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Vol.129 チェコで学ぶ医学生が危惧する、日本の医学界が「鎖国」へ向かう未来

医療ガバナンス学会 (2019年7月26日 06:00)


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チェコ共和国・国立パラツキー大学医学部生
坂本遙

2019年7月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私はチェコの国立大学の英語コースに通う医学生です。7月19日に中医協ニュースが掲載した*『海外の医学部卒で医師になるルート、「議論をしていく必要」と厚労省の佐々木課長』という記事を読みました。私はまさに今回指摘された当事者になりますが、日本の医学界が海外医学部卒の医師を拒む方向に進もうとする事に反対です。

会議では、医師の偏在に関して主に語られていました。「地域枠や都道府県別の募集定員の上限の設置、臨床研修制度、新専門医制度を通じて、医師の数と配置をコントロールしようとしている。それらのコントロールの外にいる海外医学部出身者の中には日本人が増えて来ているので、定員の上限を設けるなどの議論を進める必要があるのではないか」という内容だと私は理解しています。そして私は、二つの疑問と一つの懸念を抱きました。

疑問の一つ目は、どのように定員の上限を決めるのかということです。なぜならば、海外医学部出身者が日本の医師国家試験(以下、国試)を受けるまでの過程は複雑だからです。
海外医学部出身者はまず書類審査を受け、本試験認定見込みか予備試験認定、もしくは両方認めない、に振り分けられます。本試験認定見込みになった場合は日本語診療能力調査を受け、合格すると国試を受ける資格を得ます。予備試験認定になった場合は、試験と1年間の実地修練が課されることになり、国試を受けられるまでのハードルが上がります。
具体的な例として、**平成29年度は日本語診療能力調査を147人が受け、97人が合格しています。日本人の内訳は受験者が47名、合格者が38名です。97人のうち90人が国試を受け、そのうち日本人は35人、合格者40人のうち日本人は14人です。全体の合格率は44%、日本人に限ると40%となり、合格率は低いのが現状です。
このような状況の中、定員を設けることは可能なのでしょうか。私は、本試験認定の審査は定員制ではなく、一定のレベルを超えている人を認定する仕組みであるべきだと考えています。
認定数の数を減らす方法は、書類審査と日本語診療能力調査の基準を上げる事が考えられますが、実現は困難な気がします。認定基準は既に本試験・予備試験共に、医学校の専門教育の時間数も含め定められています。厳しくするとしても、これらの基準は日本の医大に沿ったものである必要があると思います。また、日本語診療能力調査は日本の医学生に課されているものと同程度にされるべきです。

疑問の二つ目は、医師不足なのになぜ海外医学部出身者を活用しないのかということです。日本国内に医学部を増やせば、医師育成にかかる費用や人材の負担が少なからずありますが、海外医学部出身者を受け入れればその負担は浮きます。進級基準が厳しい大学生活を乗り越え、先述した調査を受け日本の国試に合格した、一定のレベルを満たした医師を自国の負担なく得ることが出来ます。
厚生省は医師不足ではなく医師の偏在が問題で、医師の過剰供給はやめるべきだと考えているようですが、果たしてそれは正しいでしょうか。今の医師不足が起きている状況は、医師が過剰になると厚生省が医学生の定員を減らしたことで引き起こされた事です。また、高齢化が進み日本の人口が減り医師が過剰になるとも言われていますが、女医の割合が増えてきている事も考慮するべきです。今のままの制度では子どもが欲しい女性が専門医を取得するのは難しく出産を機に働くのを辞める人や、当直やオンコールの少ない診療科を選ぶ事による診療科毎の人数の偏りは増していくと考えられます。子育て世代は都市部に住むのを好むことも考慮すると、それを補う為にも医師の数は増やすべきだと思います。

そして私が抱いた懸念は、人材の流出が起きないか、ということです。もし定員を設けたり、海外医学部出身者が日本で医師免許を持てる可能性を低くした場合、何が起るでしょうか。日本で働くことを視野に入れていた人が受け入れられない可能性を知ることで、海外医学部を選択する日本人の数は今より少なくはなるでしょう。その代わり、海外の医学部を選び、将来そのまま海外で働くことを希望する人の割合は増えると思います。日本は海外で異文化に囲まれながら医学を学んだ、既存の医学生とは異なる価値観や経験を持つ人材を失う事になります。また、日本は新専門医制度などで医師の動きをコントロールしようとしていますが、窮屈さを感じる優秀な人材が海外で学び働くことを選択したら、日本の医学界が損をすることになるのでないでしょうか。

また、閉じた社会を作るのは世界の動きと逆の方向を歩む事になります。欧州内では人の流れが寛容なので、より良い生活や労働環境を求めて医師の移動が起きています。例えば私が学ぶチェコでは、卒業生のうち3割程が主にドイツに医師として働く為に移住しています。チェコにはウクライナやロシアから医師が流入したり、ドイツ人の医師はスイスに移ったりしています。私は今年の夏、一ヶ月間ブラジルで病院実習をしたのですが、ブラジルでもより良い環境を求めて、医師が欧州に出て行っていることを知りました。このような人の流れを受けて、国として医師があまり流出しないように労働環境を改善しようと試みているところもあり、一種の競争社会が発生しています。
日本の医学界が多様性を受け入れないことで発展もせず、競争も起きないことで状況の改善の機会も得ないままになるのは残念なことです。

最後になりますが、自分が日本で働きたいから必死に反対しているのでは、とおっしゃる方もいるかもしれません。ですが、私は卒業後にヨーロッパで使える医師免許を得る事になるので、海外で働くこともできます。日本で働くのも選択肢の一つではありますが、日本が私を受け入れてくれないのであれば、海外で働くことを選択します。

医師の数が増える、コントロールができない・・・などと言われていますが、海外医学部出身者の受け入れを規制するデメリットは大きいと私は考えます。ですので、冒頭で述べたように、私は日本の医学界が海外の医学部卒の医師を拒む方向に進もうとすることに反対です。

* http://chuikyo.news/20190718-kaigai/
** https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000480261.pdf
1995年アルゼンチン生まれ、東京育ち。
2014年聖心女子学院高等科卒業。
2015年よりチェコ国立パラツキー大学医学部に在学中。

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