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Vol.264 頑張れ、日本医師会

医療ガバナンス学会 (2016年11月30日 06:00)


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健保連 大阪中央病院
平岡 諦

2016年11月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

日本医師会に良い傾向が見られる。その変化の意味を述べ、さらに必要な次の一歩を示す。
第一:日医は、日医ニュース書籍紹介欄に、『米軍医が見た占領下京都の600日』を掲載した。731部隊の状況が実名入りで記載されている本である。
世界の医の倫理は、ナチ・ドイツでのユダヤ人虐殺(ホロコースト)に、医師が関与していいたことへの反省に始まった。それをリードしたのが世界医師会WMAである。日本の医の倫理は、組織的に関与した731部隊を、日本医学会が隠すことに始まった。戦後、日本医学会は日医の中に置かれている。その日医が、731部隊を表に出すことに踏み切ったのだろう。

第二:日医は、都道府県医師会の新会館完成を記念して、「アスクレピオス」のブロンズ像を贈呈しだした。
WHO、WMAなど多くの医療関連機関は、「アスクレピオスの杖」をロゴにしている。アスクレピオスとは後に医神となるギリシャ神話の名医、その彼が持つ「一匹の蛇が巻き付いた杖」である。医療・医術(蛇)の暴走をコントロールするための医の倫理(杖)を意味する。日医の中に日本医学会を置く意味はそこにある。「医道の高揚」により医学の暴走を防ぐためである。ちなみに日医のロゴは「一匹の蛇で描いた乳鉢と乳棒」である。乳鉢、乳棒は調剤に用いられた道具である。医薬分業を嫌った武見太郎・元会長の意向によったのだろう。

第三:日医は、日本医学会を日医の中に留めている。
日本医学会・高久史麿会長は、日本医学会が日医から独立することを長年考えられてきた。2014年、法人化された日本医学会連合ができたが、日医の中の日本医学会は存続することになった。2015年新春随想(『週刊・医学会雑誌』3107号、2015.1.5.)でも、高久会長は「将来日本医師会の定款が変更され、現在の2本立ての体制でなくなることを希望している」ようである。しかし、これは世界の流れを無視することだ。日本医学会が日医を去れば日本の医療界は良くならない、さらに悪くなるだろう。

第四:日医は、『医師の職業倫理指針』の第3版となる改訂版を作り、これまでは「患者の権利の尊重」だけであったが、これに「擁護」を追加した。
「患者の権利の尊重」だけでは、「患者の権利は尊重するが、時には第三者の意向を優先する」ことになる。ハンセン病患者の要らぬ長期隔離は、国の意向が専門医を介して、患者の権利を侵害した例だ。世界の医の倫理は「To put the patient first;患者第一」である。「患者の権利を第一にする」すなわち、第三者の意向より何より、患者の権利を優先すると言うことである。個々の医師レベルでは、日本の医の倫理がやっと世界標準になったと言うことだ。

第五:プロフェッショナル・オートノミーの意味について、これまでは「自ら構築した自己規律のシステムに従って行動していく義務」だけであったが、これに「行政機関等の外部から規制を受けない自由」を追加したことである(『日医ニュース』、No.1306、2016.2.5)。
オートノミー(autonomy)とはカントの造語である。自己規律(self-regulation)により本能から自立(independence)して理想(カントの場合は神の意思)に向かう、これが獣性と本質的に異なる人間らしさ(人間性;humanity)であり、このような人間には尊厳(dignity)が伴うと言っている。

世界の医の倫理はカントのオートノミーの概念を援用して、各国医師会にprofessional autonomyを要求している。具体的には、各国医師会が「患者第一;To put the patient first」を宣言し、それを守るため、相互評価(self-regulation)により、第三者の意向から自立(independence)することである。相互評価により、患者第一を守る会員を第三者の意向から守り、患者第一を破る会員を処罰すると言うことである。
これまで、日医のプロフェッショナル・オートノミーは「自己規律;self-regulation」だけであった。これでは「自己規制によって、時には外部からの意向を受け入れる」ことになる。今回、「外部からの自由;independence」を追加したのは一歩前進である。

以上が、日医の変化とその意味である。
日本の医の倫理を世界水準にするため、日医に必要な次の一歩を述べる。

第一:日医は、組織として「患者第一;To put the patient first」を宣言することである。
会員に対しては、『医師の職業倫理指針』の第3版によって「患者の権利の擁護」を要求した。日医は、自身のあり方を示している『日本医師会綱領』を改め、第一項として「患者の権利の擁護』を宣言すべきである。

第二:日医は、自身のHp「医の倫理の基礎知識」を全面的に見直すべきである。とくに、「ヒポクラテスと医の倫理」の中のジュネーブ宣言の説明を変えなければならない。ジュネーブ宣言の第10項の意味を説明しなければならない。これこそが、ナチ・ドイツでのホロコーストに医師が関与した(過ちを犯した)ことへの反省の誓いである。
第10項:私は、たとえ脅迫の下であっても、人権や国民の自由を犯すために、自分の医学的知識を利用することはしない。

第三:日医として、731部隊その他、医の倫理に関わる事項を社会に公開するべきである。
日本医学会は4年ごとに医学会総会を開いて、「医学及び医術の発達、並びに公衆衛生の向上」について社会に公開している。それが日本医学会の役目である。日医は、「医道の高揚」について社会に公開しなければならない。その役目を果たしていない。日本医学会に倣って、4年ごとにでも「医道の高揚」に関する日医の総会をするべきである。このような日医の代わりを果たしてきたのが、「『戦争と医の倫理』の検証を進める会」などであろう。

日医・横倉義武会長が、来年10月には世界医師会の会長に就任することが決まった(大阪府医ニュース、2016.11.2.)。「国民の健康寿命を世界トップレベルにまで押し上げた我が国の医療システム」を世界に発信していきたいと述べていたことが(会長続投が決まった本年6月の代議員会での所信表明)、これで実現するだろう。これは「医学及び医術の向上、並びに公衆衛生の向上」の結果である。これはこれで誇るに足るものである。しかし「医道の高揚」についてはどうか、日医会長としては「後ろめたさ」が残っているだろう。これを機会に、日本の医の倫理を世界水準に引き上げてもらいたいものだ。

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