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Vol.153 ブルガリア共和国・ヴァルナ医科大学を選んだ理由

医療ガバナンス学会 (2019年9月4日 06:00)


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ヴァルナ医科大学医学部3年
菊地祐介

2019年9月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は、福島県南相馬市出身で以前は国家資格である柔道整復師を取得後に整形外科で働いていた。一度は諦めた医学部留学に、大震災を機にもう一度チャレンジしようと思い、日本を飛び出した。現在は、ブルガリアのヴァルナ医科大学医学部の英語コースで医学を学んでいる。ブルガリアはバルカン半島に位置し、南はギリシャ、南東はトルコ、北はルーマニア、北西はセルビア、南西はマケドニアに接する。2007年からEUに加盟している。くしゃみをした時は、「ナズドラーヴェ(乾杯)」と言われ、ヘアカットした後には、「チェスティート(おめでとう)」と言ってくれる、面白い習慣のあるブルガリア。よく周りからは「なぜブルガリアを選んだの?」と聞かれることが多い。その点を詳しく述べたいと思う。

東欧の医学部が、最近になって脚光を浴びるようになってきた。2018年に発覚した女性や浪人生を不利に扱っていた医学部不正入試問題が、東欧の医学部人気にさらに拍車をかけた。東欧の医学部で断トツに人気があるのがハンガリーである。現在、500人以上の日本人の医学部留学生がいるそうだ。次に人気のある国がチェコやスロバキアである。この3カ国に共通して言えることは、日本に医学部留学を斡旋する会社があるという事である。確かに、入学にかかる諸手続きを英語もしくは、それぞれの母国語でやらなくてはならないのは、非常に面倒な作業である。また、入学後の現地での生活もサポートしてくれる事もあって、これらの国々への日本人の医学部留学希望者が増えてきた要因だと考えられる。

それにもかかわらず、なぜ私がブルガリアのヴァルナ医科大学を選んだのか。それには、主に3つの理由がある。

一つ目は、「留年しにくい仕組みになっていること」である。だからと言って、決して試験が易しいというわけではない。海外の医学部は、比較的入学しやすと言われているが、進級が厳しく、また留年しやすいとも言われている。ヴァルナ医科大学の場合、1科目につき3回まで試験(本試験、追試、再追試)を受けられる。7月の追試までに試験をパス出来なかった場合、9月の上旬から始まる再追試をパスしなくてはならない。それでもパス出来なかった場合、通常だと留年という形になる。しかし、ヴァルナ医科大学の場合は、次年度の期末試験や救済試験期間まで持ち越すという形で進級することが出来るが、そうなった場合は受験料を支払わなければない。

しかし、現実的に考えると、次年度まで持ち越すということは、新たな科目が増えることも考慮すると、賢明なことではなく、余計な勉強時間の確保もしなくてはならず、夏休みもその分短くなってしまうので、7月の追試までに全ての試験をパス出来る事が望ましい。私自身、1年時の組織学を9月の再追試まで引き延ばしてしまったことがあり、その時は「これで駄目でも留年にはならない」と、自分の気持ちを落ち着かせながら再追試に望み、何とか次年度まで持ち越すことなく進級ができた。「これで駄目だったら即留年」というプレッシャーがないのは、精神的な負担を軽減できるので、この大学の大きなメリットだと思う。このシステムが自分には一番合っていると思っている。

また、レクチャーの出席は個人的に重要であると思っている。レクチャーは基本的に出席の義務はないのだか、最終評価に影響を及ばすことがよくある。ほとんどの科目の最終評価は教授との口頭試問で決まる。中間試験がある時や期末試験直前期は、出席人数が極端に減り、私一人でレクチャーを受けることが何度かあった。先生によっては私一人でもレクチャーをしてくれたり、親日で日本語も話せる解剖学のトンチェフ教授は、大学近くのレストランで私のタブレットを使いながら個別にレクチャーをしてくださり、お昼までご馳走してくれた事があった。レクチャーは、教授との良好な関係を築く絶好の機会であるとともに、口頭試問でのアドバンテージになる。

二つ目は、「学費や生活費が比較的安く済むこと」である。私が検討したハンガリーのセゲド大学、チェコのマサリク大学を比較すると、下記のようになる。東欧の医学部の中でも、ブルガリアの医学部の学費は安い。

授業料 (日本円)
セケド大学  $16,500 *1   (1,815,000円)
マサリク大学  CZK 280,000 *2  (1,400,000円)
ヴァルナ医科大学 EUR  8,000 *3  (1,000,000円)

1$=110円 CZK 1=5円 EUR 1=125円
*1 ハンガリー医科大学事務局
*2 チェコ医科大学事務局
*3 Medical University – Varna

物価も日本と比べると安く、例えばヨーグルトが400gで約60円、パスタ500g
で約120円、お昼は学食をいつも利用しており、私の場合は,パン、サラダとスープのセットを学割で約100円で食べている。よく食べるブルガリアのお米は、1kgで約150円である。また、私は現地にある大学公認のエージェントを利用して入学した。大学入学前の書類等のサポートから入学後の3ヶ月の生活のサポートだけではあるが、日本のエージェントを利用する場合に比べて6分の1ほどの費用でおさめることが出来た。もちろん、大学に直接出願することも出来るので、さらに費用を抑えることも可能である。

三つ目は、「生活環境」である。大学が位置するブルガリア共和国・ヴァルナ市は黒海に面しており、福島県浜通りに位置する私の故郷と似たような場所だと思ったからだ。6年間の医学部留学を考えた時、生活環境というものは非常に大事になってくる。どのような食文化なのか、日本食は現地でも手に入るのか。異国の地で生活するということは、相当のストレスが心身にかかる。カルチャーショックももちろんある。そこでお勧めしたいのが、留学前に現地に実際に足を運んだり、大学主催のオープンキャンパスに参加することだ。実際に留学してから、こんなはずではと、思うことが多々ある。実際に入学してから、数ヶ月のうちに辞めていった学生を何度もみている。

また、ルームシェアも強くお勧めしたい。私は、同じ大学の歯学部のロシアとブルガリアのハーフの学生とルームシェアをしている。私がルームシェアにしたのは、金銭面というより精神面を考慮しての選択だ。日本人の後輩で、初めての一人暮らしが、いきなり海外ということで、深刻なホームシックにかかってしまった。自分もルームメイトには、急な高熱を出した時やブルガリア語の書類で困った時など何度も助けられた経験がある。あまり積極的に会話をするわけではないが、近くに居てくれるだけで、大きな精神的な支えになってくれている。

そして、日本人が一番気にするであろう治安であるが、夜中にビーチを散歩も出来るほど安全である。以前、長財布を見えるようにズボンのポケットに入れて道を歩いていたら、見知らぬおばちゃんに、「危ないからバックに入れなさい!」と、注意されたことがあった。また、大学の図書館でよく「iPhoneのコンセントを貸して」と見知らぬ学生にも頼まれることがある。一度、コンセントを貸したまま自分が席をはずして戻ってきたら、その学生がその間に帰ってしまったことがあり、一瞬「盗まれたかな…」と思った事がある。しかし、自分の席をふと見てみると、コンセントと一緒に、私のメモ帳に「Thank you !!」と大きく書かれていて、思わず笑ってしまった。

親日の先生が多く、親切で優しい学生が多い大学。このような理由から、私はブルガリアのヴァルナ医科大学を選択した。この文章を通して、医学部留学のこと、ブルガリアのこと、そして私が住んでいるヴァルナのことをもっと知ってもらえるように、今後も情報を発信していこうと思う。

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