最新記事一覧

Vol.156 1500人に1人、ろう者にも平等の医療サービスを!(第1章 聴覚障がい者の現状)

医療ガバナンス学会 (2017年7月27日 06:00)


■ 関連タグ

大木洵人

2017年7月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

手話通訳を介して診察を行った事のある医療従者は、そこまで多くないと思われる。ましてや、恒常的に手話を必要とする患者さんが通ってくるというクリニックはほぼないであろう。

■聴覚障がい者は、みんな同じではない。

日本には障害者手帳を持つ聴覚障がい者は約32.4(1)万人いる。これは、日本の総人口の391(1)*人に一人の割合である。街中でも見かける事の多い視覚障がい者は約31.6(1)万人なので、わずかではあるが聴覚障がい者の方が数としては多い。しかし、聴覚障がい者に関する正しい知識を持った人は少ないのが現状である。
一般的に馴染みのある「聴覚障がい者」には、大きく「難聴者」、「ろう者(聾者)」、「中途失聴者」がある。日本では聴覚障がい者という単語にまとめられがちだが、難聴者、中途失聴者、ろう者は大きく異なる。

□難聴者
難聴者を分類すると軽度難聴者、中等度難聴者、高度難聴者、重度難聴者、老人性難聴者と5種類に分類される。(ただし老人性難聴者は加齢により耳が遠くなった人であり障がい者には分類されない)
軽度難聴から重度難聴までは、聞こえるdB(デシベル)の範囲で定義が変わり、言葉の通り障害の程度で分類される。詳細に関しては一部割愛するが、日本の基準はWHOが定義している国際基準(International Classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps)より厳しく、国際基準では福祉サービスの対象となる障害者に分類される聴力の人も、日本では基準を満たさない場合が多い。
日本の基準では片耳でも50dB以下の音が聞ける場合、障害者手帳は付与されないが、WHOの国際基準では、左右非対称の場合は重度の方に合わせると定義されている。
中途失聴者は、聞こえの程度とは関係なく、事故や病気によって音声言語獲得後に失聴した場合に分類される。もともとは聴者であったので、発話は比較的に問題がないケースが多いが、聞き取りに関しては、聴力次第では極めて困難である。

□ろう者
ろう者の定義は難聴者とは大きく異なる。医学的には100dB以上の最重度の聴力レベルの事を言い、聴覚障がいの中では最も重い身体障害者二級に値する。しかし、一般的には“手話を母語として使用する聴覚障害者の事”を『ろう者』と定義し、その数は日本に8万~9万人(2)いると言われているつまり、難聴者は聴力の程度によって定義され、中途失聴者は失聴した時期で定義されるのに対して、ろう者は使用する言語によって区分されるのである。
難聴者と中途失聴者は日本語がベースになっているという意味では、手話を母語とするろう者とは根本的にコミュニケーション方法が違う。つまりは、言語の違い、文化の違いとなってくる。
社会構造的にも難聴者と中途失聴者は同じ当事者団体として活動をしているが、ろう者は別の当事者団体を作り活動をしている。同じ聴覚障がい者といっても、コミュニケーション方法が大きく変わっているのだ。

■手話は “手で表現する言葉”なのか?
~コミュニケーションツールとしての言語~
手話は「手で話す」と書くので、日本語の文章のまま、単語を手で表したら手話になると考える人が多いが、実際には文法の異なる全く別の言語である。そして、手話でコミュニケーションをとっている人を見たことがある人は気が付いたかもしれないが、言葉を全て手のみで表現をしているわけではなく、体、表情、視線すべてを複合的に使用した言語となっている。
また「happy」という英語を日本語に訳すとき「幸せ」「幸福な」「嬉しい」「満足な」など、複数の意味で表せるように、手話も日本語の単語と対になっているわけではない。
また、手話には「てにをは」にあたる助詞がなく、単語の位置関係と方向で主語述語が変わる。音声言語との大きな違いとして、同時に二つの単語を発する事は物理的に不可能であるが、手話の場合は手が二つあるので二単語を同時に表すことができるなど、言語的、文法的、読み取れる情報など、音声言語を駆使している我々とは違う世界観でコミュニケーションをとっている。

■日本手話と日本語対応手話
実は、国内には二つの種類の手話が存在する。ろう者が使用している、日本語と全く文法の違う手話を日本手話という。今回の連載では、特段に言及がない場合は、手話とは日本手話の事とする。日本手話の言語的な特徴は、これまでに説明したとおりである。
一方、日本に存在するもう一つの手話が、日本語の文法をそのまま使った日本語対応手話である。日本語対応手話は、日本語を話しながら手話の単語を同じタイミングで表していく。イメージとしては「私の父は医者で、神奈川に住んでいます」という日本語を「My father doctor Kanagawa live」と伝えているようなものなので、簡単な文章であれば理解できるが、推測の部分が多くなるため、複雑な文章になると理解できなくなり、誤解も生まれやすくなる。

■手話は世界共通ではない
手話は世界共通だと思われがちだが、各国でまったく違った手話がある。アメリカとイギリスの手話も違うため、「英語手話」というものは存在せず、あるのは、アメリカ手話とイギリス手話である。国連傘下の世界ろうあ連盟によると世界には7000万(3)のろう者がおり、日常的にいずれかの手話を使って生活をしている。
そして、音声言語にも方言があるように手話にも方言が存在する。その多くが、単語レベルでの違いだが、同じ「にわとり」という単語も日本国内だけで16種類も発見されている。

■手話と筆談
このように、手話は日本語とは全く違う言語なので、日本語による筆談では対応しきれない事も多い。もちろん、難聴者や中途失聴者であれば、手話を使わない人が多いので、筆談での対応で十分という事になるが、手話を母語とするろう者にとって日本語は文法、構造などが違う第二言語なので難しい会話になると理解が難しい。実際に、市役所の福祉課にヒアリングを行うと、病院で筆談をしてもらったが、理解できないため、改めて後日市役所の手話通訳者にわざわざ手話へと翻訳をして内容を理解するという、ろう者も存在するとのことだ。
筆談の場合は、一方が書いている時間はもう一方が待つ必要があるので、仮に日本語での対応が可能なろう者であっても、時間は倍以上必要となってしまう。手話の方が、情報効率が圧倒的に良いため、対応する側の立場からも対応時間が短縮できる。
一般的に聴覚障がい者と一括りにしていたものが、今回、日本語をベースにコミュニケーションを行う難聴者と中途失聴者、手話をベースにコミュニケーションをするろう者とでは全く違った生活をしている事がわかって頂けたと思う。

1. 『平成23年生活のしづらさなどに関する調査』厚生労働省・2011年
2. 『聴覚障害者福祉・教育と手話通訳』植村英晴著・中央法規・2001年
3. 世界ろうあ連盟公式サイト・https://wfdeaf.org/・2017年7月27日閲覧

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらにメールをお願いします。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