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Vol.049 医療事故における業務上過失致死傷害罪を理由とした医療従事者個人への行政処分の廃止を、医道審議会および厚生労働省に求めます。

医療ガバナンス学会 (2017年3月6日 06:00)


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一般社団法人 全国医師連盟 代表理事
中島恒夫

2017年3月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

はじめに
全国医師連盟は、「システム・エラーを起因とする医療事故に立ち会った『医療従事者個人』に対する刑事処分・行政処分は、医療安全には全く寄与しない」と考えます。行政処分は医療事故の最終的な現場責任者である『医療従事者個人』よりも、医療安全への取り組みを怠った医療機関、もしくはその設置者および管理者に行うべきであると考えます。
また、現在の医道審議会の答申による厚生労働省の行政処分は、第6次改正医療法で定められた医療事故調査制度とも相反します。医道審議会を管轄する厚生労働省医政局は、その矛盾を自ら早急に改めるべきです。

1.医道審議会の審議事案の抽出について
厚生労働省(以下、厚労省)は「罰金以上の刑に処せられた医師又は歯科医師」に係る情報提供を、下記に示した概要により、法務省に協力依頼を行っています。

http://expres.umin.jp/mric/nakajima.pdf

法務省から得られたこれらの情報のみを根拠として、厚労省は行政処分の可否を医道審議会に諮問しています。事件の詳細や、示談の成立の有無などの事情は、法務省から厚労省には伝えられません。医道審議会での審議前に、都道府県の担当課から事案の報告が本人に依頼されることはあります。また、医道審議会での第1回審議(処分の区分決定:取消、停止、戒告)後に、都道府県の担当課による本人からの意見聴取手続や弁明聴取手続はあります。しかし、これまでの医療事故事案関係者の行政処分では、医道に反するか否かの検証・議論が十分にされることはありませんでした。

2.医療事故事案の刑事処分と行政処分について
平成14年12月13日に医道審議会医道分科会は「医師および歯科医師に対する行政処分の考え方について」(平成27年9月30日改正)という指針を示し、業務上過失致死(致傷)に関して以下のように記しています。

「(2)医療過誤(業務上過失致死、業務上過失傷害等)
人の生命および健康を管理すべき業務に従事する医師、歯科医師は、その業務の性質に照し、危険防止の為に医師、歯科医師として要求される最善の注意義務を尽くすべきものであり、その義務を怠った時は医療過誤となる。
司法処分においては、当然、医師としての過失の度合いおよび結果の大小を中心として処分が判断されることとなる。
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、医師、歯科医師として通常求められる注意義務が欠けているという事案については、重めの処分とする。
なお、病院の管理体制、医療体制、他の医療従事者における注意義務の程度や生涯学習に努めていたかなどの事項も考慮して、処分の程度を判断する。」

上記の指針に従う形で、医療従事者の行政処分を医道審議会は答申しています。「医道」との関連性が極めて希薄な刑事処分を踏襲した行政処分を、厚労省は現在も行っています。

3.医療事故事案の当事者たる医療従事者個人の行政処分の妥当性
医療は複雑系のシステムであり、同じエラーでも、結果として何も生じないこともあれば、インシデントやアクシデントに至ってしまうこともあります。この様に不確実なシステムの中で生じる医療事故において、最終立会者である医療従事者にのみ処分を下し幕引きを図る手法は、医療安全の向上に関する最大の阻害要因であると考えます。
医療従事者は医療機関に於いて、能力を発揮できるようにトレーニングをされている以上、医療事故の事案の発生には、少なからず、その組織にも責任が生じると考えます。しかしながら、病院管理者、医療機関、行政・立法の責任にまで言及される事はまれであり、医道審議会では当事者である医療従事者個人のみが行政処分となっています。
医療機関の長時間労働の常態化、スタッフ不足については、すでに一般の方でも知るところであり、そのような労働環境の中で、必然として生じるミスを個人にのみ帰する行政処分が妥当かどうか、広く意見を聞いて考えて頂きたいと考えます。

