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Vol.057 病院の外で学ぶ;(3)貧しい国、日本

医療ガバナンス学会 (2019年4月1日 06:00)


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永井雅巳

2019年4月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

人口ピラミッドでみるこの国の現在のかたちは、ピラミッドではなく、“つぼ”型とよばれるそうだ。つりがね型より出生率が低下するとこうなる、と中学の教科書に書いてある。この国のかたちも1930年代はピラミッド型であったそうだが、1980年代にひょうたんに変わり、やがて、つぼとなった。

桐島洋子氏は「淋しいアメリカ人」(1971)の中で、当時のニューヨークの老人を見て、人間の廃墟が歩いていると驚愕した想いを語っているが、1880年代生まれの彼から「あんたはわたし達が不幸だと思っているのかね。せっかくだが、それは見当違いさ・・われわれは何事も迷う必要はなかった。自然は征服するべきもの、技術は進歩させるもの、生産は増大させるもの、戦争は勝つもの・・すべてははっきりしていた。生きやすい世界を十分に生きさせてもらったよ。」
と語りかけられる。見ため廃墟のようでも、今から約50年前のアメリカでは活きのよい老人がいたらしい。

一方、今、私が拝見している在宅・施設の患者の多くは80から90歳代。活きの良い人は概して少ない。大正生まれの人はさすがに少なくなり、西暦で言えば1920年代生まれの方が多い。ほぼ青春と呼ばれる時代を戦争で奪われ、わが国の敗戦からの復興を先頭になって引っ張ってくれた。1991年にバブルが崩壊し、富裕層の一部は財を失ったが、中流と思っていた階級層の大部分が貧しくなった。2014年の厚労省の国民生活基礎調査によると、65歳以上の高齢者世帯の27.1%が「大変苦しい」、31.7%が「やや苦しい」生活を強いられている。2015,2016年の調査ではこの率は改善を示したが、2016年には生活保護受給者の半数以上が高齢者世帯となった。日本総研のレポートによれば、2035年には高齢者世帯の19.5%、394万世帯は生活保護を利用する際の基準となる「最低生活費」より収入が少なく、平均寿命に至る前に貯金が底をつくそうだ。この394万世帯はどうやってこの国で暮らしていけば良いのか?

失われた20年間の間に、この国の可処分所得中央値は297万円(1997年)から最近では245万円前後と50万円も少なくなった。年金生活の高齢者でも年金支給額が下がり、社会保険料が上がったために、大和総研の是枝氏によると、単身高齢女性の可処分所得は2011年年額166万円から2018年156万円と下がっているそうだ。
一方、富裕層はどうか。野村総研の調査によると、純金融資産保有額5億円以上の超富裕層、1億円~5億円の富裕層は、2000年ではそれぞれ6.6万世帯、76.9万世帯であったのが、2015年には7.3万世帯、114.4万世帯、合わせて122万世帯に増加し、この2つの富裕層が保有する金融資産総額は合わせて272兆円になるそうだ。クレディ・スイスによるレポート(グローバルウェルネス2016)によると、100万ドル以上の試算をもつこの国の富裕層の数は2016年には282万6千人(!)となり、世界の中でアメリカに次いで、第2位となった。この富裕層の増加の原因は、しばらく円高ドル安が続いたことにあるようだが、この2つの国(アメリカ、日本)が貧困率においてもOECD加盟国の中で断トツ1,2位を争っていることを忘れてはならない。富める者は益々富み、資産がない者は益々貧しくなっている。大きな貧しい層とごく小さな富裕層、いびつに二極化しているのもこの国の形だ。

OECDのグローバルノートによると、2016年日本のジニ係数は18-65歳で0.34、世界の主要42か国で17位、65歳以上に限ると13位となる(格差が大きい)。35位~40位までのボトム(格差が少ない国)にはフィンランド、デンマーク、オランダ、ハンガリーノルウェー、ベルギー、スロベニア、チェコといった北欧・東欧の国が並ぶ。因みに2018年国連が発表した世界幸福度ランキングでは1位フィンランド、2位ノルウェー、3位デンマークであるように、世界の多くの人は格差が少ない社会をより幸福と感じるらしい。それではこの国の国民の多くが幸せを感じるように、資産を多く持っている人が多くの税を供して、みんなが幸せを感じる国にしてはどうか。残念ながら、この国の意思決定は資産を多く持っているごく少ない人が決めているので、なかなか難しいようだ。

現場に出ると、この国の地方が貧しくなり、活気を失ってきていることが良くわかる。ルドガー・ブレグマンの言うように、「貧困は人格の欠如ではなく、金銭の欠乏である」のだ。ただそれだけだが、若い人は金銭を求め、都会に出、高齢者は残される。世代で受け継がれるべきものは、断ち切られ、やがて地方の村は消えていくことになる。

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