医療ガバナンス学会 (2018年8月9日 06:00)
第一弾、第二弾(http://medg.jp/mt/?p=8211) でも、凄まじい中国の発展について書かせていただいたが、今もさらに加速し続けている。
今回は中国のここ数ヶ月の変革から、4月のボアオ・アジア・フォーラムを皮切りに始まった海南島の発展、その中で日本人である私の目標や課題を書かせていただきたいと思う。
■輸入関税の引き下げ
現在、米中の貿易摩擦問題が拡大する中、2018年7月1日からは家電、アパレル、水産品、加工食品、厨房用品、化粧品、スポーツ・健康用品などの輸入関税率が今までの半分以下に引き下げられる。
中国では海外での消費が盛り上がっているが、関税率を下げることによって、中国国内での消費を増加させる目的だ。
これにより今までわざわざ海外に行って買い物していたものや、国内では高かった輸入品が安く便利に購入できる。
中国国内メーカーのものが売れなくなるのでは?と心配になるところだが、政府の発表にはこう付け加えられている。
「過去の歴史が示しているように、経済が発展していく上で、対外開放政策は必然である。国内メーカーは積極的な構造改革が必須であり、商品の品質向上、消費者の満足度向上に努めなければならない。国内メーカーを刺激することでさらに高いレベルに発展させていく。」
つまり、国の成長に伴って、皆さんも成長・変化していってくださいね。と。
日本人の立場からすれば、中国との貿易が活発になる反面、日本国内のみで販売しているメーカー、小売店は売上が下がるのではないかと心配である。
しかし、中国では、中間所得層(所得が400〜700万円)が急速に増え、国民の30%が中間所得層(三億人以上)で、2025年には50%に達する見込みだ。このことからも、まだまだ日本でのインバウンド需要は続きそうである。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-1.pdf
■物流も変革
インターネットの爆発的な普及と電子マネーの驚異的な浸透により小規模な都市や農村部でもECサイトを利用した買い物が急増し、物流も変革している。
EMS(中国の郵便局)では、一昔前までは、川をロープで渡って配達するようなこともあったが、ドローンや無人飛行機の登場により、旧来の配達方法から、時代に対応した配達方法へ、イノベーションに乗り出している。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-2.pdf
EMSの無人飛行機:高度3500mを飛行、巡航速度130-170km/h,最大飛行時間15時間、最大飛行距離2000km。
■社会制度を破壊的に変えていく中国のビジネス
中国では、シェア自転車、シェア携帯充電器などスマホ決済をベースにシェアリングエコノミーと呼ばれるビジネスが席巻しているが、去年からさらに感動的で驚異的なサービスが普及してきている。それが共享汽车。つまり「Share Car」である。
日本にも数年前からあるが、車の台数やカーステーションも少なく、元の場所に戻さなければいけないなど、便利ではあるのだけれど、使いづらさを感じていた。
しかし、中国のシェアカーは、多額の投資マネーとマンパワーによって、車の台数、カーステーションも多く、認知拡大期間ということもあり、破格の値段で利用できる。車の種類も二人乗りの小さな電気自動車から、誰もが乗りたくなる高級車まで多種多様だ。
いつも利用する友人に乗せてもらったが、走った距離17km、約1時間利用して、たったの9.5元(約160円)であった。
その友人も「毎日新しい違う車を運転できるから、車買う必要もないわ〜」と言っていた。
シェア自転車やシェア充電器などもそうであるが、利用料で収益を上げているわけではなく、利用料を安くし、たくさんの人の目に触れる状態を作ることで企業からの広告費で収入を得たり、デポジットのお金を運用しているそうだ。
中国といえば、めちゃくちゃな使い方をされないかと心配されるが、デジタル化によってあらゆるデータが吸い上げられ、問題行動を起こすとポイントが減り、アカウントが凍結されるなど、サービス提供者が逆に消費者を評価することで信頼関係を構築している。
中国人のマナー問題もサービス提供者と消費者の「相互評価」の仕組みが生まれ、「きちんとしたサービスを提供しなければならない、きちんと利用しなければならない」という状況になってきている。
シェアリングエコノミー化によって、たくさんの車を作ることにだんだんと意味がなくなってきており、まだ黎明期にあるが、このように破壊的ビジネスが次々と中国社会を変え始めている。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-3.pdf
■結婚式の招待状もSNS、家の鍵も携帯で解錠
先日、中国の友人たちが集まって物珍しそうに見ているものがあって、何かな?と思ったら、紙で送られてきた結婚式の招待状だった。日本人には馴染みがないが、若い世代では、中国のLINEと呼ばれるWechatによって結婚式の招待状が電子版で送られてくるのが主流で、そこには二人の素敵な写真や音楽が流れてきて、それに参加・不参加の返信をするそうだ。若い世代では紙で招待状が送られてくるほうが珍しいらしく、SNSによって送られてくる方が主流だそうだ。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-4.pdf
