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Vol.093 井戸端長屋で防がれた孤独死

医療ガバナンス学会 (2019年5月24日 06:00)


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森田知宏

2019年5月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

福島県相馬市には、井戸端長屋という東日本大震災で被災した高齢者のために相馬市が造成した公営住宅だ。私は一ヶ月に一度、医師として健康相談を受けるために訪問している。

先日、その井戸端長屋の住民が亡くなった。80代後半の女性で、なくなる1年ほど前から隣人のすすめで週2回のデイサービスに通うようになっていた。外出の頻度が増えて「生活に張りができた」と語っていた。

亡くなった当日までいつもと変わったところはなかったが、夕方に気分が悪くなったため、隣人に助けを求めた。隣人が家族へ連絡をとりながら、救急車で病院へ搬送された。大動脈解離と診断され、そのまま亡くなった。

突然の出来事だったが家族の戸惑いも少なく、混乱は少なかったように思えた。もしこの女性が、長屋ではなく一人暮らしで普通の家に暮らしていた場合、孤独死していただろう。苦しくなっても誰にも助けを呼ぶことができず、そのまま家で亡くなり数日は発見されない、そんな状況が想像される。実際、相馬市の保健師は「この方の環境なら孤独死していた可能性が高い。長屋に住んでいたおかげで孤独死せずに済んだ。」と語る。長屋で暮らしていたことが、彼女の孤独死を防いだ、といえる。

そう考えるのは、災害により避難した住民での孤独死は多いからだ。発生から3年が経った熊本地震では、1万6000人以上が仮設住宅・みなし仮設・公営住宅などで暮らしている。孤独死は増加傾向で、これまでに28人が孤独死しているとされる。(日本経済新聞『熊本地震、14日で3年 仮住まい1万6500人』平成31年4月13日)

その後、避難住民が仮設住宅を出て復興住宅へ移動すると孤独死のリスクはさらに高くなる。復興住宅は仮設住宅と違って居住場所が散在するため支援が届きにくいからだ。また災害からの時間が経過することもあり、高齢者の見回りなどの支援への予算が縮小される面もある。実際、東日本大震災の後では、仮設住宅の孤独死は2011年から2018年の8年間で宮城109人、岩手46人の合計155人だった。一方で、復興住宅での孤独死は2013年から2018年の6年間で宮城120人、岩手34人の計154人だった。さらに、2016年から2018年にかけて19人、47人、68人と増加傾向にある。(朝日新聞『復興住宅での孤独死が急増 昨年68人、入居後に孤立か』平成31年3月11日)このように災害後の孤独死対策は長期にわたる支援が重要となる。

一方で、孤独死は、災害と関係なく高齢社会では問題となる。東京都監察医務院は、東京都での孤独死件数を1987年から集計されている。そのデータによると、1987年には男性788人、女性335人の孤独死が報告されていたが、2017年には男性4887人、女性2594人へ、30年で6.6倍へと増加している。高齢化、核家族化がすすみ、高齢者がいる世帯のうち四分の一以上は高齢者の独居世帯であり、半数以上は高齢者のみの世帯である。(『国民生活基礎調査』)

孤独死は海外でも問題となっている。日本と同様に高齢化が進行する中国では、孤独死した80歳男性の子供5人が検察によって起訴され、長男には実刑判決がくだされた。中国では、日本の介護保険のような高齢者の福祉政策が整備されておらず、家族に高齢者の扶養責任を押し付けていると批判されている。というのも、高齢者権益保障法という1996年に制定された法律が2012年に改定され、家族の責任が強化されたからだ。その結果、高齢者が「扶養される権利」を侵害された場合、家族を相手に訴訟を起こすことが可能となった。扶養関連の訴訟数は増加傾向にあり、ある地域では民事案件の1割以上を占めるそうだ。

高齢社会ではどの国も孤独死対策に苦慮する。中国のように家族間の関係に押し付けることは現実的ではない。長屋のような、高齢者向け集合住宅は、孤独死対策の一つとなるだろう。

※本稿は、プライバシーに配慮して個人情報を一部変更しております。

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