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Vol.015 「製薬会社」が米国を滅ぼす鎮痛剤「オピオイド危機」の現実

医療ガバナンス学会 (2018年1月24日 06:00)


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この原稿は新潮社Foresightからの転載です。

http://www.fsight.jp/articles/-/43178

大西睦子

2018年1月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ボストンの高級住宅街を車で通過すると、わずか数分で、同じ通り沿いにもかかわらず、薬物依存症の人たちがホームレスとなって住んでいる地域にたどり着きます。この地域について10月27日、『CNN』があるレポートで取り上げていました。まずその内容をご紹介します。

◆「死んだ方が楽だと思う」
5歳の息子の父親であるビリーさん(31)は、16歳から注射器を使ってヘロインを常用していました。きっかけは、13歳のときに処方された医療用麻薬のオピオイド系鎮痛剤でした。しかし、この鎮痛剤は高価だったため、替わりに安価で幻覚作用の強いヘロインを鼻から吸引し始め、次第に即効性のある静脈注射を使用するようになりました。ヘロインを始めて服用した際には、まるで「神様に会ったような」多幸感に包まれるほどだったと、そのときの様子を説明しています。

ビリーさんは入れ墨師になりたかったそうですが、現在、職に就いておらず、ホームレス。『CNN』の取材中であっても、注射器を手に、しきりに腕の血管を探しています。記者が「話をしているときくらい、ヘロインをやめられない?」と聞いても、「何であっても、自制させることはできないよ。そのくらい依存症は悪いことだとは自覚している」と答えながら、カメラの前でヘロインを注射していました。

メガンさん(30)は、19歳からヘロイン依存症になりました。彼女の夢は、依存症を克服して家族をもつことでした。そうした夢がありながらも、ボーイフレンドと一緒に薬物を過剰に摂取。目覚めたときには彼が隣で亡くなっていたという経験をしています。彼女もホームレスです。

この2人に記者が「ドラッグで死ぬことは怖い?」と尋ねると、ビリーさんは「自分がドラッグで死ぬことはわかっているよ」と諦めたように答え、メガンさんは「死ぬことは怖くないわ。死んだ方が楽だと思うこともあるの」と声を震わせていました。

近年は、ヘロインより50~100倍も鎮痛、幻覚作用が強力で、少量でも死に至るオピオイド系鎮痛剤の「フェンタニル」が、ヘロインに替わって米社会に蔓延しています。このフェンタニルを利用するクレッグさん(年齢不詳)も前述の2人と同じく、同じ地域にホームレスとして暮らしています。この地域の多くの住人のように、ドラッグをやめたいけどやめられません。そして投げやりなように、「いまオピオイド系はすべてフェンタニル。みんな死んでいくんだ」と言っていました。

◆大統領も緊急事態宣言
2017年11月3日、米疾病予防管理センター(CDC)は、2016年に約6万4000人の米国人が、薬物過剰摂取で死亡したことを発表しました。単純に計算すると、1日に約175人の米国人が、命を落としていることになります。2015年は死亡者が10万人あたり16.3人、2016年には同19.7人に増加しました。

ちなみに銃器関連による死亡者は、2015年は10万人あたり11人の死亡者でしたが、2016年は同12人に増加しました。一方、がんや心臓病による死亡は減っています。

さらにCDCの2017年12月21日データによると、1960年代初頭以来、米国での平均寿命は初めて2年連続で減少しています(2014年78.9歳=男性76.5歳、女性81.3歳、2015年78.7歳=男性76.3歳、女性81.1歳、2016年78.6歳=男性76.1歳、女性81.1歳)。このショッキングなデータは、全米のメディアが報道し、専門家は、原因として薬物過剰摂取による死亡の増加を指摘しています。

なぜこのような悲劇的な状況になったのでしょうか。2017年10月26日、ドナルド・トランプ米大統領は現在のオピオイド系鎮痛剤の乱用が広がっていることを受け、「誰も経験したことがない危機」として、「公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。ところが、『AP通信』の医療担当記者マイク・ストビー氏は、この大統領の認識を「正しいけれども、間違ってもいる」と指摘します。