家の鍵も玄関に貼られたQRコードを携帯で読み取り、解錠するという方法がどんどん広がっていて、鍵を持つ必要もなくなっている。
このように人々の生活様式もどんどん変化していっている。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-5.pdf
ITやAIなどテクノロジーの進化に伴い、ビジネスの現場においても、今までは専門職の人しかできなかったことでも、今は素人がプロレベルで行うことが容易になるなど、プロとアマチュアの境目が薄れてきている。
個人主義の中国では組織へ帰属する意識も薄く、テクノロジーを利用した「個」の力を使って、時にはバイヤー、時には技術者、時には営業マンとなり、副業の範疇を超えて収入の選択肢を増やしている。
■海南島変革元年
中国全体の変革の勢いもそうだが、その中で特に注目されるのが海南島である。実は、海南省は30年前にすでに経済特区となっており、医療観光都市を目標に掲げていたが、なかなか開発が進まずにいた。
しかし、今年4月のボアオ・アジア・フォーラム2018にて、習近平国家主席から「改革」、「開放」、「革新」をテーマに大胆な政策が次々と発表されたことを皮切りに、本格的な発展が始まろうとしている。
銀行・証券・保険業の外資出資比率の規制緩和、自動車輸入税引き下げなど、魅力的な政策の中で、特に注目されるのが、「自由貿易港建設」と「国際医療観光特区」、そして元公営競技の選手として特に期待したいのが、「競技クジの容認」、つまり競輪・競馬の容認である。
それらについてご紹介したい。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-6.pdf
■殺風景だった空港の変化
三年前に私が来た頃の海口美欄国際空港は、まさに田舎の空港といった感じで、小さなお土産屋さんやカフェがある程度だった。
しかし、最近は増築、整備され、飛行機を降りた瞬間から、アジアンリゾートの雰囲気溢れる作りになっている。こういったところから政府の本気度をヒシヒシと感じてくる。
国際線ではなく、国内線なのになぜか免税店があり、本土から来た人たちの消費を促進している。帰りのチケットを見せれば、国際線に乗らなくても、免税店で買い物をすることができる。消費を活性化させようといろんな政策が取られているのだ。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-7.pdf
■自由貿易港建設
経済発展させていく上で欠かせないのが貿易だ。そのため海南島を世界のハブ港として、香港、シンガポールのような国際自由貿易港にしていくことを掲げている。九州とほぼ同じ大きさの海南島は、ドバイを遥かに上回る世界最大規模の自由貿易港、国際金融の拠点となることが期待される。
非関税区は物理的に隔離された場所に設置されるべきで、内陸での隔離は難しいが、海南省は島という特性上、非関税区に適しており、さらには、海岸線も長く、開発可能な海港資源も多い。
※自由貿易港とは、非関税、投資や金融分野の開放、貿易の自由化などの特徴がある。各国の貨物船が自由に停泊して、貨物の積み下ろしや、ピッキング、中継することができ、関税がかからず、通関手続きも必要ない。国際貿易を展開するのに非常に有利である。サービス業や観光業にとってのメリットも大きい。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-8.pdf
■国際医療観光特区
空気や水もきれいで温暖な海南島は健康や医療に関する政策を行うのにも適している。
写真にあるようなボアオの約20キロ㎡の特別区に医療・健康を目的とした国際医療健康特区が建設されており、この中にあるボアオスーパー病院(博鳌超级医院)では,幹細胞臨床研究、感染症科、泌尿器科、腫瘍免疫治療、皮膚科の分野において,海外では使用されているが中国国内で許可が下りていない新しい薬やワクチン、医療機器の輸入時の通関や登録がスムーズに行われ、関税の優遇措置がなされている。
中国における技術分野の最高研究機関「中国工程院」の8名の院士(工学・技術科学分野において最高位の称号)とも提携しており、国内外問わず医師を招聘し、外国人医師には三年間の海南省への居留許可が下りる。
海南政府はこの医療改革特区で、毎年100回の国際医学会議及び国際医療健康産業コンベンションの開催を指標に掲げ、中国医療健康産業を国際水準へと引き上げる目論みだ。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-9.pdf
■競技クジ容認を検討
元競輪選手として、一番期待したいのが「競技クジの容認」つまり、競輪、競馬など、公営ギャンブルの容認である。上海など他の11カ所の貿易区にはないユニークな事業を海南省で行うことで、独自性を打ち出すとの狙いがあり、世界中から観光客を呼ぶことができる一大リゾートとして売り出そうとしている。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-10.pdf
