医療ガバナンス学会 (2017年10月11日 06:00)
梶原拓先生のことは、ご存じの方も多いだろう。亡くなってから次々と梶原先生の業績を知った私が紹介するまでもないが、梶原先生は建設省(現、国土交通省)での奉職後、1989年から2005年に岐阜県知事をつとめられ、2003年からは全国知事会の会長で「戦う知事」として、今では「ふつう」になった地方分権をいち早く唱えられていた方だ。
私が梶原先生と出会ったのは、知事引退から4年が経っていた2009年の初夏だった。私は当時、がん患者、慢性骨髄性白血病(CML)患者の治療費負担の問題にたずさわりはじめた時で、看護師資格を持つ研究者として「CMLやがん患者の治療費負担軽減、高額療養費制度が有する課題」に取り組んでいた。
同じ時期に梶原拓先生は健康医療市民会議を有志の方と立ち上げておられ、がん患者の治療費負担の問題の構造を説明すると、その会が解決を目指す課題の1つとして扱って下さった。
そして、梶原先生は力をかしてくださり、2009年の夏総選挙前には、患者さんと私を永田町、霞ヶ関のあらゆる要所でこの問題を伝える機会を作ってくださった。がん患者の医療費負担軽減のために、これまで先生の全人脈をかして下さったのだった。そして先生との活動はすぐに実を結び、2009年夏の総選挙では全政党のマニフェストに盛り込まれ、その後、この問題は解決に向け進展した。
暑い中、あらゆる政党、関係省庁をまわり、その先々での、一歩踏み込んだプレゼンテーション、さまざまな交渉術、患者さんの思いを大切にして下さる梶原先生の姿を私は忘れることができない。
その後もご自身もその域だから、と高齢者の健康増進に熱心に取り組まれていた。私も参加させて頂き、たくさんの方とのご縁を頂いた。高齢者の運転免許更新への取り組みとして、脳の活性化について論より証拠と自身が実験台となり取り組まれていた姿は特に印象にのこっている。なにより、健康情報に強い市民、賢く健康な市民を増やしたい。という梶原先生の思いが詰まった集まりであり、梶原先生の先見の明を改めて感じる。
先生は若い私たちをとても可愛がって下さった。2009年の総選挙後もメンバーと共に食事の機会を作って下さり「これから具体的に動くことしっかり見張るんだよ」と話して下さったことを思い出す。
梶原先生が布石を打って下さった、がん患者の経済的負担問題は、まだまだ解決には至っていない。がん患者の初期の経済的負担は軽減されたが、それ以降には大きな負担は軽減されないままである。梶原先生とのお別れに改めて、この問題の解決まで、しっかりと見張り、声をあげ続けたいと思う。
児玉ゆう子(星槎大学大学院教授):看護師、保健師、看護学修士、医学博士。虎の門病院看護師、佐賀(医科)大学医学部看護学科助手、東京大学医科学研究所特任研究員、星槎大学大学院准教授を経て、現職。