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Vol.261 教育の現場から暴力をなくすために -法教育の視点からの考察-

医療ガバナンス学会 (2017年12月20日 06:00)


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桐蔭横浜大学
高瀬武志

2017年12月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

教育の現場から暴力や体罰といったものを無くそうという気運や働きかけ、組織的な取り組みは年々、高まってきているものの、残念ながら未だに無くなってはいない。特に、スポーツ関係の分野では根強く暴力に関する問題は残っている。

筆者は、大学を卒業後、教職の道を志望し、教職の現場に身を置くようになって、まもなく10年になろうとしている。現在、職務の関係で幸運なことに、小学校、中学校、高校、大学と学校教育の現場である全ての段階に一部分ではあるが関わっている。その中で、教育現場から暴力や体罰を無くす方法や方策の有力な手段の1つとして、「法教育」があると考える。

現在、我が国の学校教育の現場では、児童生徒の発達、発育段階に即して、社会科や公民科といった教科、道徳や特別活動及び総合学習などの時間を利用し、学習指導要領を踏まえつつ、教科書やサブとなる教材を活用し、法やルールなどの意義、司法の仕組みや役割などを理解させ、それらを自分たちの生活や活動環境に照らし合わせて考察し、社会の一員である以上、守らねばならない法やルールに基づいた社会形成を主体的にできるように、あるいは積極的に関わり合えるような態度を育成することを目指している。

小学校から高校までの広義に解釈しての「法教育」を概観してみると、社会科や公民科では、社会生活における取決め等の重要性や日本国憲法の基本的原則、法の支配、権利と義務といった関係性、法に基づいた公正な裁判の保障や裁判制度の概要といった司法の制度などを幅広く学習する。生活科では、具体的な体験活動を通じて、ルールやマナーを守ることによる生活習慣における指導が行われている。道徳や特別活動の時間では、法の意義を理解させて、約束やルールなどを守ることの大切さや尊さを指導し、学級や学校における活動の中で、より良い生活や諸問題の解決をはかるうえで、法やルールについて考え議論し合うことによって、協力し合う態度を育てている。総合的な学習の時間においては、法に関する課題について学習活動を設定できるようになっている。

このような小学校から高校までの「法教育」の現状の中で、大学ではどのような取り組みが為されているのだろうか。特に、スポーツや武道といった分野における「法教育」の現状はまだまだ発展途上にあるのではないだろうか。筆者が勤務する大学には、スポーツ健康政策学部と法学部と医用工学部の3学部が設置されており、特にスポーツ健康政策学部と法学部には運動部に在籍している学生の割合が多い。法学部なのに運動部に在籍している学生の数が多いのは、スポーツ法学コースが設置されていることが大きな要因の1つであり、大学運動部を代表する強化指定のクラブに在籍している学生も多い。

筆者は、法学部に所属し教壇に立つ日々を送っているが、スポーツ法学コースを擁する法学部において「法教育」の1つの柱になるであろう「スポーツ法学」の講義が2016年までは開講されていたが、現在は教授体制の見直しから休講になっていることが残念でならない。大学のレベルでの「法教育」、特に体罰や暴力と関係の深いスポーツや武道といったいわゆる体育会系の運動部に所属する学生にこそ、進んで「法教育」を学習し、法的な視点、考え方からも暴力や体罰といったものを教育現場や運動する現場から無くす取り組みを励行する必要があると考える。

筆者の勤務する大学での「スポーツ法学」の講義は、スポーツの現場と法学者の知識を掛け合わせて、より実践的な「法教育」を目指すために、オムニバス形式での授業形態を採用し開講した。教員は民法や刑法等といった法学の専門家であり、その専門家の視点からスポーツの現場で発生した諸問題について解説し再発を防ぐ等の対策や専門的知識の教授をおこなっていた。講義を受講していた学生たちの反応も良好で、毎回の講義では活気に満ちた講義が多く展開されていたように感じる。

この講義の最大の特徴は、スポーツや運動等の現場で起こりうる諸問題について、各分野の専門家である法学者の視点や知識を基に授業を受けられることであると同時に、どこか難解で窮屈な雰囲気のある法学という教科が、スポーツ等の現場にフォーカスすることにより、講義を受講する学生たちには、非常に身近な問題であるとの認識ができること、法学という分野に対する苦手意識やマイナスイメージが除去されるか薄まる傾向にあるように感じる。

暴力や体罰は「してはいけない」ということは現代に生きる者であれば、ほとんどの者が異論を唱えないと思う。しかし、どのようなケースが暴力や体罰に値する行動なのかといったことやそのようなトラブルが発生した後に待ち受ける諸々の事などを具体的な事件や裁判の例を示しながら学習し、暴力や体罰を無くす取り組みを肌で感じるレベルで学習していくことも、学校教育やスポーツ・武道といった運動現場に身を置く学生たちには必要なのではないだろうかと考える。

日本体育大学では、体罰等で家族を失った遺族の方を招聘し、講演を行うなどの取り組みを開始している。このような取り組みも含めて、現場との密接な関係性を確保したうえでの「法教育」が必要であると同時に学校等の教育現場やスポーツや武道の運動現場における指導において暴力や体罰が根絶する1つの働きかけ、取り組みになると考える。

社会を担うのは人であり、人を育てるのは教育である。教育に与えられている責任は大きい。教育現場に立つ1人として、大学法学部で教鞭を担う1人として真摯に向き合い、取り組んでいきたいと思う。

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