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Vol.030 マイノリティーだからこそ学んだ権利を守ることの大切さ

医療ガバナンス学会 (2017年2月9日 06:00)


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チェコ共和国・国立パラツキー大学医学部生
坂本遙

2017年2月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

丸山真男の『日本の思想』という本に私が出会ったのは、高校三年生の現代国語の授業の時でした。この本の一部、『「である」ことと「する」こと』を授業で習う機会があったからです。この時に以下のことを学びました。

権利を行使し続けるためには、権利を守るために行動しなければならない。権利を守るために行動していない場合、権利を剥奪されても文句は言えない、ということです。

また、憲法第12条には「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」という記述があります。

そして小学生の頃から母に、権利を主張するのであれば義務を果たしなさいと言われてきました。私はこのことも踏まえ、丸山真男が主張している【権利を守るための行動】は義務の一部なのだと解釈しています。

私が学んだ、権利を行使するためには権利を守る義務を果たすことが必要であり、そのためには制度を監視し、時には声を上げること。これらの大切さを肌で感じる出来事がありました。医学部内で行われた学生代表選挙です。
私が通うパラツキー大学の医学部には、チェコ語コースと英語コースがあります。生徒の割合は約4:1であり、英語コースはマイノリティーな存在です。この数の割合の影響は、大学内の何気ない場所で見つけることができます。

例えば、大学内の掲示板です。ポスターや情報は全てチェコ語で書かれています。食堂のメニューも、チェコ語と英語の表記が基本的にはされていますが、一部チェコ語のみ書かれている場合があります。

チェコ語はスラブ系の言語であり、ゲルマン系の言語の英語とは文法が大きく異なります。主語によって動詞の語尾が変化し、一つの名詞につき格が7個ありさらに語尾が変化するため、外国人が習得するのが困難な言語だと言われています。その為、私も含め英語コースの学生がチェコ語のみの媒体から情報を得ることは困難です。

私は、情報が得辛い不便さへの文句や不公平感を入学当初に持っていました。ですが、時間を経るにつれ諦めの感情を抱くようになっていました。大多数を占めるチェコ人の学生は困らないし、英語コースの学生は少ないのだから仕方がない、と。

少数だとしても私たちは情報を得る権利や不便さの改善を求める権利を有しています。勉強をする、学費を収めるといった一学生としての大学への義務は果たしています。ですが、私は意見を述べる機会を得ようとしたり、実際に意見を大学に伝えたりといった行動をとっていませんでした。

権利が与えられているにも関わらず、権利を守るための行動をしていなかったのです。義務の一部である、権利を守る行動をすることを怠っていました。
このことに気づかせてくれたのは、4年生のドイツ人の女子医学生でした。
彼女とは私が廊下で4年生の友人と話しているときに出会いました。時間をかけて話をしたのはこのときだけでしたが、今でも彼女が話してくれた事を覚えています。

彼女は自己紹介の直後、「今度、医学部内で選挙があること知っている?」と尋ねてきました。当時の私は、選挙があることを知りませんでした。

まず、彼女は大学の改革になぜ関わりたいのか話してくれました。大学の電光掲示板にチェコ語しか表記されないのは、英語コースの学生がいる大学としておかしいのではないかと疑問を持ったことがきっかけだったようです。このことを大学に指摘してみたら、一部のみではありますが、英語の表記がされるようになったそうです。この経験を通して、英語コースの学生の意見を主張する機会を増やしたいと思ったと彼女は言っていました。

また、彼女のご家族の中にチェコ人がいるので、彼女はチェコ語を話すことができます。そのため、彼女はチェコ語と英語コースの生徒の橋渡しの役目を果たしたいと考えていました。

少し話がそれますが、私はアルゼンチン生まれです。アルゼンチンには生後1年しかいなかったので当時の記憶はありませんし、国籍は日本です。それでも、いつかアルゼンチンの母語であるスペイン語を学びたいという気持ちを持っています。また、アルゼンチンの地下鉄では日本の丸ノ内線の車両が使われていた事を知り嬉しく思ったこともあります。

生まれた国アルゼンチンと育った国日本の交流を嬉しく思った経験から、彼女が抱いていた国を超えた交流を支えたいと考える気持ちを理解する事ができ、応援したい気持ちになりました。

そして最後に、彼女はこう訴えてきました。英語コースの学生の数が少ないから私たちの意見が大切ではないということではない。あなたの声を大学に届ける手段として、投票に行ってほしい。そして、英語コースの学生が投票する権利を行使できるよう、このことを知らない友人にも情報を広めて欲しい、と。

彼女は臆することなく人に話しかけ、人を巻き込んで、大学の改革を目指していました。もし彼女が積極的に話しかけたりポスターを作ったり、動画をFBのグループに投稿しなければ、英語コースの大部分の学生は選挙が行われることを知らないまま選挙の日を迎えたと思います。

英語コースの学生同士で話していると、チェコ語コースの学生との待遇の差に不満を持っている人は多いように感じます。でも、実際にどうしたら改善できるのか分からず、私のように現状に対し諦めの感情を抱いていた人が多かったのだと思います。

彼女が権利を行使すること、そして意見を伝える方法を示してくれた結果、選挙の当日は多くの英語コースの学生が投票に行きました。その結果、彼女は英語コースからの初の学生代表として当選しました。
私にはこの出来事が社会の縮図に思えました。
今回のケースで私たちは、自分たちの意見を主張する権利を行使するために「投票する」行動をとりました。また、「投票する」ことで投票する権利を守ることになったと思います。

英語コースの学生の投票率が低いままで、学生代表が出続けなかった場合。つまり、丸山真男の言葉を借りると、私たちが「権利の上で眠って」いたとしたら。大学側が英語コースの学生に権利を与える意義がないと捉えてしまっても仕方がないと思います。その結果、与えられていたはずの権利が効力を持たなくなる可能性もあるのではないでしょうか。

日本の若者の投票率は現時点であまり高くありません。日本では少子高齢化が進んでいて、若者は少数派です。少数派だから、投票しても無駄だと考える人が中にはいると思います。

けれど、若者である私たちが行動することは大切だと思います。例えば、18歳に引き下げられた選挙権の効果が見られなかったとしたら。せっかく与えられた権利が、再び20歳まで取り上げられるかもしれません。
権利を有している事は当たり前ではありません。歴史を見ると、人々が権利を得るのには時間がかかり、犠牲が伴っていた事が分かります。
冒頭でも述べたように、権利を有している以上私たちには義務が生じます。その義務には納税や労働の他に、世の中の動きや政治に関心を持ち時には声をあげること、そして投票することも含まれています。このような姿勢を持ち行動することが、私たちの意見を述べる権利を守ることに繋がるのだということを、同世代の方達に意識してもらいたいです。

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