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Vol.277 通信制大学院で学ぶ意味 ~看護師のセルフマネジメントの探求~

医療ガバナンス学会 (2016年12月16日 06:00)


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看護師 平尾衣利

2016年12月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は、現在、神奈川県の大学病院で勤務している20年目の看護師であり、2016年10月より星槎大学大学院に進学し、働きながら学修をしています。私が看護師を目指した理由は、「人の役に立てる看護師という職業に就きたい」と思っていたからです。幼いころから自己主張をあまりせず、引っ込み思案な性格ではありましたが、人の役に立つ事や、補佐的役割にとてもやりがいを感じていました。中学生の時に、地域の小学生とキャンプやレクリエーションをするクラブ(ジュニア・リーダーズ・クラブ)に所属してボランティア活動をしていました。クラブ内において、自分たちが企画した内容で楽しそうに遊んでいる小学生の姿を見ることやお世話をすることが何よりも好きでした。その頃から、お世話をする仕事=看護師に憧れを抱いていました。

私が看護師という職業を知ったのは幼いころであり、父親が入退院を繰り返していたため、看護師の姿を目にすることが多かったためです。献身的にてきぱきと看護するその姿を何度も見て、私も看護師になれば人の役に立つことができるのではないかと考えていました。

当時は、私のまわりはもちろん、血縁にも医療関係者がいなかったため、「看護師になりたい」という夢は恥ずかしくて口に出せず、どうすれば看護師になれるのかがわからずにいました。高校2年生後半の進路指導の際に、校内に3名の看護師志望者がいることを知り、すぐに話しかけて、看護師になる方法を教えてもらうことにしました。看護学校に入るためには、とにかく受験をしなくてはならず、そのためには勉強をしなくてはならないと初めて知りました。それまで2年間の高校生活をぼんやりと過ごしてきた私にとって、受験勉強は絶望的な話に聞こえましたが、「看護学校に行くためには生物、数学などの専門科目を勉強する必要があるから、受験のための学習塾に私たちは1年間通うよ。一緒に行こう。」と、その看護師志望の友人たちに誘ってもらいました。「看護師になるためにはこの塾に入らないと合格できないの」と、何度も必死に泣きながら両親を説得し、その塾にも通いながら猛勉強した日々を昨日のことのように覚えています。果たして、親友となったその3人は看護学校へ推薦入学をした一方で、私だけが一般試験を経て入学することとなりました。今でもその親友たちに感謝しています。

私がここまで19年間看護師を続けられている最大の理由は、看護学校を卒業して最初に就職した病院で、憧れの看護師(師長)と出会ったことだと考えています。その師長は、患者を第一に考え、とても人間味のある、一緒にいてとても癒される、そして、知識の豊富な厳格な方でした。その師長との出会いを通して、「看護師はやりがいのある素晴らしい職業である」と知ることができたと思います。私の知識や配慮不足で患者のケアを十分にできなかった時など、「看護師に向いていない、辞めてしまいたい」と思うことも何度かありましたが、その度に師長は「気づけてよかったね。次はできるね。大丈夫」と私を励まし、寄り添ってくれたことを覚えています。師長の看護ケアへのアドバイスをもとに看護すると、身体的にも、精神的にも患者さんが良くなっていくことを実感した私は、あらためて看護の重要性を知り、看護師になってよかったと充実感を持つことができました。今でも師長から受けた言葉を大切にしています。

初めて勤務した病院で「辞めたい」と思った危機を乗り越えられたためか、ここまで一度も離職することなく、様々な施設で看護師経験を積み、現勤務先では、7年目を迎えています。その中で、副主任や教育担当者、研修講師やのアドバイサーなど、初めての任務をいくつも経て看護だけではなく教育や管理などの視点を得て、看護師としての臨床経験を伝えるだけでなく、教える技術や考える能力が必要となってきていると感じています。私が理想とする看護師に出会い指導を受けて、この職業を誇りに思い、やりがいを感じられるようになったように、後輩看護師がそういう思いをできるような関わりを持てる存在になることがこれからの私の夢となっています。

きっとそれは、後輩看護師のためだけでなく、その看護師が関わる患者やその家族の入院生活もよい方向に導くことができると想像しています。このような役割を自分が果たすには、私自身が積極的に教育や指導、研究に関する知識を増やし、日常から意識して行動し、経験を積む必要があると考えています。昨年度は通信制大学での科目履修を通して、学位認定機構から学士号(看護学)を取得して、学習する楽しさを思い出すことができました。その学修のテーマは「看護師が日々行うことができる医療安全対策の検討」としました。その中では、医療安全と離職は強く関連すること、安全な職場環境を整えることの重要性とそれに向けた具体的な対策を導き出しました。この学士号取得をきっかけに、さらに教育や研究に関わる科目を学ぶために大学院に進学することを決めました。

そこで、通信大学の履修を踏まえて臨床を離れずに学修したいと考えた私は、星槎大学大学院を選択しました。この大学院では、教育学を主とした科目を履修するだけでなく、看護系の教育や管理などの科目も履修することができます。また、入学してから知ったことは、仕事と学修を両立している看護師の上級生が全国に多数在籍していることです。働きながら学修していく方法もぜひ教わりたいと思っています。また、看護師だけでなく教員などそれぞれの現場で活躍している方々との交流も深めることができることもわかり、スクーリングを楽しみにしています。

