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Vol.284 大混乱は必至、オプジーボ騒動で薬価ルール崩壊 ~パンドラの箱を開けてしまったのか?~

医療ガバナンス学会 (2016年12月26日 06:00)


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この原稿はJBPressからの転載です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48541

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

2016年12月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

11月24日、厚生労働省は1人あたり年間3500万円かかる抗がん剤「オプジーボ」の薬価を、「市場拡大再算定の特例」制度を用いて半額に引き下げることを告示しました。

オプジーボは、免疫細胞を活性化させ、末期ガンを完治させてしまうこともある新薬です。製造販売元の小野薬品工業はこの告示に対する不服意見の提出を見送り、半額への引き下げが確定しました。

これにより、現在73万円というオプジーボの薬価(1瓶100mg)は、2017年2月から36万5000円となります(それでも、米国約30万円、英国約14万円、ドイツ約20万円に比べると高い価格です)。

翌日の11月25日、内閣府の経済財政諮問会議は薬価制度の抜本改革案を取りまとめました。この中では、以下のことを「可及的速やかに実施すべき」といった提言がなされています。

・患者見込みの拡大に反比例で薬価を引き下げる

・薬品総原価の内訳を公表すること

・内外価格差(外国との価格差)が2倍を超えている場合には薬価改定

この通りになれば、オプジーボのような混乱は避けられるかもしれません。しかし、製薬会社が用法拡大や適応拡大の申請を積極的に行わなくなる可能性も出てきます。さらには、既存の薬剤の価格の正当性に疑問がつくことになり、次期改定時の大混乱は避けられないでしょう。ルール崩壊の副作用は大きなものになりそうです。

(参考・関連記事)「国民皆保険にとどめを刺す桁外れの高額がん治療薬」

●オプジーボ騒動が起こった経緯

薬の価格は、薬品の原価に利益(16.9%)、流通経費(6.8%)、消費税(8%)を加えて決まります。オプジーボもこの方式で価格が決定しました(ただし、オプジーボは臨床的意義があるため利益は27%となっています)。

この方式では、薬品の原価が高くなれば必然的に薬の価格が高くなります。

オプジーボの場合、改定前の73万円の薬価のうち、製造総原価は46万円です。原価の内訳は公表されていないものの、一般論として、研究開発費用を見込み患者数で割ったものが重要な要素を占めます。ですから、対象疾患が少なければ少ないほど、原価は高くなるのです。

オプジーボは2014年9月、対象患者が年間470人と推定される悪性黒色腫の治療薬として発売されました。見込み患者数が少ないため、薬剤価格は高くつきました。

その後、2016年2月には、用法追加(2mg/kgを3週間に1回投与から2週間に1回投与へと倍量投与が可能になった)がなされ、2016年8月には非小細胞肺癌(年間約5万名)に使用できるように効能が追加されました。こうして倍量投与が可能になったことと、患者数が2桁多い肺癌への効能拡大を受けて、2016年8月以降、オプジーボは薬代金だけで年間2兆円近くになり、「国を滅ぼす」との報道が盛んに行われるようになりました。

その騒動が、今回の薬価改定とは無関係の時期の、やや強引とも言える半額への薬価引き下げへとつながったのです。

●適応や効能拡大ごとに価格を見直し

なぜオブジーボは国を滅ぼすと騒がれたのでしょうか。経緯をまとめると以下のようになります。

(1)元々は、対象者の少ない疾患で開発費用を賄う前提で、薬価が高く設定された。

(2)倍量が使用できるように用法が追加された。

(3)効能追加により、対象患者が100倍になる可能性が出た。

これを受けての財政諮問会議の提言は、“希少な疾患の治療開発はこれからも行うが、使用量が増えたり対象患者が増えたりした場合には薬価を減額できる仕組みを取り入れる”ということになります。

「容量が倍使えるようになったら半額に」「対象患者が100倍に増えたら100分の1に」という単純な話ではないのでしょうが、もしもこのルールで減額可能になるとすれば、オプジーボの「半額」どころか10分の1に一気に薬価が下がることも珍しくなくなるでしょう。

●ルール変更が開けてしまったパンドラの箱

一方で、そのルールには弊害もあります。

まず、今後は製薬会社が用法追加や効能追加を積極的に行わなくなり、結果的に、十分な薬の効能が得られない、または薬の恩恵を受けられない患者が出てくることが懸念されます。

さらに私がもっと気になるのは、価格決定ルールの大幅な変更により、今の薬剤価格の正統性そのものが失われてしまうということです。

これまで他の薬剤においては、用法追加によって薬の倍量処方が可能になると、製薬会社の担当者が一斉にパンフレットを持って営業活動を行っていました。薬の処方が増えることで、薬の売上の倍増が狙えるからです。薬の用法追加と効能追加は、製薬会社にとって利益を増やすための貴重な手段でした。

ただし、それはあくまでも「すぐには薬価が変わらない」というルールがあってのものです。

用法追加と効能追加ごとに速やかに薬価を改定する新しいルールは、いわばパンドラの箱を開けてしまった感じがします。次回改定時の薬剤価格決定は大混乱に陥ることでしょう。

それとも、あまり大騒ぎにならないうちに、オプジーボだけの改定にとどめて箱を閉めてしまうのでしょうか? 今後の議論の行方に注目したいと思います。

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