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Vol.046 [ 新専門医制度問題 ] 機構副理事長松原氏講演より 第三回「静岡県は関東ブロック!?」、氏の言葉を読み解く

医療ガバナンス学会 (2018年3月6日 01:00)


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仙台厚生病院 医学教育支援室
遠藤希之

2018年3月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

連載でお届けしている「機構副理事長松原氏講演より」第三回である。

この連載は日本専門医機構副理事長、松原氏が、「「地域推薦枠医学生の卒前・卒後教育をどうするか?」~新専門医制度下の地域枠卒業医師の動向~」というシンポジウム(2018年2月16日 於 一橋大学)で基調講演を行った内容を紹介し読み解くものである。

氏は病気療養中の吉村機構理事長に代わり、記者会見を仕切る、総合診療科の研修内容決定や施設認定を行う、など専門医機構内での実務上のキーパーソンである。

なお氏は日本医師会副会長でもある。医師会がなぜここまで新制度に肩入れしているのか。その理由の一つとして八千万円もの大金を機構に貸し付けているからだ、という指摘もあるが、この連載では割愛する。

さて筆者がレクチャーを受けた今回の表題に関する氏の発言内容を詳しく紹介しよう(括弧内は筆者の補足)。

「静岡がものすごく(専攻医応募者が)減ったんです。どうしてこんなに減ったのかといいますと静岡だいたい3年目の医師が、2年目を終わる予定の医師が200人弱います。しかし、医科大学、浜松医科大学が卒業させているのは120人です。ということは、現在のままをやっていても、だいたい70~80人の人たちが他の県から来ている。

京都大学や慶応大学や東京大学から(静岡の)基幹病院のところに派遣されていて、そして研修が終わった途端にまたその人達がもとの基幹病院に戻っているので、今回こういいますかやはり70人から80人位静岡県は減っています。」

だそうだ。その後に、専攻医応募者が大都市圏に偏った理由の弁明が続いたそうだ。

「しかし、それは2年前の研修制度で自動的に基幹の大学病院から送ってきた人たちの籍が戻っただけで、いま今回の新臨床研修制度の後の専門医制度につきましては基幹病院をもって所属としていますので、基幹病院があるのが東京や大阪や京都に多い」

静岡の友人たちはこの発言に怒っている。確かに「京都大学や慶応大学や東京大学」から後期研修医が来る病院が静岡県内にも数箇所あるという。

しかし、今回の制度を適用すると明らかに静岡に不利益をもたらす点が多い。

まず、第一の問題は「循環型研修」である(筆者はこの制度の最悪の問題と考えている)。従来なら、派遣されたにしても後期研修医は比較的長期にわたり静岡でがんばっていた。ところが新制度では最短3ヶ月で「連携病院」を「循環」しなければならない。どこの病院を循環させるかは、大都市圏の基幹病院(の教授)の胸先三寸になる。当然、静岡に「必ず派遣される」とは限らない。

また、地方自治体の首長、たとえば相馬市長の立谷氏などは「3ヶ月~半年単位で「循環」されてくる派遣医師など逆にこないほうがよい」とも言っている。嫌々ローテートしてくる若手医師など、かえって地域医療にはマイナス効果にしかならないのだ。医師の頭数あわせを行い、どうだ「地域偏在が解消されただろう」と胸を張られても迷惑千万だ、ということだ。

もう一つ。松原氏の発言中にもあるが、静岡で大都市圏の関連病院となっている施設は、実は自身が「基幹施設」になっているところが主なのである。それら施設はむしろ自前の専攻医をとりたいはずだ。しかし都市圏有力大学の(氏の言葉を借りると)「ジッツ(死語:支配下の関連病院の意味)」になっている病院に選択権は無いに等しい。

ところで、そもそも当初の構想では、基幹施設から「専攻医を循環させる連携施設」は、基本的に「同じ都道府県内」というしばりがあった筈だ。ゆえに同一自治体内での偏在を防ぐために、厚労省肝いりで「専門医に関する都道府県協議会」の設置が進められてきたのだ。

しかし、大都市圏から複数の県に多数の若手医師が循環、派遣される、ということになれば、厚労省の施策、つまり同一自治体内での協議は意味をなさなくなるだろう。今回の例で言えば、静岡県の医療整備部門が東京・京都の大学に協議、というか「陳情」に上がらざるをえない事態もありえる。厚労省が力を入れて推進してきた「地域協議会の存在意義」は機構の失策で台無しになる可能性があるということだ。

こんな事でいいのか厚生労働省!といいたい。ここはお得意の「行政指導」なりなんなり「伝家の宝刀」を抜き、地方の医療を守るべく、この新制度の抜本改革をすべきであろう。

話が逸れた。

松原氏の発言内容を追加する。

「実際に今回データを確認しましたら、東京と神奈川、愛知、大阪、福岡が神奈川を除いて、集まっています。(中略)しかし、あとで分析しますと、ブロックでいいますと、関東ブロックでは静岡まで関東ブロックで山梨も入れて最近分析するとどうも、福島も東京大学や慶応からかなり行っております。」

ちなみに小学校の社会科で習う関東地方は1都6県(東京、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川)だったはずだ。これらに限ると応募者数は22.6%増と全国平均の増加12.6%よりも明らかに多い(注:全国平均が増えているのは、過去の医師国家試験合格者数よりも今回登録の年次合格者数が900人以上増えているため。例)H25年春:7696、H28年春:8630(今回の専攻医登録者卒業年次))。

関東地方でも減っている県が複数あるが、それらを合わせても明らかに増加している。これは「東京」のいわば一人勝ちの影響が強いからだ。機構にとっては「地域偏在を助長させた」極めて不都合な事実である。

氏は続ける。

「ブロックごとに計算しますと、実際には東京に集まっているのではなくて、東京一円をこれまでの東京にあった大学が面倒を見ているということがわかります。今現在細かいものを出す準備をしております。」

この発言を聞くと、上述の不都合な事実を糊塗するために、山梨、静岡までを「関東ブロック」に含めた上でデータをいじろうとしているとしか思えない(下手をすると福島(!)も関東ブロックにされかねない)。氏の発言を借りると「細かいものを出す準備」でデータを誤魔化そうとしている、としか思えないのだ。全く信用がならない。

ただし、例え静岡に他県から「70-80人」が派遣されていたにしても、上述のごとく「循環型研修」をゴリ押ししている限り、また「静岡の基幹施設に派遣」されている限りでは、静岡県の医療にはかならず新たな弊害が起きるのである。制度設計に根本的な欠陥があるためである。そこを議論せずに姑息な頭数合わせを(しかもこそこそ)行い、偉そうにされてはかなわない。厚労省の審議会をはじめ多数の人々が指摘してきたよう、議論に耐えうる「生データ」をさっさと公開すべきなのだ。それをやらない・やれないから、ますます不信感が募る。

さて今回はここで終わる。次の第四回は「神奈川の基幹病院はほとんどが東京の大学病院関連!?」という題で書く予定だ。それにしても神奈川県も酷い言われようだと思うのは筆者だけだろうか。

お願い:
松原氏の講演内容にピンポイントでも疑問をお持ちの方がもしいらっしゃったら、ぜひ MRIC 編集部経由で、筆者にご連絡くださいませ。機構は具体的なデータを全く出していません。それなのに上から目線で「各種報道は誤報だ」と言い張っています。筆者と仲間は、例えばひどい言われようの神奈川、静岡のデータなどもご提供できます。よろしくお願いいたします。

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