医療ガバナンス学会 (2018年8月3日 06:00)
エンドウナチュラルデンタルオフィス
院長 遠藤広規
2018年8月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
エジプトの大学歯学部は5年生であり、受け入れた学年は3年生と4年生でした。同学年として比較できないかも知れませんが、日本の歯学部の同学年や、当時の自分と較べ、将来に対して現実的に考えており、知識量も多いように感じました。探求心も強く、自分たちが知りたい聞きたい内容を熱心に質問してきました。見学期間中は、大学同期のクリニックを見学させたり、勉強会に連れていったりすることで、より日本の歯科治療を学んでもらいました。
大学のカリキュラムには、マネージメントやマーケティング等、日本の歯学部教育にはない科目もあるそうです。また、受講の仕方に関してはある程度の規則はあるものの、どの講義を受けて、いつ休みにするか等は個人の裁量に任せられているとのことでした。彼らが年齢以上に大人びた考え方ができるのは、自主性に任されていることから来ているのだと感じました。日本の歯科大学のほとんどは、スケジュールは決められており、自主的に考える必要がありません。そのような日頃の習慣が、勉強に対する自主性や積極性の違いを生じさせているように感じました。
海外の歯科大学では当たり前ですが、授業はすべて英語で行われており、海外で学びたいと思っても簡単に順応できます。卒業後は多くの学生はエジプトで働くのではなく、ヨーロッパやアメリカの大学や開業医で働き、勉強し、確かな知識と技術を手に入れてから、エジプトに戻り還元しているそうです。今回の1人は卒業後は日本で働きながら、日本の歯科治療の良いところを吸収してエジプトの持って帰りたいと話していました。
卒業前には口の中が崩壊してしまい全体的に治療が必要な患者さんを、すべて終了するまで治療を完成させる課題もあります。学生がペアで担当します。審美的にも機能的にも一番良い材料を使用して、かみ合わせ等全顎的に改善することは、学生にとっては非常に良い勉強になります。日本では学生の間にそのような充実した臨床ができる環境はない上に、歯科医師になってからもこのような治療を実践できる人はそれほど多くはなく、1症例だけでもそのような症例を若いうちに経験することは歯科医師としての成長にとても大きい意味があります。
ただ、その治療にかかる材料費はすべて担当した学生が払うそうです。協力してくれた患者さんは無料です。技術料はかからないのでこの材料費だけなのですが、治療に必要な器具も自分たちで選定して好きなものを使って良いという、ここでも学生の自主性に重きを置いています。
この卒業症例はすべての学生がこなさなければいけない課題なのですが、協力していただける患者さんがいなくては成り立ちません。しかも、ある程度お口の状態が悪い患者さんではないといけないのですが、日本と違い皆保険制度がなく、18歳以上の大人はほとんが自分で民間の保険に入らなければならなく、お金がなくて満足した歯科治療が受けられない方も多くいるのでそこは困らないそうです。
授業料は、卒業症例の材料代を考慮に入れても、授業料が高いかというと私立でも日本の歯科大学と比べると安いです。私立だと多くの大学は高くても年間60万円ほどで、国立に至っては幅があるものの年間1~6万円だそうです。
エジプト人はデザートを良く食べ、どれも so sweet ! です。そのためかは分からないですが、むし歯や、歯を喪失してしまっている人も多く、入れ歯の使用率も高いそうです。インプラントの需要も多くあります。1本当たりの費用は日本の平均よりは安く、エジプト産のインプラントメーカーもあります。
今回、3月終わりに、インプラントの学会にスピーカーとして招待されました。歯科医師のインプラントに対する興味・関心は高く、アレクサンドリアでは2年に1度大きなインプラント学会が開催されます。受け入れた学生さんの繋がりからオファーを頂き、症例もアクセプトされたことで決まったのですが、日本人歯科医師としては初のスピーカーでした。他のスピーカーは大学の教授をはじめ、インプラント専門の歯科医師がアメリカやヨーロッパから私含め16名が招待されました。
私の二つの専門領域である顕微鏡歯科とインプラント治療を掛け合わせ、1本のインプラント治療を精密に行うという症例を中心に講演しました。顕微鏡歯科というのが海外ではスペシャリストで歯の根の治療をする際に使うのが一般的だったため、講演後は色んな世代の先生から質問を受け、興味を持ってもらえたようです。
人との繋がりから、エジプトで講演する機会まで頂きましたが、ただ海外に行って勉強するとは比べられないくらい程の貴重な経験となり、成長できただけでなく色々と考えるきっかけにもなりました。今年の夏にはまた、その学生2人が見学・勉強をしに来日しますが、今後も交流を続け、日本とは考え方も違う彼らから私も勉強できればと思っています。
今回このような機会をいただいたのは、学生さんを紹介くださった東京女子医大6年生の尾崎有里子さんのお陰です。この場を借りて感謝申し上げます。