取の過不足が関係していることを確認した。
また脂肪酸摂取の過不足が皮膚角質層のバリア機能の低下にも深くかかわっていることを確認した。これらの症状が、あたかも余分な栄養分が皮膚や粘膜に溢れだす(オーバーフロー)ようなので、「アトピーの栄養素オーバーフローモデル」と名付けることにした。

これを湯船に見立てて考える。湯船の容積は体にとって必要な栄養素の量を表している。湯船から水をくみ上げるポンプは運動や季節、成長に必要な栄養素である。必要量以上に摂れば、湯船から溢れ出す。同じ食事をしていれば、家族で発症しても当然であるが、湯船の大きさは体格によって異なるため、子供だけ発症することも多い。ポンプが大きいほど害が少ないため、運動を始めて軽快したり、急に運動をやめて発症する例も多い。著者の子どもたちが引っ越しを契機に改善と改悪に分かれたのも、運動量が兄の方は1日2万歩に急増し、妹は3000歩に急減したためと思われる。

ADが昔は自然に治癒していたのは体が大きくなると湯船も大きくなり、自然に過剰状態が解消していたからだと説明がつく。現代は動物性脂肪の量も多く、大人でも過食が多いため、大人になっても過剰状態が解消できない人が増えていると言える。また、運動量が少なすぎて余ってしまう人が増えたと言える。
10代以降に発症した人では、アルバイトを始めて毎日まかないで牛丼を食べだした、結婚して夫の好みで肉ばかりになったなど、食生活が大きく変化した人も多い。ADの原因を「アレルギー」と考えると腑に落ちないことも、オーバーフローモデルで考えると説明がつくことが多い。詳しい内容や患者の体験談などは本にまとめてあるので参照いただきたい。11)

5.科学的な証明について

今までは栄養素の影響を食べた食品の量でしか判断することができなかった。しかし、脂肪については野菜と一緒に食べたり、茹でこぼしたり、網焼きしたりと、実際に脂肪を摂取する度合いはかなり開きが生じる。また、同じ量を食べても、運動量によっても重症度が違ってくる。今後は血液検査や浸出液(リンパ液)などの測定によって、本人にとってどの栄養素が過不足しているかが判断できるようになることを期待する。

現在は各脂肪酸の量を測定できる脂肪酸分画検査ができるようになったので、それを利用するのも一案と考える。また、タンパク質については、呼気中のNOの測定が現実的になってきている12)ので、それも利用されることを期待する。細かいメカニズムについても今後多くの研究が進むことを期待したい。
AD患者は対症療法のみをする医療機関ではなく、食生活の指導や栄養・成長相談もでき、安心してかかれる医療機関を望んでいる。
ぜひ血液検査、NO検査などが可能な医療機関、そして検査にご協力いただける患者さんからのご連絡をお願いいたします。

1.田中暁生、アトピー性皮膚炎の疫学、アトピー性皮膚炎Update、医学のあゆみ Vo256. No1(2016),5-9
2.「アトピー治療最前線」NHK取材班編、1997.2.20、岩波書店
3.「日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」日皮会誌:119(8),1515―1534,2009
4.Anne R Halbert,William L Weston et
Atopic dermatitis: Is it an allergic disease?、J Am Acad Dermatol. 1995 Dec;33(6):1008-18.
5.新版 よく分かるアトピー性皮膚炎 (公財 日本アレルギー協会)(2012)http://www.jaanet.org/pdf/atopi_tein.pdf
6.NHKきょうの健康「子どもの食物アレルギー 新しい対策」(2016.7.20)

http://www.nhk.or.jp/kenko/kenkotoday/archives/2016/07/0720.html

7.朝比奈昭彦、アトピー性皮膚炎と食物アレルギー、アトピー性皮膚炎Update、医学のあゆみ Vo256. No1(2016),59-64
8.甲田光雄、アトピーの健康合宿に学ぶ、甲田療法の実践記録、52-77、創元社、1999年
9.梅崎和子、家族みんなのアトピー・アレルギー料理ブック、1992、明石書店
10.「アトピー性皮膚炎の原因としての栄養素オーバーフローモデル」日本綜合医学会 綜合医学論文集第11集(2015)
11.アトピーなんか飛んで行け!の会、アトピーなんか飛んで行け!アトピー克服実践マニュアル、2009、星雲社
12.独立行政法人環境再生保全機構、小児気管支ぜん息における呼気NO測定ハンドブック、(2014)http://www.erca.go.jp/yobou/pamphlet/form/06/pdf/a17112.pdf

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