確かに現在のオピオイド危機は、米国史上、薬物過剰摂取による最多の死亡数を記録していますが、同じように薬物が社会に蔓延したことがこれまでにも何度かありました。過去2世紀において、麻薬の過剰摂取が問題になる際は、製薬会社や医師による薬物の販売促進がきっかけになっています。そして、後になって危険な依存性が判明する、ということも共通しています。

それでは、ストビー氏の記事を参考にしつつ、米国の人々が陥った薬物依存症の長い歴史を振り返ってみましょう。

【Opioid addict: I know I’m going to die, CNN,Oct 27.2017】

【National Center for Health Statistics】

【Mortality in the United States, 2016】

【Fueled by drug crisis, U.S. life expectancy declines for a second straight year, The Washington Post, Dec 21.2017】

【US life expectancy drops for second year in a row, CNN, Dec 22,2017】

◆「ヘロイン」「コカイン」は治療薬
1827年、アヘンから人工的に製造されたオピオイド系鎮痛剤の一種であるモルヒネは、ドイツの化学・医療品メーカー「Eメルクアンドカンパニー」によって、商業用生産が始まりました。南北戦争(1861~65年)では、モルヒネが兵士などに広く利用され、退役軍人らに「軍人病」と呼ばれるモルヒネ依存症を生み出しました。実は、モルヒネ依存症の治療のために開発されたのが、コカインとヘロインだったのです。

このうちコカインは、特に副鼻腔炎などの治療薬として用いられ、医師の処方箋なしに、店頭で販売されていました。さらに、コカインは疲労感や飢餓感を忘れさせ、精神的な持久力を増強させる効果があるため、多くの飲料メーカーは、コカインをワインやソーダに加えた商品を売り出しました。例えば、「コカ・コーラ」は1885年、ジョージア州アトランタの薬剤師ジョン・ペンバートン氏によって誕生した商品ですが、当時、コカインの原料となる「コカの葉」が含まれていました。ヘロインもインフルエンザや呼吸器疾患の治療薬とされ、店頭で簡単に手に入れることができました。

ドラッグストアで簡単に手に入ったコカイン、ヘロインなどの薬物はまたたく間に乱用されるようになりました。1900年代初頭、この状況に危機感を抱いた医師らは、これらの薬剤への依存性について論文を発表し始めました。一方、行政は娯楽用コカインの使用が、売春や殺人などの凶悪な犯罪を引き起こしていると考えました。

こうした動向を受けて、1910年、当時のウィリアム・タフト大統領は米議会に対し、「コカインは、米国民がこれまで直面した中で最も深刻な薬物問題」と宣言したのです。国際的にも、こうした薬物の製造と国際取引を規制する動きが加速し、1914年、ついに米議会は「ハリソン法」を可決。コカインとヘロインは、医師の処方薬としてのみ販売を許されることになったのです。

ちなみに研究者の多くは、その後コカインの使用を抑えられたのは「ハリソン法」の影響ではなく、コカインが依存症を引き起こす薬物だと社会的に広く知られるようになった上、販売価格が過度に上昇したからだと指摘しています。

それはともかく、1920年代、再度ハリウッドのセレブたちにコカインが蔓延したものの、米国の経済的、政治的状況から、一般人には広がることはありませんでした。1929年、ニューヨーク市場で株式が大暴落して始まった大恐慌は1933年頃まで続き、経済的な余裕を失った人々はコカインを購入することができなくなったからです。さらに、1939年に勃発した第2次世界大戦の影響で、海外から薬物の供給が絶たれたことも一因だと考えられています。

