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Vol.193 求められているのはセンター業務の改善

医療ガバナンス学会 (2017年9月15日 06:00)


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この原稿は月刊集中10月号に掲載予定です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2017年9月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.制度は2年間、堅調に推移
平成27年10月にスタートした医療事故調査制度は、平成29年10月をもって2年を経過する。この間、医療事故の発生報告の件数は、月間平均で31~32件であり、少しずつ医療事故が減る傾向にもあり、制度発足当初の見込みのとおりであって上々であった。秘匿性のルールも比較的よく守られていたので、医療事故調査制度のために炎上してしまった医療機関も無かったようである。各医療機関ともに、濃淡はまちまちであるとはいえども、総じて院内でのルール作りや症例の検証システムの体制作りに進展もあったと聞く。

医療現場においては、この制度のパラダイムシフトが浸透し、制度は2年間、堅調に推移したと評してもよいであろう。はっきり言えば、医療事故調査制度は成功であった。
これから数年を経過すれば、各医療機関における医療安全はますます向上することと思う。まことに喜ばしいことである。

2.センターだけは後向き
成功している医療事故調査制度の中にあって、医療事故調査・支援センターの指定を受けている日本医療安全調査機構の一部の関係者だけが取り残されてしまっているのではないか、とも思う。今もって柔軟にパラダイムシフトをできず、相変わらず後向きの感が強い。そのようなことでは、年間数億円もの国庫補助金を費消しているにもかかわらず、大胆かつ効果的な再発防止や医療安全の改善の対策など編み出せないであろう。

たとえば、平成29年8月31日付けのメディファクスの記事(報告増えていない背景に「事故報告の判断基準」)が、後向きの姿勢をよく表現している。記事で引用されている運営委員の一人である上野道雄氏(福岡県医師会副会長、国立病院機構福岡東医療センター院長)の発言がわかりやすい。「研修会で講師をしているが、報告すべきかどうかの基準に病院はすごく迷っている。心の中では報告したくないという姿勢が見え隠れしている」とか、「この報告制度は、医療者にとって非常にありがたい制度だという本当の意味を管理者が実感したら、徐々に増えていくと信じている」と述べていたようである。
今もって主要な委員がそのような消極姿勢では、センターだけが後向き、と評せざるをえない。早く柔軟にパラダイムシフトして、制度に対して前向きな気持ちで取り組んでもらいたいものである。

3.再発防止策も旧来型のまま
後向きの姿勢が影響しているためであろう。センターが打ち出す再発防止策も、旧来型の枠にとどまっている。
「医療事故の再発防止に向けた提言」は、第1号が「中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析」(平成29年3月)で、第2号が「急性肺血栓塞栓症に係る死亡事例の分析」(平成29年8月)であった。

先ず、いずれもテーマの選択が今般の医療事故調査制度らしくない。中心静脈穿刺合併症や急性肺血栓塞栓症というのでは、まるで日本医療機能評価機構の運営している医療事故情報収集等事業の二番煎じの如きである。今般の医療事故調査制度は、医療事故情報収集等事業でやっているようなことは旧来型としてそのまま日本医療機能評価機構に任せ、それとは別に新たな題材の選択と改善の観点で営まれなければならないし、こうしなければ意味がない。

現に、提言の第1号の「6.おわりに」〔25頁〕では、「これらの提言は、決して新しいことではなく、ガイドラインなどで指摘され続けてきた内容である」などと述べられていて、旧来型の焼き直しであることを自ら認めている。確かに診療等のガイドラインそのものは重要であるけれども、その重要なガイドライン作成は政府や学会がそれこそ専門であり、日本医療安全調査機構が中途半端に首を突っ込まなくてよい。今般の医療事故調査制度や医療事故調査・支援センターの役割は、今までと同様なガイドライン作成ではなく、独自の観点から安全対策の改善提言を出すことなのである。日本医療安全調査機構は、いつまでも旧来型の「医療の質の向上」といった固定観念だけに囚われていないで、「医療の質」と峻別された「医療の安全」そのものをも追求していかなければならない。

4.制度の枠外への逸脱といった足掻き
日本医療安全調査機構は、後向きとか旧来型というにとどまらず、パラダイムシフトした医療事故調査制度にどうしてもなじめないのであろうか。
平成29年8月31日付けweb医事新報の記事(第三者機関調査結果を将来的に公表か)によれば、日本医療安全調査機構の運営委員会で「センター調査による再発防止策は貴重な提言なので、将来的には個人情報を伏せた形で広く医療機関等に知ってもらうよう厚労省と話をしたい」との意向が表明されたらしい。しかし、高久史麿理事長自身も「現行の法律ではセンター調査の結果は遺族と医療機関に報告するのみ」と認識しておられるし、座長である樋口範雄武蔵野大学教授も「基本的な難問だが、」と留保されておられるとおり、もともと旧来型の「公表」を行うのは制度の枠外であり、いわば無理筋である。

現に早速、強烈な批判が浴びせられた。平成29年9月8日付けm3の記事(「センター調査の結果公開、逸脱行為」 医法協医療安全部会長名で日本医療安全調査機構を問題視)のとおり、日本医療法人協会医療安全部会長の小田原良治氏は、9月8日に会見し、日本医療安全調査機構が「センター調査の結果」を公開する方針を示していることに対し、「これが事実とすれば、センター業務の法律からの逸脱行為」と問題視する声明を公表した。さらに、「同機構がこのままセンター機能を担うことには、不安を感じざるを得ない。」とし、厳格に法に従った活動を行うべきと指摘したのである。真っ当な指摘と言ってよいであろう。

厚生労働省も事の重大さに鑑み、迅速に、医政局総務課から日本医療安全調査機構に対して「勇み足をしないように」と注意したそうである。厚労省からの正当な注意を受けて、日本医療安全調査機構ももうそろそろ腹を据える潮時であろう。制度の枠外への逸脱などという悪足掻き(わるあがき)は、もう止めなければならない。
これを機に、日本医療安全調査機構には覚悟を決めて前向きの姿勢に転換し、センター業務を改善していくことが求められよう。

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