大学院のカリキュラムポリシーにある、「高度な実践的指導力を備えた教員、学校現場や地域における具体的な課題を発見・設定し共同して解決できる即戦力を備えた高度専門職業人、知識基盤社会において様々な分野で活躍する高度かつ知的な素養のある人材」となれるように懸命に学修していこうと考えています。今まで勤務してきた病院でも看護研究に取り組んできましたが、大学院では修士号に向けた研究論文をまとめていくことになるため、文章力をつけて、物事を考える視点を広げて、取り組みたいと思っています。私が学んだことを後輩看護師に教授(アウトプット)できるように、一つ一つ確実な知識として蓄積していきたいです。

大学院での研究テーマとしては、離職予防、特に看護師のセルフマネジメントについて掘り下げていきたいと考えています。現在、潜在看護師(免許を取得しているが勤めていない看護師)は、71万人とも言われています。2014年度の常勤看護職員離職率は10.8%、新卒看護職員離職率は7.5%です。「離職率は過去5年間大きな変動はない。各病院で継続的に、労働条件の改善や教育体制の整備などに取り組んでいる」と日本看護協会は、2015年病院看護実態調査で示しています。2012年よりワークライフバランス制度(以下、WLB)が推進されています。それまでは看護職とは専門職であり、仕事を優先させることが重要であるとされていました。

しかし、WLBにより、看護職として働き方の意識の多様化が認められ、働きやすい環境・質向上の支援が提供されており、働き方の選択ができるようになりました。池邊(2012)は「看護師の平均在職年数は7年、離職理由は(1)ライフイベント、(2)現状からの変化への欲求がある」と述べています。また、内野(2015)は新人看護師の離職理由として「リアリティショック、職場内の人間関係、心と身体の健康問題」を挙げています。看護職を「継続できている」看護職員は、仕事に対して、何らかのセルフマネジメントを行っているのではないかと感じています。セルフマネジメントとは「自己管理や自律であり、体調管理や作業の進行などを進めるために、自分自身を適切に抑制・管理すること」であり、看護師は看護師であるために、身体的・精神的にコントロールする力を持ち、自らの成長や成熟を考え行動することが重要です。梶谷(2012)は「セルフマネジメントは『問題解決行動』『情動のセルフコントロール』『前向きな姿勢』の3因子で構成されています。

中堅看護師のセルフマネジメント能力は、社会的スキルと職業的アイデンティティとソーシャルサポートが相互に作用しあうことで充実していくことが推測される」と述べています。組織の中で長く勤める看護職は、病める患者のもとでセルフマネジメントする行動や思考を積み重ねています。様々な勤務継続に関する研究はありますが、セルフマネジメントという言葉を使用した文献は少ないです。私自身が新人看護師の頃に出会った看護師長から様々な感性を教わり、どんなに辛いと思っても、使命感を持って看護職を続けることができました。7年目を迎えた現職場では、副主任看護師としてスタッフや組織を見ることになり、職場の仲間である他の看護職がどのようなことを思いながら従事しているかについて強く関心を持つようになりました。看護職が自己効力感を持って充実した仕事をしてもらうためには、どのような介入方法があるのかと考え、看護師のセルフマネジメントについての調査を通して看護師を継続する手掛かりになる経験を明らかにしたいと考えています。

「石の上にも3年」は看護師にもよくあてはまると思います。看護師が自信を持って「自分は看護師として成熟している」と思えるようになるには多くの年月がかかります。興味深いことに加納(2016)の研究では「職業キャリア成熟度とは経験年数に有意な相関はない」と3年看護師経験を積んでもキャリア成熟度は高くならず、基本的な看護技術や家族看護、急変時の対応などを自分のものにするには3年以上の経験を要すること、キャリア成熟度は経験年数のみに左右されるものではない可能性が指摘されています。そこで看護師のセルフマネジメントの方法を抽出することで、若年の看護師への教育や接し方を改善する手掛かりを得ようと考えています。この研究を通して看護師として成熟を目指す内発的動機づけが生じ、仕事に対する意欲が増し、離職が減ることを期待しています。低い成熟度のまま離職すると再就職の可能性はとても低くなるため、潜在看護師に再就職を考える上でも、早く1人前の看護師なれる支援の確立が望ましいと考えます。この研究がその一端を担えるように積極的に取り組んでいきたいと思います。

参考文献
・池邊美佳(2012).モチベーションエビデンスに基づくスタッフへの「やる気刺激」の作法,北居明,辞めさせないアクションプラン,日総研出版 P135-144
・内野恵子(2015).本邦における新人看護師の離職についての文献研究,心身健康科学,vol11, no1,P18-23
・梶谷真由子(2012).中堅看護師のセルフマネジメントとその関連要因,日本看護研究学会雑,vol.35, no.5,P67-74
・加納さえ子(2016).初期キャリア看護師の職業キャリア成熟度と背景要因,島根大学医学部記要,vol. 38 P63-73
・公益社団法人 日本看護協会広報部(2016).2015年病院看護実態調査

平尾 衣利
看護師 神奈川県内の病院に勤務し、急性期看護と医療安全を中心とした看護に従事。同院にて副主任、教育担当も兼任。

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