◆「麻薬戦争」を宣言
ところが1960~70年代になると、いったんは下火になっていたヘロインの使用が急増しました。ベトナム戦争に従軍した一部の兵士がヘロインやマリファナを使用し、それが問題視されました。この時代は治療薬として一般に広く蔓延した以前の状況とは異なり、薬物依存犠牲者のほとんどは、都会の貧しい地域に暮らすマイノリティに限られました。1970~71年、ニューヨーク市では、多くの黒人とプエルトリコ人の青年たちが、ヘロインで命を失いました。が、依存症になってしまった人に対して、同情する声はほとんどありませんでした。

そこで1971年、リチャード・ニクソン大統領は薬物使用者の増加を指摘し、「麻薬戦争(war on drugs)」を宣言、薬物撲滅のための新たな政策について言及しました。しかし、政府が違法薬物の生産、流通、消費を阻止しようとすればするほど価格は高騰し、密売組織が強固になったことから、ニクソンは最終的に「敗北」したと言われています。

1970年代後半からは、今度は粉末状になったコカインが社会に戻ってきました。これが1980年代の「クラックブーム」を引き起こします。煙を吸引して使用する固形のクラックコカインが使用され、このときには、1グラムが誰でも手にいれることができるような5~10ドルという価格で、路上でも売られていました。注射器を使用するヘロインに抵抗感のある若者がスリルを求め、マリファナ感覚で喫煙していたのです。中毒者は「クラックヘッド(麻薬でいかれている頭)」と呼ばれるようになり、都市部の荒廃した地域では、クラックコカインに関連した殺人などの犯罪によって、家族や地域社会の崩壊が社会問題化していきました。

安価であるがゆえに貧困層に広がったクラックコカインでしたが、メディアでも取り締まりを求める声が強くなりました。1981年に発足したレーガン政権では、「薬物戦争」政策が再び推進され、ナンシー・レーガン大統領夫人(当時)が中心となって、「ただノーと言おう(Just Say No) 」という、白人中流層をターゲットにしたドラッグ撲滅キャンペーンが始まりました。1986年、連邦議会は、従来の粉末や錠剤のコカインを使用するよりも、クラックコカインを使用した方が、非常に厳しい罰に処せられる法律を成立させました。

しかし1990年代になると、クラックコカインの流行は、取り締まりを強化した都市でもそれ以外でも、徐々に収まっていきました。専門家の中には、行政の弾圧よりも、社会の薬物に対する反発が高まっていたことが功を奏したとみる向きもあるようです。

◆5年で30万人が死亡
1995年、製薬会社の「パデュー・ファーマ」が製造する「オキシコンチン」というオピオイド系鎮痛薬が、米食品医薬品局(FDA)によって承認されました。ヘロインやモルヒネが出回り始めたころのように、オキシコンチンは安全性や治療への効果が高く、依存性が少ない鎮痛剤と言われました。さらに慢性的な痛みを治療するたに、長期にわたって使用できる薬剤として、製薬会社がマーケティング・キャンペーンを行いました。ところが、服用した患者はオキシコンチン中毒に陥り、治療が済んでからも薬の快楽を求めて、粉状にしたオキシコンチンの錠剤を鼻から吸入したり、静脈に直接注射で打つようになったのです。

この製薬会社によるオキシコンチンの積極的なマーケティングで、数億個もの錠剤が米国の地域社会に流出したと言われています。依存症患者の大半はその後、ヘロインとフェンタニルのような、より安価で強力なオピオイド系鎮痛薬を代替品として違法に入手するようになりました。

2012年、ヘロインの過剰摂取件数は、2010年と比較して2倍ほどになりました。CDCによると、ヘロインの依存症患者の4人のうち3人は、(『CNN』の取材を受けたビリーさんやメガンさんのように)ヘロインを使用する以前に、オピオイド系鎮痛剤を処方されていました。そして、少量で死に至る毒性の強いフェンタニルをヘロインに混ぜて使用する人が後を絶たないほど増え、多くの人の死因となっていったのです。

1900年代、コカインとヘロインが流行したとき、約25万人の米国人が薬物依存症だったのではないかとみられています。これは約300人に1人の割合ですが、今日では、約133人に1人が依存症ではないかと言われています。

