医療ガバナンス学会 (2017年9月21日 06:00)
ここ数年、ハンガリーは「難民受け入れ拒否国」としてよくニュースで見かけるようになった。EU全体で難民を分担して受け入れようという政策にも断固として反対し、また、その政策に対して国民投票まで行った。反対票は98%にまでのぼったが、投票率が成立条件50%には満たず、選挙自体が不成立となった。しかし周囲からは「ハンガリーはEUから離脱するのではないか」という憶測が広がった。
しかし、ハンガリーはEUの難民の受け入れ政策には未だに反対しているが、EUから抜けようとはしていない。そもそもオルバン首相はEU離脱などこれっぽっちも考えていないのだ。彼の思惑はハンガリーを「EUの入り口」にすることだけである。
2010年のオルバン政権設立以来、オルバン首相は欧州委員会の立案や議決には不満を持ち、訴えてきた。執行機関でしかない欧州委員会が政策を提案し、欧州理事会で採択させ、EU加盟国に実行を強要していると強く批判しているのだ。現在のEUは、新規加盟国である旧共産主義の小国が原加盟国の大国フランスやドイツの言いなりにならなければいけない状況になっている。
でもだからと言って簡単にEUを抜け出せるわけではない。ハンガリーのような経済力もない小国がEUを抜け出したところで何もできない。だからこそ、ハンガリーにとってはEUという肩書きが必要であり、そのEUの入り口になることが目標なのだ。そのためにはロシアや中国と言った、ヨーロッパ以外の大国と仲良くし、経済強化することで欧州市場の入り口となろうとしているのだ。
本来ならハンガリーのような小国が声を荒げて騒いだところで、「旧共産主義国の戯言」として気にもされずに終わっていただろうが、ブレグジットによって傾きかけているEUにとって、ハンガリーは脅威である。そのうちの一つとして、難民の受け入れ反対は、本来ある自由民主主義の欧州的価値観やグローバル化と対立する人々に大きな影響を与えており、EUの改革につながりかねない。オルバン首相はそういった世の中の不安や不満など、世の中の動きに敏感だ。また、EU改革を進める上でも、同じポピュリストであり、ドイツやフランスと対立するトランプ氏が当選したこともオルバン首相への大きな後押しとなり、最大限の追い風として利用している。
小国ハンガリーによってどこまで動かされていくのか、大国への対抗を目的としたロシアへの「ごますり」はどうなっていくのか、今後のEUから目が離せない。
参考文献:MONTHLY HUNGARY JOURNAL 2017 JULY-AUGUST VOL.174