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Vol.130 GCP Renovation: 海外で見直しが始まったICH-GCPがわが国の医学研究に与えるインパクト

医療ガバナンス学会 (2017年6月20日 06:00)


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一般財団法人医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団
専務理事 津田重城

2017年6月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

・はじめに
ICH(医薬品規制調和国際会議)においては、GCPなどの重要なガイドラインを定めているが、この度のICH Renovation(刷新)の動きは、製薬企業だけでなく、わが国の医学研究に大きな影響を与えると考えられるので、若干生硬となるがそれを紹介したい。

・GCP刷新のきっかけ
2016年、GCPの別の改正案の意見募集の際に寄せられた研究組織や多くの研究者からなる国際コンソーシアムからの手紙がきっかけとなった。有効性も安全性も情報が十分でない新しい作用機序の医薬品の開発段階と有効性が確立され、安全性もある程度理解されている市販後とでは、被験者や患者のリスクは異なる。
「多様な状況下、多様なデザインの研究に参加する被験者に対する様々なレベルのリスクに対して、現在のE6(GCP)は十分に目が配られていないし、そのようなリスクに対応する柔軟性も許容できていない」というのが提言の主旨であった。欧米の研究者は市販後の臨床研究であってもICH GCPを遵守して行っており、この提言の前からICH GCPに対する不満は鬱積していた1)。

・GCP刷新の提案の内容2)
本年1月に意見募集のために出されたICH Reflection on “GCP Renovation” はその前文において、上に述べられた様々な試験デザイン等に対する柔軟性と、スコープの狭さに大体対応していると述べている。20年前にGCPが定められてから、試験サイトや国際共同治験の増加などの複雑化に対処するため、電子システムを活用してrisk-basedの考え方を入れ、それが最近のE6(R2)という改訂につながっている。
最近”real world”からのデータ(電子カルテ、クレームデータ(レセプトデータ)、患者/疾患登録など)が規制の意思決定に用いられるようになった。その目的の他に、医薬品の価値や価格の評価等にGCPが適用される可能性が増えている。この中でも医薬品の価値と価格に関するHTA(医療技術評価, 費用対効果評価)は、日本の読者にもなじみがあるであろう。

・改訂版ICH E8(臨床試験の一般指針)と刷新されるICH E6(GCP)に関する提案
ICH E8ガイドラインはハイレベルの内容で、これができた1997年にはデータの質は手続き上のものであり、現在目標となっている”quality by design”(設計(計画)に基づいた質の確保)、すなわち、試験で求められるデータの質を明確にし、この質を得るためにリスクの評価に基づいて試験の実施を設計するものだが、それは含んでいなかった。
ICHはE8の改訂において、これらに取り組み、すべての臨床試験における本質的な考えとして、”fit-for-purpose” data quality (目的に応じたデータの質)を得る最新の考えを取り入れることとしている。その上で、GCPの伝統的な介入試験における主要な役割を保ちつつ、他のデータソースや規制決定の文脈に取り組むこととしている。
ICH GCPガイドラインの改訂には以下が含まれる。
1.GCPは現在の焦点を保つが、よく設計され、より明確なプロトコールの重要性に鑑み、試験の質の考慮に関する議論のため、E8ガイドラインの改訂を参照する。
2.刷新されたGCPの本体は、ヒト被験者の保護、データの質、試験の監査やモニタリングに対するrisk-basedのアプローチといった原則に焦点を当てる。

新しいGCPには、幾つかの附属書が設けられる。個々の附属書では、GCPが適用する特定の試験のタイプやデータソースについてより詳細に述べ、考慮されるべきCTQ (critical-to-quality, 質にとって決定的な)ファクターについて、より詳細な内容が述べられるであろう。

附属書1:未承認薬又は効能追加等に関する伝統的な介入試験現在のGCPは、伝統的な症例報告書とモニター要件のもとでデータを収集し、規制目的の伝統的な介入試験に焦点を当てている。この文書は現在のrisk-basedアプローチを反映し、不一致を取り去るものである。

附属書2:非伝統的な介入試験又はデータソース
実際的臨床試験(pragmatic clinical trials)、新たなデータ収集を補完または置き換えるreal worldのデータソースが含まれる。試験の目的は既承認品目の規制上のレビュー用のエビデンス生成や広いリサーチクエスチョンを含む。プロトコールの遵守やモニタリングの原則は、安全性プロファイルがよく記録され、知られている上市後の製品が研究対象であるという事実を反映したものとなるであろう。

附属書3:非伝統的な試験デザイン
RCT(ランダム化比較試験)以外で代わりとなるデータソース(電子カルテ、クレームデータなど)に負っている観察研究、患者登録等の非伝統的な試験デザインを含む。これらの試験は医療の実態や政策のための知見を生むようデザインされるし、規制上のクエスチョン(市販後の製品の安全性など)に取り組む際にも用いられる。この附属書で述べられるプロトコールの遵守やモニタリングの原則は、データソースと一致し、附属書2で提案されるような、安全性プロファイルがよく知られている上市後の製品が対象であるという事実を反映したものとなるであろう。

ICHではまずE8の改訂に取り組み、次いで新しいGCPの包括的な原則文書を作成し、その後、附属書に取りかかる。第3の附属書に関しては、対象となる試験が広範にわたるため、これらの試験のタイプのガイドラインに対する提案を共同で作成しながら、例えば、政府の医療研究者、アカデミアの研究者等と協力するであろう。

・“Renovation”活動の計画(案)
2017年後期か2018年から、”Quality by Design”の考え方を、臨床試験の計画や設計のキーとなる考慮ポイントとして追加するE8の改訂を開始する。GCPの刷新については、まず包括的な原則を述べる新しいガイドラインを作成するが、その後附属書1、2、3と進んでいくこととなる。小宮山氏3)によるとGCP刷新のすべてが完結するのは2020年代半ばとされている。

・ICHのGCP刷新のための拡大プロセス
刷新の重要性とICH外のアカデミア・リサーチコミュニティのGCPに関する専門知識を考慮し、E8とE6の改訂に関する意見募集を特別に拡大する予定である。本提案文書の次には、ステップ1(トピックの選定、問題点の分析、専門家作業部会の設置、技術文書の起草)の前に、コンセプト・ペーパーとビジネス・プランについて外部のコメントを求める。また、ガイドライン作成の重要な過程で、外部の関係者と会議を持つこととしている。
なお、この問題の最近の状況については、小宮山靖氏がより広く、分かり易く解説している。3)

・終わりに
今まで述べたように、今回のICH GCPの改訂は、製薬企業が承認申請に際し提出する臨床試験だけでなく、「非伝統的な」介入試験やデータソース、そして試験デザインまでも適用対象としている。簡単にいうと、試験のタイプや対象品目に応じてGCPの適用にメリハリをつけようとするもので、世界の医学研究に大きな影響を与えるものと考えられる。1月に発表されたペーパーへの意見募集は3月に締め切られているが、今後何度か広く意見を聴く場を設けるということなので、本件の進展をフォローし、日本からも声をあげていく必要があると考える。

1) Reith, C. et.al., Randomized Clinical Trials -Removing Unnecessary Obstacles. N Engl J Med. 2013, 369 (11), p.1061-1065.
2) 「ICH Reflection on “GCP Renovation”: Modernization of ICH E8 and Subsequent Renovation of ICH E6」 http://www.ich.org/products/gcp-renovation.html
3) 小宮山 靖. 「GCP刷新 (GCP Renovation) のインパクト」 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス 48(5), p278-281 (2017)

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