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Vol.045 カンボジア人が医師、専門医になる大変さ Sunrise Japan Hospital Phnom Penhからの報告(2)

医療ガバナンス学会 (2017年2月28日 06:00)


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この原稿はハフィントン・ポストからの転載です。

http://www.huffingtonpost.jp/rumiko-tsuboi/sunrise-japan-hospital-ph_1_b_14588268.html

Sunrise Japan Hospital Phnom Penh
坪井瑠美子

2017年2月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

前回、私がカンボジアのSunrise Japan Hospital Phnom Penhにいることを書かせていただきました。今回はカンボジアの医師について紹介します。

Sunrise Japan Hospital Phnom Penhには現在7人のカンボジア人医師がいます。卒後5年以内の若手医師が多く、彼らへの教育もこの病院の役割です。

しかしそれ以前にカンボジア人医師には助けられることがたくさんあります。みな就職倍率30倍を通ってきた優秀な医師達です。診療時に私の下手な英語を理解して通訳してくれるだけでなく、まだ健康意識の低いカンボジアでは日本では当たり前だった生活指導や治療が受け入れてもらえないこともあるので、カンボジア人はこれならできるよ、とか、こう言えば理解してくれるよ、などアドバイスをくれます。

日本人医師と通訳だけで診療していたら、この病院はこんなに早くカンボジア人患者に受け入れられなかっただろうなと思い、カンボジア人医師にはいつも感謝しています。診療の合間に愚痴を言い合ったり、励ましあったり、お互いの国の問題点について語り合うこともあれば、休日には街で一緒に食事したり遊んだりと、みな素敵な友人達です。

さて、おそらく彼らはカンボジア国内でも相当優秀な人たちなのだと思います。カンボジアには大学の医学部が公立2校、私立2校しかなく、年間600人程度しか医学部に入学できません。医師になるのは日本よりもずっと狭き門です。さらに、経済的に少し余裕がないとなれない職業でもあります。

まず、医学部教育は全て英語かフランス語です。教科書もそうですし、そもそもカンボジアの病院自体がみなカルテ記載や検査所見は英語かフランス語です。カンボジアの小中学校、高校は日本のように朝から夕方まで授業があるわけではないので、空き時間に英語学校などに通い英語を身につけることが多いそうです。

なお、留学制度や奨学金制度を利用してカンボジア国外の医学部で学ぶ人もいますが、その場合は英語のクラスに入るか、現地の中国語やベトナム語を習得して医学を学びます。ただでさえ膨大な知識を母国語以外で勉強するなんて苦労は2倍にも3倍にもなるでしょう。

カンボジアの医学部は6年制で、2年間は夜間当直を含めた臨床実習があり、翌日も眠いまま授業や実習、試験を受けるそうです。日本の救急部実習のときの体験当直のようなものではなく、医師と同じように日常的に当直するそうです。

ただカンボジアには大学の附属病院というものはなく公立病院を中心に臨床実習を行いますが、必ずしも良い教育を受けられるわけではなく、カンボジア人医師からは、勉強、部活、遊びも充実していた私の(あくまでも日本では普通の)大学生活を羨ましがられました。学費は公立も私立も同様で、年間約3000ドル(30万円強)だそうです。しかしやはり経済的理由で退学する学生もいるそうです。

厳しい数々の試験を合格しなんとか医学部を卒業すると、2年間のインターンシップがあります。公立病院やNGOの病院で研修を受けますが、日本のように自由に研修先を選べるわけではなく、配属先は公立大学や公立病院の職員によって決められるそうです。この時やはり公立大卒業生の方が優遇されるため受験生には公立大の方が人気があるそうです。

インターンシップ中は一つの科の研修が終了する度に試験を受け、インターンシップ終了後の最終試験に通ってやっとM.D.の資格を習得できます。この時点ではみなgeneralistで、専門医になるには更に公立の大学に所属して4年間の研修を受けるそうです。

しかしそもそも専門医取得のコースに進むこと自体が難関で、日本のように希望科に進める人はごくわずかです。進んだところで十分な教育が受けられるというわけでもありません。シンガポールやフィリピンなど海外での専門科研修を希望する医師もいますが、経済的、家族の問題などから実現は難しいそうで、多くの医師はgeneralistとして公立病院か私立病院で仕事をします。

ところでカンボジアでの医師の給料は、日本の感覚からすると驚くほど安いです。公立病院の給料は月250ドル(2万5千円強)です。その薄給を賄うために多くの医師は外勤に行き、午後になると医師が病院にいないと言われています。

しかし医師数が豊富なわけではなく不在の間の急変対応は手薄になり、患者は不安でしょう。ちなみに診療費の安い公立病院には患者が溢れ、たとえERでも待ち時間に患者が死ぬこともあるそうです。中には医療者にお金を渡して早く診てもらうという習慣もいまだにあるそうです。

私立病院の給料はもちろん病院によりますが、平均的には月600~800ドル(6万円~8万円)前後といわれています。地元市場や露店の物価は安いとはいえ、日本と同様の生活水準を求めてスーパーで買い物をすれば日本と同じくらいの食費がかかり、電話代も多少安くてもiPhoneを持つのが当たり前のカンボジアです。この給料は独身なら生活できても家族を持つ場合は厳しいそうです。カンボジアには富裕層が増えてきていますが、医師が高給という概念はありません。

カンボジアは医師不足ではありますが、医師の教育制度も待遇も不十分、専門や病院を選ぶ自由度も低く、皆大変な思いをしていることが分かります。Sunrise Japan Hospital Phnom Penhは高い就職倍率が示すようにカンボジア人医師からも期待されています。この病院が担う役割はたくさんありますが、今後のカンボジアの医療者教育や専門医教育の改善にも一翼を担うことを私も期待しています。

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