4.医道審議会で諮られている業過罪に関連した医療事故の取り扱いの問題点
近年の医道審議会で諮られている業過罪に関連した医療事故では、以下のように、共通したシステム・エラーの存在が推認できます。

http://expres.umin.jp/mric/nakajima1.pdf

これまでの刑事処分や行政処分では、当事者の医療従事者個人の責任追及に固執するために、ヒューマン・エラーを事故の原因と結論づけ、上記の1~3に示したシステム・エラーの存在を見落とし、改善出来なかった事例がほとんどでした。
所管官庁である厚生労働省はもとより、国民もそうしたことを理解し、より安全な医療を構築していかなければなりません。上記のシステム・エラーを俎上に挙げて、再発防止に取り組む必要があると考えます。

5.医療事故の当事者たる医療従事者は処分される対象か? 本当に処分されるべき対象は何か?
現在の医道審議会のヒューマン・エラーを処分するやり方は、大衆の応報感情に迎合するものではありますが、「医療事故再発」の可能性を上昇させ、大多数の良識的な国民に大きな不利益をもたらします。大衆迎合的な医道審議会は医療安全に繋がりません。行政処分の在り方として、当該医療機関に対して再発防止のためのシステムを構築させ、その制度設計が不十分であれば修正指導をし、一定期間後の視察で実施状況を確認し、改善できない・やらない医療機関の認可を取り消す、などの施策が必要と考えます。

6.露呈した医道審議会と第6次改正医療法との矛盾
第6次改正医療法によって、医療事故調査制度の「目的」そのものが完全に変わりました。今までの医療事故調査制度の目的は「責任追及」でした。現在の、そしてこれからの医療事故調査制度の目的は「医療安全」と「再発の防止」です。医療安全に目的が変わったことで、各医療機関は医療安全のための「学習」を課せられることになりました。
しかしながら、人の行為にエラーは付きものです。それゆえ、他者のエラーを対岸の火事と傍観することなく、自らに置き換えて学習することが重要になりました。すなわち、現在の医療事故調査制度の趣旨は、「学習」を通じた「人材育成」です。
現在の医療事故調査制度の基本は、WHOドラフトガイドラインです。WHOドラフトガイドラインの中には、重要な基本方針が6つ記されています。それらの中で真っ先に記されている基本方針が「非懲罰性」です。人を責めれば、人は萎縮します。はからずも医療事故の現場に立ち会った医療従事者個人を責めれば、再発防止のヒントを語ってもらえません。失敗を繰り返さないための学習の機会を奪ってはいけないのです。
「懲罰」を目的とした医道審議会の答申は、第6次改正医療法と完全に矛盾します。医道審議会は、現在の医療事故調査制度の趣旨から外れた「指針」を完全に棄捨しなければなりません。

7.最後に
医療者個人の処分が医療安全に寄与しないことは、歴史が明らかにしています。国民が医療安全の向上を願うのであれば、そして、平成27年10月1日から運用が開始された医療事故調査制度を第6次改正医療法に記されている『医療安全』を考えるのであれば、医道審議会の在り方も、ヒューマン・エラーからシステム・エラーに転換し、問題の本質を明らかにし、国民の健康に寄与する医療制度としての質の向上を考えていかねばならないと考えます。我々、臨床現場の最前線で働く医療者として、全国医師連盟は、上記の課題を早急に改善すべく、繰り返し主張し続けます。

【参考文献】
・2014.04.30:【緊急声明】 医療事故調査に欠けている視点「フールプルーフ」
-国立国際医療研究センター病院医療事故報道に関連して-
zennirenn.com/opinion/2014/04/post-25.html

・2015.7.16「ウログラフィン」誤投与事故の一審判決に対する緊急声明

http://zennirenn.com/news/2015/07/post-71.html

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