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vol 64 新型インフルエンザワクチンの副作用対策: 米国のゲノム研究

医療ガバナンス学会 (2010年2月22日 07:00)


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マサチューセッツ大学医学部、研究員、医学博士
林 恵美子
2010年2月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2009年4月、メキシコ及び米国から感染が確認された新型インフルエンザは、今や全世界的レベルで感染が拡大し、現在(2010年1月12日)までのところ少なくとも1.4万人が死に至っている。
アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)においては、米国内の実際の死者数は、受診しないケースや誤診の可能性を考慮すると、発表された死者数の約2.7倍と見積もっており、世界レベルとなるとさらに多くなると思われる。

新型インフルエンザは、豚インフルエンザウイルスA(H1N1型)による感染により、突然の高熱、咳、咽頭痛、倦怠感に加えて、鼻汁・鼻閉、頭痛等であり、季節性インフルエンザと類似している。
ただし、季節性インフルエンザに比べて、下痢などの消化器症状が多い可能性が指摘されている。また、感染対象者の多くは10-24歳が大半で、感染者に対しては抗インフルエンザウイルス薬(タミフル・リレンザ)が処方されている。一方、その感染予防策として、抗インフルエンザワクチンが有効であるが、その副作用も無視できない。本寄稿においては、日本における新型インフルエンザワクチンに対する取り組みとその副作用、さらに副作用対策について述べたいと思う。

我が国における新型インフルエンザワクチンに関しては、がんワクチンの寄稿でも既に述べたが、諸外国に比べて遅れをとっていると言わざるを得ない。海外で使用が認可されているのにも関わらず、Sanofi Aventisサノフィ・アベンティス(フランス)、MedImmune(アメリカ)、CSL Biotherapies(オーストラリア)、Solvayソルベイ(ベルギー)、Baxterバクスター(アメリカ)などにおいては、日本国内では入手できないワクチン製造が日夜行われている。特に、GlaxoSmithKlineグラクソ・スミスクライン(イギリス)やNovartis Pharmaノバルティス ファーマ(スイス)といった大手製薬会社においては、新型インフルエンザワクチンに対する開発が精力的に行われている。これらのワクチン開発にかける研究費は、日本国内のワクチン研究開発費総額のおよそ10倍に達する*1。さらに、世界的にはワクチン産業が成長市場となっており、2008年の約1兆8000億円の世界市場が、5年後にはその倍に増加することが見込まれている。しかしながら、日本国内の市場はわずか800億円程度に留まっている。なぜ日本政府はワクチンの開発、ならびにワクチン産業へ力を注がないのか。我が国独自のワクチンを製造し、ワクチンを通じて諸外国へ貢献するくらいの余裕がほしい。

新型インフルエンザワクチンの開発には、その副作用の原因解明が不可欠である。副作用は約100万人に1人の割合であり、2009年10月19日から2010年1月5日までの間に、2001名に副作用があったと報告されている*2。

その内訳として、重篤報告数315名、死亡報告数107名である。副作用としては、以下の症状が挙げられる。1)アナフィラキシーanaphylaxis(誘発性の全身性過敏症)、2)ギヤン・バレー症候群Guillain-Barre syndrome(末梢神経、脊髄根、脳神経の急性免疫関連疾患。四肢、体幹、呼吸、咽頭、顔面の筋肉の比較的対称性の上行性脱力を呈する)、3)チャーグ・ストラウス症候群Churg-Strauss syndrome(主に小血管を障害し、血管とその周囲に肉芽腫を伴う血管炎の症状や徴候で喘息、発熱、および好酸球増加を生じる)、4)スチーブンス・ジョンソン症候群Stevens-Johnson syndrome(多型紅斑の水痘型の一型で、粘膜や身体の大部分に広範に生じる)である*3。

ワクチンによる重篤な副作用を呈した患者、例えば、インフルエンザ脳症患者の白血球DNAを積極的に収集し、ゲノム解析によりその遺伝的背景(遺伝的なリスク)を明らかにすることは確実に一定の割合の患者の重篤な副作用や脳症を未然に防ぐことが可能となるであろう。例えば、AIDS患者におけるHIV治療薬(ネビラピン、アバカビル)に対する副作用と患者白血球のHLAとの関連が解明されており、薬疹や失明、死を防ぐことが可能となっている。

米国FDAは、ホームページ上で副作用回避のために投与前の遺伝子診断を奨励している。このように、インフルエザ脳症やワクチンによる副作用の高危険群を同定することが必要不可欠である。副作用に対する詳細な解析、さらに副作用の少ないワクチンの開発と製造を行うためにも、より多額の研究開発予算が必要である。

現在、新型インフルエンザは一見、終息に向かっているかのように思えるが、季節性インフルエンザによって毎年約1万人の死者を出しているように、数年後には、新型インフルエンザが季節性インフルエンザにとって替わることが予想される。米国では、2010年1月9日から8日間を「インフルエンザ予防接種の週」とオバマ大統領が宣言したことからも*4、今もなお、新型インフルエンザの感染を重要視していることが分かる。したがって、我が国においても、新型インフルエンザワクチンの研究開発、ならびに副作用の解明に、産学官が一体となって取り組む必要がある。

*1「安心をもたらすワクチン政策を」 日本経済新聞(2009年11月1日)
*2 厚生労働省 医薬食品局安全対策課 平成21年度薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会 安全対策調査会(第7回)及び新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会(第4回)(第4回合同開催)2010年1月8日開催資料より
*3 ステッドマン医学大辞典改訂第5版より
*4「Presidential Proclamation- National Influenza Vaccination Week」

http://www.whitehouse.gov/the-press-office/presidential-proclamation-national-influenza-vaccination-week

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