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Vol.085_私がいわきで診療をしているわけ〜女性泌尿器科医奮闘記〜 その1 尿失禁の患者さん

医療ガバナンス学会 (2019年5月13日 06:00)


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ときわ会 常磐病院 泌尿器科
小内友紀子

2019年5月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「本当に、パッドがなくて生活できるなんて思っていませんでした。すっきりした。夢のようです。手術をしてよかった。」

腹圧性尿失禁で手術後の女性患者さんが、診察室に入ってくるなり言った言葉です。

私は福島県いわき市、ときわ会常磐病院の泌尿器科で働く医師です。泌尿器科にくる患者さんといえば、もちろん尿路の結石や腎臓、膀胱の腫瘍、前立腺肥大症などの病気がありますが、出てはいけない時に尿がもれる、尿失禁も泌尿器科の病気です。もともと東京女子医大病院泌尿器科で働いていた私は、現在、いわきの患者さんの泌尿器科のお悩み事を解決したいと思って、こちらで働いています。今回は泌尿器科の疾患のうち女性患者さんに多い病気を中心に解説をさせていただきます。

尿失禁の治療では、冒頭の患者さんのように治療がぴたりとあうと、患者さんも驚くように症状がよくなります。

ですが、患者さんにとっては泌尿器科のしきいは高いようです。そもそも、尿がもれるのは病気なのかわからない。病院に行っても、特に男性の先生に女性の患者さんが「尿がもれます」というのは恥ずかしい。市販の尿もれパッドを買って、自分で尿がもれて汚れた時だけ取り替えればすんでしまう。などの理由で尿がもれても受診をしない人は多いようです。日本排尿機能学会による疫学調査では、尿もれや尿の勢いが悪いなどの症状(下部尿路症状といいます)があっても、医療機関を受診する人は約8%程度しかいないそうです。1)

泌尿器科医から言わせていただくと、尿がもれるのは立派な病気なのです。

排尿、排泄のトラブルを扱う国際学会である、「国際禁制学会(International continence society = ICS)」という学会では尿もれ(尿失禁)を「尿が不随意に漏れるという愁訴である。」と定義しています。つまり、トイレ以外の場所で、尿を出そうとしていないのに、勝手に尿が出てしまうことを尿失禁というのです。

実際、どれくらいの方が尿失禁をもっておられるのかについては、インターネットを使って行われた調査で、対象となった4804人(20-79歳、平均年齢40.4歳)のうち、約68%の女性が頻尿や尿失禁などの症状をもっておられました。2)

尿失禁ですが、大きく分けて2つのタイプがあります。腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁です。

腹圧性尿失禁というのは、咳やくしゃみをしたときに尿がもれてしまう症状です。他には重いものを持ち上げたり、階段を降りたり、マラソンや歩いた時にもれてしまう方もおられます。原因として、女性の尿道を支える膜や筋肉が妊娠出産のときに傷ついて、女性ホルモンが減るころになってそれらの膜や筋肉の力が衰えることによって、尿道が動きやすくなってしまうことが挙げられます。そのため、いわゆる「ぐっと」力を入れるような動作をすると尿道をしめる力を腹圧が上回ってしまって尿もれが起きてしまいます。

腹圧性尿失禁になるのは、ほとんどが女性ですが、男性でも腹圧性尿失禁が起きることがあります。前立腺癌で前立腺をとって、膀胱と尿道をつなぐ手術を受けた方です。その場合、尿道をしめる役割の一部を担っていた前立腺がなくなること、手術で神経や筋肉を痛めることで尿道をしめる力が弱くなり、腹圧性尿失禁が起きることがあります。手術の後、半年以内に回復される方が多いのですが、その後もずっと尿失禁が治らない方もおられます。海外の多数例のデータでは、ロボットによる前立腺癌の前立腺全摘術後、12ヶ月目において尿とりパッドがいらない人をしらべた報告で平均84%(69-96)、パッドなしか、うすいパッド1枚未満の人をしらべた報告で91%(89-92)でした。3)

もう一つの尿失禁が切迫性尿失禁です。切迫性尿失禁というのは、トイレではないときに、急に尿をしたくなり、それと同時もしくはその後に尿がもれてしまう症状です。よくあるのは、トイレに行こうとしてトイレの中に入って、下着をおろそうとして間に合わずに尿がもれてしまう状態です。他には、夜寝ていてトイレに起きた時、間に合わずにもれたりすることもあります。

切迫性尿失禁は過活動膀胱という症状の一つです。急に尿をしたくなる症状を、「尿意切迫感」というのですが、この尿意切迫感が主な症状で、そこに昼間の尿回数が多くなる昼間頻尿と、夜間1回以上起きて排尿する夜間頻尿が加わるのが過活動膀胱になります。過活動膀胱の場合、尿失禁があってもなくても尿意切迫感、昼間頻尿、夜間頻尿だけで過活動膀胱と診断されます。尿失禁がない過活動膀胱を、英語であるOver active bladderの頭文字をとって OAB dry、尿失禁がある過活動膀胱をOAB wetといいます。

過活動膀胱は新聞の広告や、テレビCMでやっているのをみたことがあるかもしれません。「過活動膀胱は治るのですか」と時々患者さんにきかれます。私は「若返りの薬が発明されれば治るかもしれません」とお答えしています。だいたい、患者さんは笑ってくれます。過活動膀胱の原因として、脳梗塞やパーキンソン病などの病気が関係している「神経性」であることもありますが、ほとんどは加齢や女性の場合は膀胱や子宮、直腸を支える骨盤底筋という筋肉が弱くなること、なぜなったか原因がはっきりしない「特発性」などの「非神経性」になります。

1人の人で腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁を両方持っている場合があります。それを混合性尿失禁と言います。人によって、切迫性尿失禁がほとんどだけど軽い腹圧性尿失禁がある方や、両方ともそれなりにある方もいます。

治療についてはそれぞれ第二部でご紹介しますが、治療をするためには診断が一番大事になります。どちらの尿失禁が、どのようにひどいのかがわからないと、治療をしてもうまく症状が治らないことがあります。

ひどい場合には、効果がないお薬をずっと飲み続けている場合があります。

また、他の病気が隠れていることもあります。

よくお話を伺って、必要な検査を行って、きちんと診断がついてから、患者さんに治療の選択肢をご説明して治療を選んでいただきます。

 

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