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Vol.146 〔新専門医制度〕データに基づいて議論して再検討すべき -神経学会の調査からの考察-

医療ガバナンス学会 (2017年7月12日 06:00)


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安城更生病院 副院長/神経内科部長
安藤哲朗

2017年7月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新専門医制度の制度設計の中で、施設の移動を伴う循環型のプログラムが強制される点、また内科学会専門医において、3年目以降も「総合内科研修」が必修とされる点が、特に地域医療と若手医師教育に悪影響があるように感じていた。しかしこれらの点に関する現状のデータがなかったので、実りある議論になりにくかった。
このたび神経学会の専門医制度課題検討委員会において全国の教育施設、準教育施設にアンケート調査を行い、神経内科専門医育成の現状についてかなり信頼性の高いデータが発表された(委員会報告、神経内科専門医の現状についてのアンケート解析結果.臨床神経2017;57:402-410、https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/057070402.pdf)。これは既に公表されているデータであるので、それを基に新専門医制度の問題点を論じてみたい。
この報告は5年間、905人の神経内科専攻医について,基本領域内科での専門研修期間とされる卒後3年目から5年目までの3年間の研修状況を分析したものである。全体の約8割の神経内科専攻医を捕捉できたと考えられる。

1 )基幹施設―連携施設の循環型研修プログラム
まず3年間の研修期間における施設の移動については、全調査者905人中464人(51.3%)が大学-市中病 院のローテート研修を行っていた。167人(18.5%)が大学のみでの研修,274人(30.3%)が市中病院のみでの研修であった。また,330人(36.5%)が3年間連続した単独施設での研修を行っており,その内訳は,大学での単独施設研修が155 人(17.1%),市中病院での単独施設研修が175人(19.3%)であった.つまり、これまで3分の1以上の専攻医は単独施設で研修していた訳であり、循環型のプログラムが強制されると大きな変更を要することとなる。
循環型プログラムについて、専門医機構は当初は地域医療への配慮のためと説明していたが、その後「単独の施設では研修が偏るから」という説明に変化している。実は本来のプログラム制という用語には循環型研修という意味はなく、諸外国は多くは単一施設での研修である。循環型のプログラムが、専攻医の研修に資するものかどうか、また当初目論見と逆に地域医療を崩壊させることがないのか(これまで単一施設で専攻医養成してきた市中病院にローテートが義務づけられるために、地域医療の中核であるこれらの病院の弱体化が懸念されている)を、この「3分の1の専攻医に変更を強要する」ということを重く受け止めて、しっかり議論して再検討すべきと考える。

2)内科の総合内科研修とsubspecialty研修
内科のsubspecialtyに位置付けられる神経内科に特化した専門研修をいつから始めたかのデータを見ると、87.8%の専攻医が卒後3年目から神経内科専門研修を開始していたことが判明した。
内科学会は、最初は「総合内科研修」を3年間やってから、subspecialty研修を始めるべきと主張していたが、その後2年間に減らして3年目はsubspecialtyとの並行研修を認めた。さらに専門医制度開始が延期されてからはsubspecialtyとの並行研修はいつから開始してもよいと緩和された。しかし「総合内科研修」の症例経験の必要数は以前と変えていない。つまり、卒後3年目以降も「総合内科研修」をするべきであり、subspecialtyだけの研修にしてはならないという考えのようである。
この内科専門医の制度は、少なくとも神経内科については87.8%の専攻医に対して現状の研修の変更を強いるものである。制度の激変と言えるだろう。これにより神経内科が大幅な戦力ダウンを起こすことは容易に予想ができる。また、研修の質についても、このデータを基にもっと徹底した議論が必要である。
どの内科subspecialtyの医師も、総合内科的な素養(つまり自分の専門科以外の素養)が必要なことは当然であるが、それがどの程度必要で、それを身に着けるのにどのような研修が有効であるかについてはほとんど検討されていない。プライマリケア能力については初期研修で十分得られていると考える人も多い。特に市中病院では豊富な症例を経験して2年間で相当な実力をつけることができるので、3年目以降もさらにローテートする必要は感じられない。また,神経内科研修に専念しても,高齢化社会の中,脳梗塞や認知症,神経難病などの受持ち患者は種々の内科的合併症を起こすものであり,それに真摯に対処することで総合内科的臨床力は身につくという考え方もある。もちろん初期研修修了後も十分な内科総合研修を行うことが望ましいという意見もあることは間違いなく,そのような多様な考えの中でsubspecialtyの総合内科的研修のあり方は議論されるべきことである。
実はこの総合内科研修のしばりが、日本の内科系診療を専攻する若手医師の減少を起こし、内科領域の衰退につながる懸念が指摘されている。内科専門医取得後、subspecialty専門医を取得するまでに従来よりも時間と労力がかかることが予想されるため、出産・育児などのライフイベントの時期が重なる女性医師や研究志向の強い医師の内科離れが実際に起こっているようである。

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