医療ガバナンス学会 (2018年3月22日 06:00)
ここでもう一人、Bちゃんのケースをご紹介しましょう。Bちゃんは8か月、夜20時には寝て、日中もよく遊んでいる子でした。しかし、夜中3時頃に起きて、授乳しても寝ず、お母さんの体の上にのぼったりして遊び始めてしまうというのです。お母さんがBちゃんを自分のベッドに連れてきて、眠い中なんとか相手をしていると、いつの間にかお母さんもBちゃんも眠って朝を迎えているそうです。毎日こんな状態では、お母さんも十分な睡眠がとれませんよね。
Bちゃんは大きく生活リズムが乱れているようには思えません。しかしこのような赤ちゃんでも、夜泣きをしたり、寝つきが悪かったりすることがあります。夜泣きの原因は、ずばりお昼寝不足だったのです。
実は、夜の睡眠が足りていても、お昼寝が足りない場合が多くあります。夜に起きてしまったり、寝つきが悪い場合、お昼寝をさせすぎないようにするのが一般的な考え方かもしれません。でも、特に赤ちゃんの場合、睡眠不足が夜泣きの原因になっていることが多いのです。Bちゃんは、ちょうどいいスケジュールを探りながらお昼寝を十分にさせてあげると、夜に遊び始めてしまうことはなくなりました。ねんねトレーニングは必要なかったのです。
なぜ睡眠不足なのに、なかなか眠れなかったり、夜中に起きてしまったりするのでしょうか?これはホルモンの働きで説明することができます。睡眠不足になると、寝る前のコルチゾールの分泌量が増えることが知られています(1)。体を覚醒させる働きがあるコルチゾールの影響で、睡眠不足になると、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりしてしまうのです。
これを改善するには、日中に十分なお昼寝をさせてあげる必要があります。しかし、必要なお昼寝時間というのがはっきり決まっているわけではありません。月齢によっても変わりますし、個人差がとても大きいので、一概に言うことができないのです。一番大切なのは、赤ちゃんの出すサインをよく見ることです。赤ちゃんは眠くなってくると、遠くを見るような目をしたり、おもちゃに興味を失ったりします。他にも、その子特有のサインを出すことがあるので注意深く観察してみてください。さらに時間が経つと、あくびをしたり、目をこすったりしはじめて、最終的にはぐずりだします。ぐずりだしてしまうと、寝かしつけるのがますます難しくなってきて、眠ったとしても眠りが浅く、短いお昼寝しかできなくなってしまいます。お昼寝の寝かしつけは、夜寝るときの寝かしつけよりずっと難しいです。上手くいくこともあれば失敗することもあるでしょう。まずはできるだけ眠くなりすぎないうちに、寝かしつけをしてみてください。
インスタグラムをのぞいてみると、ときどき、食べながら寝落ちしているかわいい赤ちゃんの動画を見かけます。外出先でも、抱っこひもの中で脱力してぐっすり眠っている赤ちゃんをよく見ます。私からすれば、本当にうらやましいことです。食事中に眠くなってしまうのはさすがに睡眠時間が足りていないのだと思いますが、そんな風にどこでも眠れる子は、どんなシチュエーションでも睡眠不足を補うことができるので、なんとか大丈夫なのでしょう。
しかし、睡眠で悩んでいるお家のお子さんは、眠いサインがわかりにくく、寝かせるのにちょうどいいタイミングがとても短かったり、眠くても環境が整っていないと寝なかったりする傾向にあります。我が家の息子もそうでした。息子は抱っこしても眠れないようで、外出先でもベビー体操のクラスでも、ただ一人、ずっと起きていました。眠らないからといって眠くないわけではなく、いつの間にか限界を越えてしまい、急にぐずって泣き出すのです。周りの子はすやすや眠っているのに・・・。いつもこのような状態だと、すぐご機嫌ななめになるタイプと思われがちですが、そうではありません。単に睡眠不足なだけなのです。
最初はお昼寝をさせるのも大変ですが、リラックスできる環境を用意し、眠いサインの観察を続けていくと、徐々に起きてから眠くなってくるまでの時間や、その子なりの眠いサインがつかめてきます。お昼寝が上手くいけば夜もスムーズに寝て夜泣きもしないけれど、失敗すると夜の寝つきも悪く、一旦寝ても途中で起きてしまうというのがわかってくるでしょう。早ければ6か月くらいから、お昼寝の時間が一定に決まってきます。スケジュールが決まってきたら、なるべく毎日同じ時間にお昼寝させてあげるようにしてみてください。息子も、上手に昼寝ができるようになると、保育園でも「穏やかな子」と言われるまでになりました。睡眠不足は、性格まで変えてしまうのですね。
1.Principles and Practice of Sleep Medicine, 6th edition, Fig20-5