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Vol.260 「マザーキラー」子宮頸がんだけじゃない高リスク 医師が解説する「HPV」とは?

医療ガバナンス学会 (2018年12月14日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(8月1日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2018072700032.html

山本佳奈

2018年12月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2018年7月24日、イギリス政府は、ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)が関連するがんを予防するために12~13歳の男児にHPVワクチンを接種することを決定した、と発表しました。

米国、ブラジル、カナダ、オーストラリアなど世界20カ国では、すでに男児への接種が推奨されています。今回の発表により、イギリスも男女ともにHPVワクチン接種を推奨する国の一つに仲間入りしたことになります。

「結局、HPVワクチンって打った方がいいの?」

最近、こうした質問を小学生の女の子を持つお母さまやお父さまから受けることが増えてきました。一方、HPVワクチンの未接種、子宮頸がん検診にそもそも行ったことがない、または診療時間中に仕事を休んでまで検査に行けない、などという同世代の女性が思ったよりも多いことを、外来診療を行う上で気づきました。

そこで、今回はHPVワクチンについて、世界における研究結果をもとにお話ししたいと思います。

ところで、皆さんはHPVが男女問わず感染するということを聞いたことがありますか。ウォマック・アーミー・メディカル・センターのJasmine J. Han医師らは、2013年から14年に行った調査において、米国を代表する18~59歳の男性1868人のうち、半数近い45%にHPV感染、25%に高リスクHPV感染を認めたと報告しています。

実は、性交渉の経験のあるヒトなら、誰でも一度はHPVに感染すると言われているのです。

HPVには、100種類以上の型があります。がんの原因になる高リスク型は少なくとも13種類あり、このうち、HPV16型と18型の2種類が、子宮頸がんの原因の7割を占めています。HPV感染の多くは免疫力によって排除されますが、持続感染してしまうとがんになるのです。

最も一般的なのは、子宮頸がんです。子宮頸がんのほぼ100%は高リスク型HPVが原因です。子宮頸がんは、20代後半から40代前半の女性が発症しやすく、日本では毎年1万人が罹患し、約3000人が死亡していると推定されています。母親が幼い子どもを残して亡くなっていることから、「マザーキラー」とも呼ばれています。

ところが、子宮頸がんだけでなく、ほかのがんも、HPV感染が関連していることがわかってきました。中咽頭がんはその一つです。オーラルセックスを介して、喉の粘膜細胞に感染したHPVが周辺の細胞をがん化させるのです。

アメリカ疾病管理センター(CDC)が2011年から14年のデータ解析を行ったところ、口腔部のHPVの罹患率は、18~69歳の成人で7.3%であり、男性で11.5%、女性で3.3%でした。また。高リスク型の口腔部HPVの罹患率は、18~69歳の成人で4.0%であり、男性で6.8%、女性で1.2%でした。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのCatherine H Mercer医師らの2010年から12年の調査によると、イギリスにおけるオーラルセックスの頻度は、25歳から34歳の女性では79.7%、男性では80.0%。Megan Scudellari氏は、Nature誌において、オーラルセックスを介することによって、HPV陽性の頭頸部がんが近年急増しており、1985年の16%から2025年には90%にまで達すると推定されている、と述べているのです。

ほかにも、膣がんや外陰がん、肛門がんや陰茎がんもHPV感染が関連していることがわかってきました。HPVワクチンを接種することは、パートナーへHPVを感染させないだけでなく、男性もHPV感染による頭頸部がんや肛門がんなどHPVに関連したがんを予防できるメリットがあるのです。

HPVワクチンの有効性は、世界的にみとめられています。2018年5月、非営利組織コクラン(本部イギリス)はさまざまな臨床試験の評価結果として「子宮頸(けい)がんの前段階の予防効果には高い確実性がある」との見解を公表しました。2016年に米国疾病予防管理センターは、米国でHPVワクチン接種開始から6年間で、米国の若年女性のHPV感染率が大幅に低下した(14〜19歳の女性は64%、20〜24歳の女性は34%もHPV感染率が低下)ことを報告しています。

ワクチン接種による副反応は様々なメカニズムで起こっている可能性があって、明快な答えは出ていません。けれども、WHOは2017年に複合性局所疼痛症候群・体位性頻脈症候群は, 承認前後の報告でワクチン接種との直接の関連を認めなかったと副反応について声明を出しています。また、日本産科婦人科学会は、HPVワクチンの接種勧奨が中止され5年間が経過した間に、国内外において、数多くの研究がなされ、ワクチンの有効性と安全性を示す科学的なエビデンスが、数多く示されたとの見解を2018年6月に出しています。

日本は、平成6〜11年度生まれの女子のHPVワクチン接種率が70%程度であるに対して、平成25年6月の接種の積極的勧奨中止などの影響により、平成12年度以降生まれの女子では接種率が劇的に低下、平成14年度以降生まれの女子では1%未満の接種率となっています。一方、米国疾病管理予防センター (CDC)の2013年の発表によると、13歳から17歳の女性への接種率は2012年では33.4%。欧州における接種率は、欧州疾病予防管理センター(ECDC)の2012年の報告書によると、イギリス80%、イタリア65%、フランス24%、ポルトガル84%と日本に比べると高い接種率が並んでいます。国際社会において日本だけが、子宮頸がんの発生率が増加するのではないかと懸念されているのです。

私が勤務するクリニックでも、多くの20代前半の中国人女性が接種しにきています。留学生が中心ですが、週末の休みを利用して接種に来る女性もたくさん見かけます。HPVワクチンを接種して当たり前だ、という意識が強いように感じます。自分だけではなく、愛するパートナーや子どもを守るために、今一度、HPVワクチンについて世界に目を向けてみてはいかがでしょうか。

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