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vol 65 誰が読む? 気が遠くなるほど詳細な領収書

医療ガバナンス学会 (2010年2月23日 08:00)


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武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田智裕
2010年2月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

このコラムは世界を知り、日本を知るグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです他の多くの記事が詰まったサイトもぜひご覧ください
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【Content】
2月5日 中央社会保健医療協議会(中医協)は、「明細付き領収証」を医療機関が無料で発行するように義務化する方針を了承しました。明細付き領収証とは、診察の内容や薬の種類などの医療費の詳しい内訳が記された領収証です。
会議中、ある委員が次のように発言していました。
「いろいろなサービスを受ければ、その内容を教えてもらうのは(患者の)当然の権利。コストがかかるのであれば(医療機関に)ご負担いただくのが当然。(中略)本来は1点(10円加算)もいらない」(注:今回は診療所のみを対象に1点加算を認める方針)
これは、一般の人を代表した意見なのでしょう。でも、医療関係者側からすると、反論する気力もなくなるぐらいの「認識ギャップ」が存在するのです。
また、今回の義務化決定で「国民に医療費の単価を知ってもらえるようになり、患者リテラシーが高まる」と説明していますが、本当にそうなのでしょうか?

【そこまで詳細な「明細付き領収証」を誰が必要とするのか】
ほとんどの医療機関では、既に診療明細付きの領収証を発行しています。例えば、診療所で胃内視鏡検査(胃カメラ)と胃薬の処方を受けると、以下のような領収証が発行されます。
────
再診料   1210円
医学管理料 2250円
処方せん料 1330円
投薬検査料 15060円
病理診断料 10260円
合計 30110円 (3割負担)領収額9030円
────

今回無料での発行が義務化された、レセプト並みに詳しい内訳が示された領収証になると、これが次のように変わります
────
再診料    710円
夜間早朝加算 500円
胃内視鏡検査 11400円
ガスコンドロップ内服液2% 5ml、ブスコパン注20mg2%1ml 1管、プロナーゼMS 20000単位 20000単位、キシロカイン液「4%」2ml、キシロカインゼリー2%5ml、ボスミン注0.1%1ml 1管 計560円
病理判断料    1460円
病理組織標本作製(院外)病理組織標本作製(1臓器) 8800円
内視鏡下生検法  3100円
特定疾患療養管理料(診療所) 2250円
内服薬処方せん料       680円
処方せん料長期投薬特定疾患処方管理加算 650円
合計 30110円 (3割負担)領収額9030円
────

胃の検査と薬処方だけでこれほどの分量です。少し複雑な処置だと分量はもっと多くなります。ましてや入院治療の詳細明細書だと、もう見る気もしなくなるくらいの量になるのです。
例えて言うと、喫茶店の領収書が「コーヒー450円+ケーキ500円=合計950円」だったところが、「コーヒー豆60円+砂糖、ミルク、ナプキ ン代16円+コーヒー作成料80円+施設維持料50円+衛生管理代23円・・・(以下省略)」というように記載することが義務化されたような感覚です。
「見たいので欲しい」という人よりも、「こんなの全部読まないよ」という人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか?

【患者は説明なしでは内容を理解できない】
レセプトオンライン化が完了している施設であれば、設定を変更してプリントするだけで詳細な明細付き領収証が出てきます。だから「必要経費として10円すら出す必要なし」という意見になったのでしょう。
でも、電子カルテ+レセプトオンラインの導入には最低でも数百万円の導入コストと毎月数万円の保守維持費用が発生します。全員に明細付き領収書を出す場合、スケールメリットがあるとはいえ、数百円のコストは必要でしょう

(関連コラム「無料から1万円まで、カルテ開示料金の不思議」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2552 も参照ください)。
それに、「領収書をプリントして渡して終わり」で済ませて良いのでしょうか? 保険点数は1,000ページを超える分量で詳細に定められています。保険点数の明細の内訳を見ただけで理解できる人なんて、まずいないでしょう。
説明にかかる手間ひまは、現場をさらに疲弊させることになります。明細付き領収証の発行を義務づけるのであれば、点数計算をいかに簡素化するかも併せて議論してほしいと思います
(関連コラム「『脱官僚』が変える医療の現場」 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/1731 も参照ください)。

それでも「コストがかかる」という現場の主張は、「無料でやるのが当然」と退けられなければならないのでしょうか? 実際には、明細書発行に10円が加算されても、電子化加算の30円が廃止されるので、差し引き20円のマイナスなのです。

【実は領収証の内容は「未確定」】
私にはさらに問題だと思うことがあります。それは、医療機関で明細付き領収証を発行したところで、その内容は「未確定」だということです。
どういうことかと言いますと、医療機関から見た診療費の流れは以下の通りになっています。
(1)診療当日、治療費を計算して受診者から自己負担分を徴収する。
(2)月末締めでレセプトを健康保険組合に提出。都道府県単位での査定の後、査定金額および自己負担分を差し引いた治療費が振り込まれる。
(3)各保険者(個々の企業の保険組合)にレセプトが渡り、最終の査定が行なわれる。査定額が直近の月の支払い額から相殺されてレセプトが確定する。
つまり、(2)および(3)の段階で「査定」があるのです。それを経て、詳細な明細は確定します。ですから、(1)の段階で詳細な明細付きの領収証を発行することは可能ですが、それはあくまでも未確定なものでしかありません。

【健康保険組合が希望者に渡すべき】
(1)の段階で明細付き領収書の発行を義務化すると、受診者はその内容が最終的に確定したものだと思い込んでしまいます。保険組合が診療機関への 支払いを拒否したとしても、受診者がそれを知ることはありません。医療機関のケアレスミスによる算定間違いだけがクローズアップされることでしょう。
(注:医療機関のケアレスミスによる算定間違いは、その後の保険組合と各保険者の段階でチェックされ、そのまま確定することはありません)
ですから私は、「健康保険組合が確定レセプトの明細を希望者に渡す」ようにすべきではないかと思います。そうすれば、現場の負担は少ないですし、おそらく大きな問題は起きないでしょう。
「明細をよく見ないと間違った治療費を取られるかもしれない。だから、明細付き領収書の発行を義務付けるのだろう」と思う人もいることでしょう。 しかし、その領収書の内容は、そもそも「未確定」なのです。明細付き領収証の発行を義務化するならば、そのことを徹底的に周知させるべきです。このままで は、ただ単に現場の雰囲気をギクシャクさせる結果になってしまう気がしてなりません。

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