薬物依存症の治療に30年間携わってきたイリノイ州の「チェスナット・ヘルス・システムズ行動医療サービス」の副会長ジョーン・ハートマン氏は、「これまで私がこの分野で働いてきた中で、これほど多くの患者が死亡したことはありません」と警告しています。

薬物過剰摂取による死亡は、都市でヘロインが流行していた1970年は3000人以下。クラックコカインが流行した1988年は、5000人以下でした。ところが昨年は、6万4000人以上が薬物過剰摂取が原因で死亡しました。しかも死亡者は依然として増加しており、ピッツバーグ大学の研究者らは、今後5年間で30万人に及ぶ米国人が薬物の過剰投与で死亡するのではないか、とまで推定しています。

【Opioid epidemic shares chilling similarities with the past, AP NEWS, Oct 28,2017】

◆過剰摂取の原因に「人種偏見」
ところで、オピオイド系鎮痛剤の流行には人種差があり、依存者には圧倒的に白人層が目立ちます。特に、地方に住む若い白人の薬物の過剰摂取が大幅に増加しました。前述のCDCのデータによると、ニューハンプシャー州、ケンタッキー州、ウェストバージニア州、オハイオ州、ロードアイランド州で、過剰摂取の死亡率では、他の州よりも高い割合が報告されています。

この現象に対して、ブランダイス大学ヘラー社会政策・管理大学院でオピオイド政策研究の共同責任者を務めるアンドリュー・コロドニー博士が、2017年11月4日の『ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)』で、以下のように解説をしています。

「実は、人種に対する『偏見』が、白人以外の人種をオピオイド中毒から守ったと言えるのです。医師は無意識のうちに、麻薬系の鎮痛薬を黒人やラテン系の人たちに処方することを避けてしまいます。というのも、これらの患者が依存症になることや薬を転売することを警戒したり、あるいは痛みを訴える彼らへの思いやりに欠けたりするからです。そのため黒人やラテン系の患者は、麻薬系の鎮痛剤を処方される可能性が低く、依存症になることを免れるのです」

1980~90年代に流行したクラックコカインは、黒人のコミュニティに暗い影を落としました。前述したように、この危機に対して政府は「薬物戦争」と位置付け、薬物売買を厳罰化し、違反者を逮捕することで取り締まりました。ところが、違法薬物が白人層に広がる現在、非常に異なる対応をしています。オピオイド危機について議論してきた多くの共和党の政治家は、犯罪として取り締まるのではなく、依存症患者が効果的な治療を受けることができる必要性を訴えるのです。クラックコカインが流行した時代は、残念ながらこうした声を聞くことができませんでした。

【Why Is The Opioid Epidemic Overwhelmingly White?, NPR, Nov 4,2017】

◆最も重要な告発
このような状況の中、米麻薬取締局(DEA)元職員の告発によって、ある衝撃的な事実が発覚しました。

DEA元副補佐管理者ジョー・ラナジージ氏は、2015年に辞任を強いられるまでの10年間、積極的に製薬業界の規制を担当してきました。テレビ局『CBS』のドキュメンタリー番組「60 Minutes」と『ワシントン・ポスト』は、ラナジージ氏の証言をもとに、オピオイド危機がどのように全国に広がったのか、共同で調査しました。「60 Minutes」は1968年から放送されている人気番組ですが、ラナジージ氏のインタビューは、同番組の中でも最も重要な告発だと言われています。10月15日の「60 Minutes」では、次のように報道されました。

番組と『ワシントン・ポスト』が調査した結果、議会やロビイストらに加え、過去20年間に数億個ものオピオイド系鎮痛剤を、無認可の薬局やペインクリニック(疼痛治療専門医院)に出荷した製薬会社と流通業界が、オピオイド危機において主要な役割を果たしていることが判明しました。ラナジージ氏は、製薬会社「パデュー・ファーマ」や上記のような薬局などに出荷していた流通代理店を非難しています。オピオイド系鎮痛薬の85~90%は、米国の3大流通代理店である「カーディナル・ヘルス」、「マックケッソン」、「アメリソース・ベーゲン」が取り扱いを独占しているのです。

