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Vol.081 医療大麻*:その効用と社会的副作用

医療ガバナンス学会 (2019年5月7日 06:00)


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難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事
日本麻協議会事務局代表
若園和朗

2019年5月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

3月20日、朝日新聞は「大麻*含むてんかん薬 使用可能に」と報道しました。参院沖縄・北方問題特別委員会の場で、医師でもある参議院議員 秋野公造氏の質問に答える形で大麻*を原料とする医薬品(以下「医療大麻*」と記述)の扱い方について厚労省が見解を示したという内容です。(注1)(参1)
日本人は、戦後のある時期から大麻について語ることをタブーとしてしまいました。そのため偏見や無責任な言説が横行し、医療での利用と嗜好利用の是非がごっちゃに語られるなど混乱した状況が続いています。そんな中、厚労省が「医療大麻*」の使用を許容する判断をしたことは画期的と言えるでしょう。
この判断は、苦しむ患者さんを救うことに役立つでしょうか?乱用を増やすことにならないのでしょうか?この小稿を通して大麻に対する偏見が幾分でも解消され、責任ある知的な議論に繋がることを期待します。

■乱用の心配のない大麻*製剤エピディオレックス
現在わが国では、大麻*を含む医薬品は処方することができません。なぜなら、「大麻取締法」により「大麻*から製造された医薬品を施用し、若しくは交付し、又はその施用を受けた者は、五年以下の懲役に処する。」と決められているからです。その為、これまで臨床試験も行われませんでした。今回は、大麻*を原料に作られた「てんかん治療薬エピディオレックス」について、臨床試験ならば施用可能と厚労省が公式に認めたということです。「エピディオレックス」は、大麻*の成分の中でも依存の問題が起きないといわれるカンナビジオール(CBD)という物質を難治性てんかんのドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群の治療に使おうというものです

■患者の苦しみと科学の進歩を無視した「大麻取締法」
「大麻取締法」ができたのは、戦後間もなくの1948年。15年後の1963年には、イスラエルの科学者ラファエル・メコーラム氏等が大麻*の依存や乱用の元となるのはテトラヒドロカンナビノール(THC)であることなどを顕かにしました。それ以来、大麻*の成分とその人体への働きについての理解は進み、医薬品としても期待されるようになってきました。その為、一部の国ではてんかん以外にもクローン病、多発性硬化症、慢性疼痛などの症状の緩和に使われるようになっています。そういった意味で大麻*が原料だというだけで、乱用の心配のない医薬品まで禁じる「大麻取締法」は、科学の進歩や患者の苦しみを軽視した不合理な内容を含む法律と言えるかもしれません。

■心配なのは社会的副作用
しかし、「大麻取締法」の不合理以上にやっかいなのは、「医療大麻*」が許可されると乱用が増えるという社会的な副作用が懸念される事です。
「医療大麻*」を認めるようになったアメリカの各州では、「違法使用」つまり乱用が増えているとの報告があります(参2)。その原因について、この調査を主導したコロンビア大学のHasin教授は、医療大麻*法の流布が「大麻*の使用は安全である」との暗黙のメッセージとなり、その影響で大麻*を使用する人々が増えていると述べています。(参3)
医薬品に使えるのだから遊びで使っても安全と考えるのは、いかにも幼稚で安易な考え方ですが、そういった人が一定数存在することは悲しいですが現実です。わが国においても、「医療大麻*」をWeb検索してみると、医療利用に託けて嗜好利用の合法化つまり乱用を勧めるサイトがいくつも見つかります。大麻*の医療利用を目指すのであればそうした残念な勢力とは一線を画すのは当然ですが、どのように対峙し社会的副作用を無くすかが重要な課題になるでしょう。

■「大麻取締法」の目的の見直しと確認を
ところで現行の「大麻取締法」の目的は何でしょう?冒頭に記されていないのと、本来取り締まるべき煙の吸引など嗜好利用を禁じる記述がないのでとても判りにくいものになっています。それが、混乱の一因になっているのかもしれません。
では、なぜ吸引が罰の対象になっていないのでしょう。それは、大麻が当時生活に欠かせぬ大切な農作物だったからです。農作業で行われる不要部位の焼却による煙を吸ってしまう事を罰するわけにはいきません。つまり「大麻取締法」の目的は乱用を防ぎつつ農作物としての大麻を守ることだったはずで、よく読むとそのような内容になっています。しかし、現在はとにかく取り締まることが目的のように運用されています。そのため、伝統的に日本の大麻は低THCの品種で、乱用とは縁遠いとの指摘があるにもかかわらず、厳しい締め付けに晒され、罪のない貴重な日本の麻文化は、今や存続の危機に追い込まれています(参4)。
別の依存性薬物である「あへん」が医薬品として使うことができるのは「あへん法」の第一章 第一条に(目的)として「この法律は、医療及び学術研究の用に供するあへんの供給の適正を図るため・・・」と明記してあるからです。
「大麻取締法」を、「乱用防止」と、「医薬品及び一般農作物として適正な活用」を目的とすると明記した法に改正すべきではないでしょうか。法律は、社会の価値観や倫理観に大きな影響を与えます。従って、社会的副作用を防ぐことにも繋がるのではないかと私は期待しています。

■国民の健康や幸せのため適正に利用できる社会
「医療大麻*」については、その解禁を訴えて参院選に立候補した女性が不法所持で逮捕された事件も記憶に新しく、世間の評判は極めて悪い状態です。そんな中、患者を救いたいとの信念に基づき質問された秋野議員と誤解を恐れることなく良識に沿った判断を下した厚労省に敬意を表します。大麻という植物は、乱用の脅威を除けば、医療だけでなく循環型の資源として、またその実は食品として等、様々に活用できる作物です。この質問が契機となり、大麻の益と害について正しい知識が広まり、国民の健康や幸せのため適正に利用できる社会となっていくことを願います。

最後に、前述のラファエル・メコーラム氏の言葉を紹介したいと思います。
「大麻*の嗜好品としての合法化は支持していない。特に青少年にとって大麻*は無害な物質とは言いがたい。医療の用途に限定して、厳しい規制の下で真摯に研究を進めるべきだ。」「今のところ、(大麻*については)わからないことが多すぎる。医療に役立てるには、定量的な研究が必要。数値を示さなければ、科学とはいえない。(参5)」

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(注1)ややこしいですが、大麻取締法上の「大麻」とは、大麻(アサ科アサ属)つまり麻(アサ)と呼ばれる植物の花穂と葉と幼苗のことで、成熟した実と茎は含みません。大麻の実は、麻子仁と呼ばれ漢方薬の原料として現在も使われています。ここでは、大麻取締法上の「大麻」を「大麻*」、植物としての「大麻」を無印で表記し区別しました。

(参1)朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/DA3S13941041.html
(参2)US Adult Illicit Cannabis Use, Cannabis Use Disorder, and Medical Marijuana Laws  https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2619522
(参3)「医療大麻を認めると乱用者も増加する」との米国研究…「大麻は安全」との認識が広がる? https://biz-journal.jp/2017/06/post_19167.html
(参4)大麻取締法は、日本の大麻を守るための法律  http://medg.jp/mt/?p=8775
(参5)ナショナル ジオグラフィック 2015年6月号

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO87342950X20C15A5000000

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