まだ容認を「検討」ということで様子見ではあるが、現在、日本の競輪の売上は1991年の1兆9,553億円をピークに2017年には6400億円と約三分の一まで下がっており、近年は他の公営競技がレースを開催していない早朝や深夜にレースを行うことで、売上が下げ止まり、増加傾向にあるものの、1980年には3500 万人以上あった年間来場者数が2017年には271万人と激減している。
また来場者の8割が60歳以上の男性で、今後少子化が進み、人口が減少していく日本の状況を考えると、アプローチする対象が少ない日本から、競輪業務を輸出し、潜在顧客が多い中国にて競輪が行われれば、双方にとって価値のある競輪事業が展開できるのではないかと心から期待している。
今後の政府の政策に注目し、人々の競輪への理解などを調査し、可能性を見つけ、私なりのアプローチをしたいと考えている。日本の競輪を海南島に誘致することに成功できれば、私が海南島にきた意義があるというものだ。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-11.pdf
閑散とした中で行われる競輪レース。戦後の復興財源として高度経済成長期とともに一時代を築いた競輪であったが、時代のニーズに対応できず衰退の一途を辿っている。
■人材集め
開発を行うにあたり、人材の確保は不可欠であり、政府は破格の待遇で海南省へ優秀な人材を誘致している。
中国国籍が対象であるが、以下のようなものがある。
・海南省戸籍を取得できる(中国では出生した省の戸籍しか取得できない)
・配偶者には条件のいい仕事を与える。
・子供には教育レベルの高い学校に入学させることができる。
・人材のレベルと基準に基づき、無償で200㎡、180㎡、150㎡の家具付きマンションに住むことができる。
・フルタイムジョブで満5年で80%、満8年で100%の不動産所有権を取得できる。
・起業を行う人には最高3,400万円の補助金。
・起業から三年間オフィスを無料で借りれる。
・最長五年の無利子ローン。
このように宇宙産業重大科学技術革新基地、国家深海基地南方センター、国家南繁科学研究・育種基地、国家熱帯農業科学センター、世界動植物種資源導入・中継基地などの5大プラットフォーム、及び教育・医療・科学技術・文化などの分野を重点に2020年までに20万人、2025年までに100万人の有能な人材を導入する計画である。
海南島を国家が主導で開発すると言っている以上、今後、多額の投資資金が投入されることになる。日本企業から見れば、リゾート開発会社、旅行会社、小売り企業、医療、環境関連企業などにビジネスチャンスがありそうだ。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-12.pdf
■ビジネスチャンスは外国人にも
ロシアから中国に留学に来ている留学生も留学期間が終わったあとに、そのまま中国に残り、中国人から投資を受けて、ロシアンレストランを開いたり、韓国人の友人は「ビルのワンフロアが余ってるから、自由にビジネスしていいよ」という具合に、中国人から投資・援助を受けてビジネスチャンスを掴んでいる。
中国人は仲間内で投資を募り、いくつかのビジネスに投資を行い、本業を持ちながら複数の事業オーナーということが多い。副業が自由に行える中国ではこのようなことが活発に行われている。
■時代の流れに対応する
このように海南島は今最も注目、期待される地域であり、私自身もこの変革を間近で見れる環境にいれることにとても感謝している。
これだけ変化が激しい環境にいると、未来に対する考え方も変わってくる。今では皆が当たり前のようにスマートフォンを生活の必需品として使っているが、初期のiPhoneが登場した10年前に、今の「生活をポケットにいれる」ような世の中になるとは誰も想像していなかったはずだ。つまり“世界はすぐに変わってしまう”ということである。
1980年代に生まれた私達世代は、じわりじわりと後退していく日本経済の中で過ごし、将来に希望が持てない、老後が心配といった、漠然とした不安を持ち、明るい将来が見えづらい。
しかし、今の状況だけを見てすべてを想像してしまうのではなく、10年でスマートフォンが世の中を変えたように、また今後、自動運転技術の実用化や、AIが人の働き方を変えるなど、誰にもわからない未来だからこそ、変化を恐れず、その時々にやれることをしっかりと一つ一つやっていくことが大事ではないかと変化の激しい中国の中にいて感じる。
自然豊かな田舎町の佐賀県伊万里市(人口約6万人)で生まれ、元スポーツ選手の私が、価値観や文化、生活習慣も違い、言葉も満足に伝わらない異国の地で、暗闇の中を突き進んでいくようで怖いが、その変化を楽しんでいきたいと思う。
モノや人材の価値が、多すぎれば下がり、少なければ上がるように、日本人が極端に少ない海南島で日本人というアイデンティを最大限に生かしながら、これから活躍の場を広げていきたい。
■海口市在住日本人御用達の日本料理屋「畑邉家」にて
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_161-13.pdf
日本国大使館の石月英雄公使、羽野嘉朗一等書記官、広州総領事館の石澤義治領事が海南島を視察に来られた際に、海南島在留者の方たちと一緒に意見交換させていただいた際の一枚。