医療ガバナンス学会 (2016年11月7日 06:00)
難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事
日本麻協議会事務局代表
若園和朗
2016年11月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
大麻は、戦前まで日本人にとって当たり前な作物でした。しかし戦後はタブーとされ、その害やかかわり方について考えることを封印してしまいました。従って、今では日本人の多くが、大麻について幼稚な判断しかできなくなっています。
大麻は、わが国の多くの伝統文化を支えていると共に、化石資源に代わる循環型の資源として大変有望な作物です。(参照:置き去りにされた作物としての視点 http://medg.jp/mt/?p=6856 ) また、医療面においても期待される植物です。(参照:最悪のドラッグラグ「医療大麻問題」 http://medg.jp/mt/?p=2081 )
悲しい事件でしたが、大麻についての知識を深め、大麻と日本人のかかわり方について知的に考える機会にしなければならないと考えます。
■真摯な大麻栽培者まで犠牲にしてはならない
事件を受け、鳥取県の平井伸治知事は、毒性が低い産業用大麻も含め、大麻栽培を全面的に禁止する方針を明らかにしました。これは、やり過ぎと考えるのは私だけではないと思います。
なぜなら、知事には薬物濫用を防ぐ役割以外に、良き伝統を守るとか健全な産業を育成するなどの義務もあるからです。
この地域では、もともと大麻を有用に使う伝統があり、それを復活発展させようという崇高な理想の下で大麻の栽培が始められたはずです。簡単にあきらめてほしくありません。むしろこれを教訓として、理想を実現してほしいと思います。
そして悪用されたのは、外から持ち込んだ大麻でした。現地で栽培された大麻は、県当局の管理のおかげで無害を保っていたとのこと。即ち、もし責任者が危険な人物だったとしても、安全な大麻栽培が維持できることが確認できたということです。イメージや感情だけで判断せず、現実を冷静に分析し、判断していただきたいと願っています。
また、報道の中で現在大麻栽培免許を持っているのは、全国で僅か33名だということが明らかにされました。残された32人の方々への風当たりが厳しくなったり、これをきっかけにやめてしまったりすることがないよう祈っています。
■悪意ある混同にかく乱されてはならない
先にも述べたように「産業用大麻」は、濫用(大麻の嗜好利用:マリファナ解禁)とは無縁で「医療大麻」は、濫用を許さないことが前提です。
しかし、インターネット上には、「産業用大麻」や「医療大麻」と「マリファナ解禁」を混同して述べるサイトがあふれています。なぜでしょう?
それは、今回の事件からも判るように、日本にも「マリファナ解禁派」などと呼ばれる大麻の嗜好利用解禁を企てる輩がいて活動しているからです。彼らは、「産業用大麻」「医療大麻」を自分たちの目的達成のための「隠れ蓑」や「踏み台」として利用しているのです。
医療大麻解禁を訴え参院選に立候補した人物のねらいも、医療目的ではなく嗜好目的(マリファナ解禁)であったことはもはや疑う余地がないでしょう。それにも関わらず公党から正式に立候補できたということは、「隠れ蓑」の巧みさを象徴しているのかもしれません。
私たちは、こうした悪意ある混同に惑わされず、毅然として濫用を許さない健全な大麻の活用を求めていかなければなりません。
■守るべきものは守らなければならない
とかく犯罪者ばかりに目が向きがちですが、残り32人の栽培免許保持者はどうしているのでしょう?「こんなことが起きるなら、いっそ全面禁止にすればいいのでは」との意見を述べる人がいました。しかし、現実の栽培者を知ればそんな意見は間違いであることがわかるはずです。
現栽培免許保持者は、ほとんどが貴重な伝統文化継承者です。また、一部は産業用大麻の活用を目指すまじめな挑戦者で、本来なら社会全体で応援されるべき人たちです。その多くが高齢者で、盗難や評判の低下などを恐れながら、世間の理解不足に心を痛めながら、粛々と法を順守し栽培を守っています。これを機会に制度が見直され、地域や行政の協力を得ながら、堂々と安心して栽培ができるようになることを願います。
彼らが居なければ、貴重な伝統文化と遺伝資源としての日本の大麻が絶えてしまうのです。
■まとめ
大麻は、濫用による害が危惧される植物です。しかし、幅広く活用できる自然の恵みでもあります。また、日本在来の大麻は、無害という有利な性質を持った先祖からの贈り物です。現代の科学技術を使えば濫用に結び付かない栽培は、実はたやすいのです。
大麻については、その名称、法、制度、世間の常識などに複雑な歪みがあり、全容を理解することが大変難しく、正しい判断をくだすのが困難な状況になっています。しかし、国民の英知を結集し、濫用を防ぐ十分な手立てを講じた上で、日本の社会の中で幅広く活用できるようになることを願っています。