医療ガバナンス学会 (2017年1月30日 15:00)
●財務的な特徴
東千葉メディカルセンターの経営分析にあたって、公表されている財務諸表等の経営データから、まず年間20億円を越える医業損失額の大きさに目を疑った。また当初の9市町村による計画が2市町に縮小されていたにもかかわらず、3次救急の機能を持つ新病院が建設されたことにも驚いた。さらには平成29年度以降の事業計画を見ると、売上及び収支が劇的に改善することになっており、その算定根拠が明確でないことも大きく懸念された。
●開業以来の赤字経営3年目
開院以来、医業損益(医業収益-医業費用)の巨額赤字の病院経営が続いている。開業2年目の医業収益と医業費用の割合は1:2であり、1の売上を稼ぐのに2の費用をかけていて、民間病院ならばいつ倒産していてもおかしくはない。直近の財務データが開示されている開業後3年目の第一四半期においても、その傾向は変わっていない。県、市、町からの補助金を入れた最終損益も、平成26年度15億円、平成27年度17億円の赤字と開業当初の計画を著しく下回っており、現在の運用病床数209に対して巨額な赤字となっている。
●運営資金不足
病院の運営にあたっては、資金すなわちキャッシュフローが重要であるが、その大きなファクターである借入金残高は平成28年3月末時点で、119億円。その元本と利息の返済として平成35年度まで毎年平均8億円の返済が必要で、平成28年度は12億円近くが必要とされている。しかし病院経営自体が巨額の最終赤字なので、返済原資が涸渇していくことは間違いない。
●経営悪化の要因分析
病院経営悪化の原因はどこか。医療収益対材料比率が高い(32%)。医業収益対人件費率が高い(69%)、自己資本比率が低い(-7%)、流動比率が低い(46%)などが挙げられるが、本質的な原因は売上が立っていないこと、医師一人当たりの医業収益が低いことにある。
●限定されたマーケット
売上は、単価×数量で構成される。端的に言えば医業収益を増やすためには、診療報酬単価を上げるか顧客を増やすことである。基本的に全国的に一律の診療報酬単価アップを目指すためは、DPC病院になる、プレミアムな人間ドックを手がける等、非常に選択肢が限られ、また劇的な単価改善は望むべくもない。一方の数量、すなわち患者数はどうか。千葉大学医学部の資料によると、東千葉メディカルセンターの年間患者数の7割近くが山武長生夷隅地区、すなわち近隣周辺地区であり、千葉・東京・横浜等からの患者は1%未満である。それは東千葉メディカルセンターの救急車搬送の患者住所地ベースの調査からも明らかであり、東千葉メディカルセンターが立地する場所は、西は千葉大学病院・北東は国保旭中央病院・南は亀田総合病院という、それぞれ200名を越える常勤医師を持ち、高度医療・3次救急医療の役割を持つ大病院に囲まれており、東千葉メディカルセンターが狙えるマーケットは必然的に限定されている。
●処方箋
では、東千葉メディカルセンターが、いまの経営体制を維持したまま、持続可能な病院となるための処方箋はあるのか考えてみたい。
第一に、病院経営の単年度黒字化を図ることである。まずは補助金込みの最終損益の黒字化を目指すことである。いうは易いが実行には相当の困難が伴う。上記のとおりマーケットが限定されている条件下で、売上を上げていくには、地域内のシェアを上げていくこと、すなわち地域住民に愛されていくことである。それには住民が真に欲する病院機能の見直しが必須であろう。大きな論点として、多くの診療科・常勤医・専門医・看護師等の維持コストを必要とし、そのために運営自治体等が多額の運営補助金を支出しなければ成り立たない3次救急機能が本当に必要か検討しなければならないだろう。また計画上の300床のベッド数も、過去2年間の運営実績から判断して、真に適正なのか再検討しなければならないだろう。既に開業3年目であり、早めに大ナタを振るわないと、医療職の勤労意欲が失われ、医師が立ち去っていくおそれさえある。
第二に、病院が抱える借入金の棒引きが必要であろう。現状の病院の財務状況は極めて危険水準である。既に平成27年度には運営資金不足を要因とする6.7億円の借入があった。単年度で大赤字の病院に、借入金の元利償還負担は重いことは既に述べた。仮に医療職に支払う給与支給が滞れば、病院経営は即座に頓死する。
上記2つの処方箋の実行には、相当高いハードルが予想されるが、早めに行動しなければ将来の世代に大きなツケを残す。そもそも限定された地域・市場を想定した3次救急機能・高度医療を主眼にした新病院の建設計画自体に無理があったのであろう。処方箋の実行にあたっては、当時の計画策定に大きな関与しまた指導を行ってきた千葉県、そして病院の設立団体としての東金市及び九十九里町には大きな責任がある。