驚くべきことに、2001年、「パデュー・ファーマ」の重役は連邦議会の場で、「適切に管理すれば、一般的に依存症は起こりません」と断言したのです。多くの医師はこの発言を信じて、リスクはほとんどないと判断してしまいました。そのため処方箋が急増し、安全だったはずの薬で、多くの人たちが依存症になっていきました。依存症患者は、オピオイド系鎮痛剤を手に入れるため、「ピルミル(pill mills)」と呼ばれる、オキシコドンなどの強い鎮痛薬を不正かつ大量に処方する悪質なペインクリニックに足を向けるようになります。392人しか住民のいないウェストバージニア州のある街の1件の薬局に、2年間で900万個以上ものオピオイド鎮痛薬が出荷されていたこともあったのです。

この悲惨な状況は、さらに悪化の一途をたどります。信じがたいことに、製薬会社は連邦議会に圧力をかけ、2016年4月、医師、診療所、薬局に法外な量の薬剤が出荷されたとしても、DEAがそのことを積極的に調査することができなくなる「S. 483 (114th)」という法律まで成立させてしまったのです。

【S. 483 (114th): Ensuring Patient Access and Effective Drug Enforcement Act of 2016】

◆「麻薬取締政策局」局長指名を辞退
この法律の主唱者は、トランプ大統領が麻薬取締政策局局長に指名したトム・マリノ共和党下院議員(ペンシルバニア州)です(のちに本人が指名を辞退)。

マリノ議員は何年もかけて、この法案の成立を計画していました。最後には、オリン・ハッチ共和党上院議員(ユタ州)が、最終法案をDEAと交渉し、承認させました。製薬業界はこの法案を成立させるために、発起人である議員23人に、少なくとも150万ドルを献金したことがわかっています。その中で、マリノ議員には約10万ドル、ハッチ議員には17万7000ドルが渡っています。最終的に2014年から2016年のわずか2年間で、製薬業界はあらゆる政界工作、ロビー活動、広告キャンペーンなどのために総額で1億200万ドルを費やしました。

さらに驚くことに、「S. 483(114th)」の成立後、最低でも56人のDEA元幹部や弁護士らが製薬産業側に転職したことがわかっています。彼らはDEAの弱点を知り尽くしており、どうやればDEAの調査を免れるのか十分把握しています。こうしてDEAは、本来は厳正に執行されるべき違法な薬物を取り締まる「権力」を失いました。ラナジージ氏は、「製薬業界、製造業者、卸売業者、流通業界、チェーンの薬局は、議会にこれまで見たことのないほどの影響を与えている」と告発しています。

ちなみに、「60 Minutes」と『ワシントン・ポスト』の報道によって、マリノ議員がトランプ大統領からの麻薬取締政策局局長指名を辞退したと、トランプ大統領自身がツイッターで明かしました。

そのトランプ大統領は、大統領選の選挙キャンペーンでの演説で、深刻なオピオイド危機にさらされている地方の白人層に、依存症を克服するための様々な公共サービスを増やすことを約束していました。そして実際、前述のように2017年10月26日、トランプ大統領は「公衆衛生の緊急事態」をも宣言しています。

ところが、こうした「緊急事態」を脱するための必要な予算については、特に何も言及していません。それどころか、トランプ大統領は「力強いメッセージを持った、大きく素晴らしい広告を打ち出します」「私は若者にドラッグに手を出さないことを教えたいと思っています。ドラッグを使わないことは簡単なことなのです」と言うだけです。

