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Vol.112 クラミジア感染で不妊症に、妊婦は流産、死産も… 急増する「性感染症」の恐ろしさ

医療ガバナンス学会 (2018年5月31日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(https://dot.asahi.com/dot/2018041800012.html?page=1 2018年4月19日配信)からの転載です。

山本佳奈

2018年5月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

性感染症のなかで患者数が最も多いのがクラミジア感染症。特に、妊婦がクラミジアに感染していると、流産や死産につながる恐れがあることが示唆されている。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員で内科医の山本佳奈医師が、患者数が多い感染症にもかかわらず関心が低いクラミジア感染症について、警鐘を鳴らす。

*  *  *
「クラミジア感染症に、まさか自分がなるとは思っていかなった……」

数年ぶりに再会した友人が、「実はね」と言ってカミングアウトしてくれた。彼女は医師として働いている。ひどい月経痛に悩まされ、大学1年生の頃からずっと低用量ピルを内服していたこともあり、それ以外の避妊は特にしていなかったという。

性感染症に感染することはないだろうという思いこみから、性感染症の知識があるにも関わらず、検査に行くことはなかった。最近は、性感染症の対策の必要性すら、頭の中から抜けてしまっていたという。

幸い、彼女は初期症状を自覚した。性行後の出血を不思議に思っているうちに、急に我慢できないほどの下腹部痛が出現したのだ。おかしいなと思い、たまたま行った性感染症の検査結果を聞きがてら婦人科を受診したところ、なんとクラミジア陽性。パートナーも一緒に抗生剤を内服して治療しないことには、この疾患は完治しないことを知っていた彼女は、感染した理由に見覚えはなかったため、パートナーに陽性であったことを伝えた。抗生剤を内服し、陰性化はしたものの、不妊症になってしまったのではないか、と今も不安で仕方がないという。
■「3組に1組のカップルが自然妊娠できなくなる」との推測も

クラミジア感染症とは、性感染症の一種だ。クラミジア感染症について説明する前に、性感染症について簡単に触れたい。

性感染症とは、細菌・ウイルス・寄生虫が性交渉によって媒介されることで感染する疾患だ。病原菌の種類は30種類にも及ぶという。その中で、細菌であるクラミジア、淋病、梅毒、寄生虫である膣トリコモナス、ウイルスであるヒトパピローマウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV) 、B型肝炎の8つが主な原因と言われている。

性感染症は不妊の原因になる。卵管や子宮頸管、さらには骨盤内に炎症を引き起こし、精子や卵子の通り道を塞いでしまうからだ。ほかに、肥満も排卵障害を引き起こし不妊の原因となることが知られている。性感染症や肥満の増加を受け、シェフィールド大学のビル教授は、「将来は3組に1組のカップルが自然妊娠できなくなるだろう」と推測している。

米疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、2016年の全米で確認されたクラミジア・淋病・梅毒の性感染症患者は過去最多の200万人を超え、いずれの疾患も急増しているという。

その中で、最も多かったのはクラミジア感染症の約160万人。次いで、淋病の約47万人、梅毒の約2 万7800人であった。特に、2000年から2011年まで人口10万人あたり約250〜450人で推移していたクラミジア感染症は、2015年からの2年間で人口10万人あたり約500人にまで急増したという。

これらの性感染症は、抗生物質を内服することで治療が可能だ。どちらか一方のみの治療では、性交渉により再び感染してしまうため、パートナーと共に治療することが必要となる。だが、パートナーになかなか打ち明けることができず、感染を繰り返してしまうケースは後を絶たない。
■近年急増する梅毒の報告数

日本も、米国の状況を他人事だと言ってはいられない。というもの、性感染症の患者数が増加傾向にあるからだ。米国と同様、日本において最も患者数が多いのはクラミジア感染症、ついで性器ヘルペスウイルス感染症、淋菌と続く。

注目すべきは、梅毒の急増だ。厚生労働省の性感染症報告数によると、2003年には509件だった梅毒の報告数は、2015年には2690件になり、翌年の2016年には4559件まで増加している。特に、妊娠可能な15歳から24歳までの若年女性が増加傾向にあるという。

だが、これは氷山の一角にすぎない。というのも、これら性感染症は、初期症状を自覚しにくい。そのため、感染していることに気づかず、病院受診すらしていないケースが多いと考えられるからだ。

クラミジア感染症に話を戻そう。この疾患への関心はどれくらいなのか。新聞・雑誌のデータベースサービス「日経テレコン」を使用し、2017年の一年間に全国紙において「クラミジア」というキーワードが出てくる記事数を調べて見たところ、76件だった。「不妊」は1332件、「子宮頸がん」は428件、「認知症)は7759件、「高血圧」は1852件であったことから、いかに関心が低いかが分かる。

では、クラミジア感染症とは、一体どんな疾患なのだろうか。クラミジアは、感染した人の精液や膣分泌液が、性器や泌尿器、肛門、口腔に接触することで感染する。女性の場合、おりものの増加、不正出血、下腹部の痛みや性交渉時の痛みなどが見られ、男性の場合、排尿時の軽い痛みや尿道のむず痒さを自覚する程度で、症状は軽い。

