医療ガバナンス学会 (2018年1月5日 06:00)
専門医制度の「質」を守る会共同代表
つくば市 坂根Mクリニック 坂根 みち子
2018年1月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
そもそも研修施設数に対して、専攻医数が絶対的に少ないのは、当初より医療現場からは指摘されており(2)、この事態は想定出来たのである。それでも日本専門医機構はごり押しした。一応特定の地域に集中しないようにキャップもかけていた、はずだった。
具体的にいうと、5都道府県は、専攻医数の制限がかかっていたはずである。それが何故これほどの集中と偏在をもたらしたのか。この結果から考えるに、機構は科別の過去5年間の平均専攻医数すら、きちんと把握していなかったのではないか。そうでなければ、なぜ機構はデータを一切公表しないのだろうか。
機構はガバナンスが欠如している。今機構を仕切っているのは、日本医師会と各学会の幹部であり、機構はこれらの団体から借金している身の上で、独立した第三者機関どころか、全依存状態である。筆者は借金の形にこの制度を強行するにしても、これからの医療を担う若い医師達のためにせめて以下のことだけはやって頂きたいと主張してきた(3)。同様の意見は他の多くの現場の医師達からも出されていた。
・「質」を担保するための統一基準を公表し、「質」が担保されるのであれば、単独施設での研修も認めること
・基本領域の選定再議論も平行して進めること
・基幹施設となる大学病院の理不尽な仕打ちや不自然な循環型プログラムを拾い上げ具体的な改善策を示すこと
・専攻医の身分保障をすること
・機構の議事録をはじめとする情報を速やかに公開すること
・機構は、制度の検証—改善という仕事に特化すること
残念なことに、機構はどれひとつとして、手をつけていない。
今、専攻医の登録をしていない研修医に対して、機構からすぐ登録をして志望先を決めるように連絡が来ているそうだ。誰もが専門医になる必要があるわけでもないのにそれ自体随分強引な話だ。ところが、さらに驚くべき事に機構はどのプログラムが定員いっぱいでどこが空いているかを公表していないのだ。二次応募の研修医のことを全く考えていないのだろう。
他にも、基幹病院に希望者がたくさん集まり過ぎたところでは、1年待つように言われたり、民間病院に行くように言われたりといった、所謂キャリーオーバーが発生しているという。これらについても、機構は一切公表していない。あちこちで挙っている制度のほころびを拾い集め検証することをせず、小手先の帳尻合わせに躍起になっている、何とも情けない事態である。
そして医療の質の担保より、偏在対策を優先させたにもかかわらず、偏在はさらに悪化してしまった。機構の詭弁に弄された全国知事会、市長会はこの結果をどうとらえるのだろうか。
何度も繰り返してきたが、本制度には現場の医師達、特に指導医、若手、女性医師の意見が反映されていない。制度設計を高齢・男性医師で占められている機構のメンバーだけに任せてはいけない。この制度が医療崩壊の最後の一手を打ったと言われないために、機構は現場の声を聞き、改善のために最大限の努力をすべきである。このままでは、医療の未来のみならず国民の未来も危うい。
出典
厚生労働省公式ホームページ「新たな専門医の仕組みについて」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/323.pdf
日本専門医機構公式ホームページ「専攻医一次登録採用数について」
http://www.japan-senmon-i.jp/news/doc/ichjitourouku.pdf
仙台厚生病院 医学教育支援室 遠藤希之 消化器内科 齋藤宏章 作成データ http://stop-it-shin-sen-mon-i.webnode.jp/
(参考)
(1)新専門医制度の2018年度開始に反対、1560人分の署名『専門医制度の「質」を守る会』、厚労相宛に提出 https://www.m3.com/news/iryoishin/547029
(2) 日本専門医機構が固執する「循環型研修」は、地域医療の崩壊を招く
遠藤 希之 氏(仙台厚生病院 医学教育支援室 室長)
https://epilogi.dr-10.com/articles/2254/?mr=abcs
(3) Vol.164 これから専門医を取ろうとしているドクターへ この制度の問題点を知ろう
http://medg.jp/mt/?p=7749