単にオピオイドに手を出さないよう訴えかける広告を出すだけなら、1980年代、ナンシー・レーガン元大統領夫人が「ただノーと言おう(Just Say No) 」と、ドラッグ撲滅キャンペーンを行っていた時代に逆行することと同じです。ビベック・マーシー米公衆衛生局(PHS)元長官は、「30年前は精神的に弱い人、モラルに欠ける人、ノーと言えない人が依存症になると考えられていましたが、依存症は、糖尿病や心臓病のように、脳の慢性的な病気です」と発言しました。つまり、薬物依存症の患者は、他の慢性的な病気と同じように治療やリハビリテーションが重要なのです。

【Ex-DEA agent: Opioid crisis fueled by drug industry and Congress, CBS News, 60MINUTES, Oct 15,2017】

【Fact Sheets – Alcohol Use and Your Health, CDC】

【Marino out of consideration for White House drug czar CNN, Oct 17,2017】

【Trump Declares Opioid Crisis a “Health Emergency” but Requests No Funds, The New York Times, Oct 26,2017】

【Deep Dive: The Opioid Tsunami, The Aspen Institute】

◆取り組むべき10のステップ
先に紹介したオピオイド政策に詳しいコロドニー博士は、CDC元所長トーマス・フリーデン博士と共に、連邦政府が今すぐ取るべきとても重要かつ貴重な提唱を米医師会雑誌に行っています。オピオイド問題は、もともとは主に患者の治療のために行われた医療行為が新たな疾患を引き起こしたという「医原性疾患」であり、「ヘルスケアシステム」(保健医療サービスのための必要な資源、組織、財政およびマネジメントを組み合わせた複合的な活動)が、この問題に責任をもって取り組むべきだと、以下の10ステップを実施しようと訴えています。

(1)オピオイド依存症の調査を改善する:現在の情報システムは、新しいオピオイド依存症患者の数、パターンや傾向をリアルタイムに把握できない。

(2)オピオイド関連の過剰摂取および死亡に対する行政への報告と対応を改善:オピオイド使用のパターンの変化に、迅速に対応できるようにする。

(3)急性疼痛に対するオピオイドの処方をより慎重に:オピオイドは、手術や重症時の重度の痛みを緩和するのに不可欠な薬であるが、非ステロイド系抗炎症薬で治療できる痛みにも頻繁に処方されている。オピオイドの使用が避けられない場合、投与期間は可能な限り短くする。

(4)慢性疼痛の患者は、オピオイド製造業者の“市場”と化し、過去20年間のオピオイド消費の増加の大きな原因となっている。FDAは認可している適応症を減らすべき。

(5)慢性疼痛は、何百万人もの米国人が抱える深刻な問題。非オピオイド系鎮痛薬や薬剤以外の保険適用範囲を広げ、入手しやすくすべき。

(6)不法に製造された合成オピオイドの供給を遮断する:たばこやアルコールと同様に、ヘロインやフェンタニルなどの不法に製造された合成オピオイドが高価になれば、入手が困難になり、使用は減るだろう。

(7)オピオイド依存症の早期発見、早期治療:早期発見治療は、過剰摂取、精神の崩壊、社会的なコミュニティからの疎外、注射によるオピオイド使用への移行や合併症のリスクを軽減する。

(8)オピオイド拮抗薬、特にメサドンとブプレノルフィンの使用を拡大:フランスでは、ブプレノルフィンを広範に処方し、オピオイドの過剰摂取による死亡率は、6年間で79%減少した。

(9)清潔な注射器とオピオイド拮抗薬であるナロキソンを使用:清潔な注射器は注射による感染症を防ぎ、ナロキソンは致死的な過剰摂取を減らす。

(10)超高用量オピオイド鎮痛薬を市場から除去:例えば、オキシコドン80 mg錠1錠を1日2回服用するのは、モルヒネ240 mgに相当する量。1度に1錠のみの服用なので、患者も処方する側も、これが非常に高用量であると認識できない可能性がある。

【Ten Steps the Federal Government Should Take Now to Reverse the Opioid Addiction Epidemic, The JAMA Network, Oct 24/31,2017】

最後に、もし私がこの10ポイントにもう1つ追加するならば、DEAの法的執行力を取り戻すことが必要であると考えます。

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