最新記事一覧

Vol.105 アメリカはブタを飢えさせない -Piglets in the US will never starve.-

医療ガバナンス学会 (2017年5月18日 06:00)


■ 関連タグ

東北大学大学院医学系研究科附属動物実験施設
技術職員 末田輝子

2017年5月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は動物実験施設でブタ(家畜子ブタとミニブタ)の飼育を担当しています。伴侶動物として注目されるイヌやネコと違い、元来家畜であるブタに対する福祉的配慮、倫理的配慮が非常に少ないことを懸念しています。本稿では、ブタを実験動物として使用する場合の倫理的問題について触れてみたい。

ブタは解剖学的、生理学的にヒトと類似しているとの理由から、外科系、循環器系等の実験に用いられて来ました。昨今は初期研修医等の外科手術のトレーニング、再生医療、異種移植などの医用動物としても注目をされています。実験動物として多用されるのは、体重が20~40kgの時期です。この時期はミニブタの場合はすでに性成熟を迎えた成獣、家畜子ブタの場合は、月齢が2~3ヶ月齢のベビー豚の時期です。

慢性実験には、成長がゆっくりで取り扱いやすいミニブタが向いていますが、値段が高価なためなかなか普及しません。一方、家畜子ブタは価格が安く、匹数を揃えて入手しやすい利点があります。しかし、成長がとても早く、約1.2~1.6kgで生まれたブタは6か月で約120kgにもなります。こうなると研究者も飼育担当者も取り扱いが大変になるために、カロリー制限を行い、少しでも長い期間、導入時の体重(20~40kg)を維持することが多く見られます。例えば、25kgの家畜子ブタの場合は、1kgの家畜飼料を給餌すべきところ、500gの給餌しかしないのです。飼育期間が長ければ長いほど、子ブタは慢性的な空腹のため異常行動を示し、成長は抑制され、体はやせ細り、頭ばかりが大きく見えます。

このように、子どもの動物を使って、少ない給餌量で成長を抑制しながら動物実験を行うことは非倫理的であると思うのです。また、本来の発育を抑制することは動物の生理機能を抑制することになり、疾病罹患率の増加も引き起こします。ですから、そこから得られたデータは科学的には正しいとは言えないはずです。
この非倫理的で非科学的な動物実験は世界中でやむを得ず行われているのか、日本に限ったことなのか、思い切ってNIH(米国保健研究所)の実験動物担当の獣医師にメールで問い合わせてみました。その返事は・・・・

『Piglets in the US will never starve. In the USA this would be seen as unethical and animal welfare problem. In the US we have growth diets for young piglets, and maintenance diets for adults.』

つまり、米国では極端な制限給餌は非倫理的であり、子ブタは決して飢えさせることなく、適正な給餌を行っている、というものです。
このメールを読んだとき、「実験動物福祉」に対するアメリカの成熟を感じました。

動物実験はときとして非人間的な側面を持ち、市民に不安を与えます。人間の幸福のための科学であれば、そこに動物福祉への配慮を位置づける必要があります。欧米では早くからその取り組みが行われて来ました。

家畜子ブタを実験動物として使用する場合の制限給餌に言及した解説書は、私が捜した限りでは日本にはなく、イギリスで出版されたUFAUのハンドブック(The UFAW handbook on the care and management of laboratory animals 7th edition, 1999)には、以下のような記載がありました。

『家畜ブタ:離乳後、子豚は体重25-30kgに達するまで飼料を自由摂取で給餌すべきである。その後飼料摂取は制限すべきである。おおざっぱに言うと、濃厚飼料を給餌するときは制限給餌しない時の消費量の80%を給餌するべきである。ミニブタも同じ』

このことからも改めて、私は家畜子ブタであっても、ミニブタであってもカロリー制限のしすぎは非倫理的であると思います。
また、飼育期間については、『家畜子ブタは成長が速く、長期実験には向かないため、4~6週間より長い実験には使うべきでない』との報告もあります。

家畜子ブタを実験動物として上手に使うためには、無駄に飼育期間が長引くことが無いように、まとめて購入することを避け、実験期間と子ブタの成長を考慮して導入時体重を決定する配慮が必要です。研究者は子ブタの成長に合わせて実験デザインを工夫するべきであり、その逆であってはいけません。
東北大学では、たくさんの家畜子ブタを研究に使っていますが、全ての実験は自然の成長を認識した上で研究計画を立て、取り扱い可能な範囲で実験を実施しています。

「アメリカはブタを飢えさせない」
この言葉には、動物実験をする人間のあり方が問われています。

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらにメールをお願いします。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