だが、男女ともに無症状のことが多く、女性の90%以上は無症状であるため、無治療のまま放置されてしまう。すると、慢性感染の状態となり、男性の場合は前立腺炎や精巣上体炎、女性の場合、卵管炎や腹膜炎、子宮外妊娠を引き起こし、男女ともに、不妊症の原因になってしまう。卵管や腹膜などの骨盤内に炎症が波及し、骨盤内に炎症を引き起こす割合は、感染者の10~40%であるという報告もあり、不妊の原因の2割をクラミジア感染症が占めていると推測する研究者もいる。

さらに、妊婦がクラミジアに感染していると、流産や死産、早産や低出生体重児の誕生につながる恐れがあることが示唆されている。公益財団法人「性の健康医学財団」の2013年10月~14年3月に行われた妊婦健診を受けた32万5771人のデータ解析によると、2.4%に相当する妊婦7690人が感染していたという。年代別の感染率というと、19歳以下が15.3%、20~24歳が7.3%、25~29歳が2.2%、30~34歳が1.2%であった。2017年の出生数が94万人であることから、約2万2 千人もの妊婦がクラミジアに感染していることになる。
■日本のクラミジア検診率は……

イギリスや米国をはじめ、多くの国ではクラミジア検査の受診やコンドームの使用を積極的に促している。2008年、イギリスでは、16歳以上に対してクラミジア感染症の治療薬であるアジスロマイシン(Clamelle)を処方箋なしで販売することが許可された。検査キットで陽性反応が出た場合、その結果を持って薬局に行けば、抗生物質が手に入るという仕組みだ。不妊症の発症率の減少に役立つかもしれないという考えから導入されたという。

だが、米国における16~25歳の性的にアクティブな女性のクラミジア検診率は、50%未満であると推定されている。日本はというと、検診率はほぼゼロであろう。というのも、四天王寺大学の楠本久美子氏の報告によると、コンドームが避妊とエイズ予防に役立つことを認識している大学生は58.9%、性行為でクラミジア感染することを自覚している大学生はたったの0.9%だったからだ。

私が非常勤内科医として診療しているクリニックは新宿、立川、川崎駅の駅ナカに存在するため、若年女性の受診が多い。緊急避妊薬を処方するのも稀ではない。私は、緊急避妊薬を処方するとき、性感染症の検査を必ず勧めるようにしている。女性には、自分の体を自分自身で守ってほしいと思うからだ。カップルで診察室にやってきたら、性感染症はパートナーと一緒に治療することが大切であることも伝えている。

性感染症を早期に発見し、早期に治療をすれば、性感染症が原因の不妊症を防ぐことができる。もちろん、不妊症には様々な原因がある。不妊症の原因となる因子が複数重なっている場合もあれば、原因が特定できないこともある。だが、性感染症は治療が可能だ。定期的な性感染症の検査により早期に発見し、治療さえすれば、不妊症に至るまでに食い止めることができる。
■「性感染症の検査って、やった方がいいの?」

婦人科に行くことがそもそも億劫である、仕事が忙しくて診療時間内に病院を受診できない、陰部のトラブルは言いにくいから相談しにくい、といった悩みをよく聞く。実際に、クリニックで緊急避妊薬を処方した女性27名に聞いてみたところ、たった7名しか性感染症の検査をしたことがなかった。「性感染症ってなんですか? 性感染症の検査って、やった方がいいのですか?」と質問され、性感染症のいろはから、検査の必要性を説明することもしばしばだ。

実は、性感染症の検査であれば、病院にいかなくても自宅で検査をすることができる。検査キットをインターネットで注文し、自分自身で検体を取って郵送すれば、匿名で検査結果をすぐに知ることさえできる。

筆者も、本当に簡単にできるのかを試すため、早速インターネットで注文し自宅で使用してみた。最初は、どんな検査キットなのか、本当に自分でできるのかと不安だった。だが、中身が何であるか全く分からないような包装であったため、ひとまず安心した。注文キットと共に、検査方法の書かれた説明書が入っていたため、読んでその通りやってみた。思いの外、簡単であっという間に検査は終了。検体を封筒に入れて、投函したら、結果は数日後に匿名で送られてきた。

クラミジアとは違うが、性感染症の一つである淋病において自己採取した場合、医師が検査を行った場合に劣らないという報告もある。どうしても病院を受診する時間がない女性や、病院になかなか行きにくいという方には、ぜひお勧めしたい。もちろん、女性だけでなく、男性も自宅で検査が可能だ。検査項目も、1項目から選択できる。男性は尿道にクラミジアが感染することから尿検査を、女性は排尿期間ではなく、子宮頸管から子宮、卵管に感染するため、腟分泌物を検体として採取する。性感染症検査をしたことがない人は、性感染症の代表的な原因を一度で検査できるようなセットを注文するのもいいだろう。

もはや「性教育が不十分だ」などと言っている場合ではない。性と向き合い、男女ともに性を正しく理解し、自分の身体を自分で守る必要があることを自分自身で理解する必要があるだろう。性感染症が原因の防げる不妊症が少しでも減ることを切に願っている。

○山本佳奈/医師
滋賀県出身。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院内科医、ナビタスクリニック非常勤内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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