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Vol.063 花は咲く

医療ガバナンス学会 (2017年3月24日 06:00)


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この原稿は相馬市長立谷秀清メールマガジン 2017/03/11号 No.304からの転載です。

相馬市長 立谷秀清

2017年3月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

3月10日、震災6回目の慰霊祭の前日という日に、市役所市民ホールの壁に150号の巨大カンバスが掛った。

作者は20年も前に描いた作品と言うが、松川から磯部に続く、当時の大洲海岸の美しい波打ち際から、一人のいたいけな少女が此方に向かって歩いてくる作品である。(#1)

この少女が向かおうとしている先は、いま私たちのいる此処なのか?それとも彼女の未来なのか?

私は、作品の前に立ちすくんでしまった。

気を付けてよく聴くと解るのだが、復興ソングの「花は咲く」は、震災で亡くなった若い女性が、被災地の未来を祈っている詩である。
6年前の今日。

地震の津波を心配した28歳の慶子さんは、実家に住む100歳の賀寿を迎えたお祖母さんを避難させようと、職場の沖の内地区から6キロ離れた磯部大浜の自宅に向かい犠牲となった。

学習塾の塾頭を務めていた彼女は、私が月に一回主宰していた政治塾のメンバーだった。教育行政や、福祉に関心を持つ聡明な女性で、私のレクチャーも一番前でよく聞いてくれたし、質問や発言もしっかりしていたので、ゆくゆくは市会議員から始めてもらおうと思っていた。

震災の翌年の市会議員の選挙には、私の政治塾から3人の若い塾生が立候補し当選している。この6年間は震災対応で政治塾どころではなかったが、彼女が生きていれば、結婚・子育てをしながら政治センスを磨いてくれただろうと、磯部の大浜地区を通るたびに脳裏を過った。

「花は咲く」の歌詞は、その慶子さんが遥か遠い洲から我々に詩っているような錯覚を覚えさせるのである。

冒頭の作品では、まるで少女時代の、その慶子さんがカンバスの波打ち際から此方に向かって歩いて来るのだ。

地震ですっかりクラックが入った市役所旧庁舎で完成を待ちわびながら、新庁舎の落成式をしたのが昨年の10月5日だった。外観は相馬市の震災建築の文法にもなっている和風デザインである。城下町相馬市のお城の隣にあるので、相馬中村藩の歴史に敬意を払い、平城の本丸より高くなってはいけないと3階建てに止めた。

設計上の私の指示と言えば、震災対応に備えて廊下を6メートルと指定したくらいで、事務スペースは職員たちに、議会関係は議員さんたちに考えてもらった。ただ、壁は市民会館やその他の震災復興建築物に合わせて、外壁も室内もクリーミーホワイト、柱は黒に近いダークブラウンに統一するように指示した。ところが、平面図の段階では分からなかったことだが、実際に引っ越してみると6メートルの廊下と白い壁は荘厳な感じがしたし、壁の面積が想像以上に広いことに気付かされた。

対応策としては観葉植物でアットホーム感を出そうと考えた。落成記念にと寄付を申し出た団体などにお願いして、全部で50本を超える観葉植物を配置したが、それでも日を重ねるうちに廊下の白壁の圧迫感が強くなっていくような感覚に捉われた。

そこで考えついたのが市民ギャラリーである。

壁を市民の絵画で飾れば、無機質な壁が市民や職員の感性を揺さぶることになる。設計平面図では分からなかった壁面の存在感を、市民芸術の発表の場と考えたら、これ以上の舞台は無いと思った。そもそも、壁を絵画で飾りたくとも相馬市に何十枚ものストックはないし、新たに購入する予算もない。

新庁舎の広大な白壁を市民芸術の発表の場と考えれば、何も一流の絵画でなくとも良いではないか?ここは市民の自信作をお借りしたほうが賢明ではないか?

市内の絵画クラブの代表者や絵画教育関係者に声を掛けて、この考えを打ち明けたのが11月の終わり頃だった。「そりゃいい、やってみようじゃないか!」ということになり、教育長や庁内の担当者も加えて市庁舎ギャラリー検討委員会を立ち上げた。採用基準や掛額期間などの要綱を定めて、写真での受付による募集を1月の市政だよりで広報したところ、50点を超す応募をいただいた。

委員会の選考では、ほとんどの作品が「GOOD!」となった。またお借りした絵画を壁に取り付ける為のピクチャーレールの工事を進めた。3月9日の委員会ではそれぞれの作品の掛額場所を決定し、震災から丸6年の3月11日に間に合わせることが出来た。

拙メルマガの読者の方には、市役所に来ていただき、冒頭の大作を始め市民からお借りして壁を飾らせていただいた力作を御高覧いただければありがたい。また作品は、おおむね半年でお返しすることになるので、これからも多くの市民の方に御応募いただけますよう。

一階の市民ホールはイベント会場にも使えるようにとの市民からの要望により300平米の大ホールとなったが、イベントの無い通常の日は淋しいので、キャスターの付いた観葉植物で小さな林を作り、テーブルと椅子を置いて、お休み場所として市役所に用事のない人でも利用出来るミニ公園を模してある。また、せっかく市役所にお出でいただいたのに何も出さない訳にはいかないので、コーヒー自動給茶器を備えた。もちろん無料だが、砂糖とミルクは管理上大変なので、お好みの方はご持参いただけますよう。(#2)

(#1)http://www.city.soma.fukushima.jp/mayor/essay/20170313/01.jpg
(#2)http://www.city.soma.fukushima.jp/mayor/essay/20170313/02.jpg

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