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Vol.155 夏にもインフルエンザの再流行!? 医師が伝える3つの理由

医療ガバナンス学会 (2019年9月6日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(5月8日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019050300024.html

ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本佳奈

2019年9月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

平成が終わり、令和という新たな時代が幕をあけましたね。10連休となった今年のゴールデンウイークも終わり、新たな気持ちで仕事に復帰している方も多いのではないでしょうか。

4月中旬、熱はなく、嘔吐(おうと)症状のみで受診した方がいました。インフルエンザも、ほぼ見られなくなっていた頃でした。胃腸炎だろうと思っていたのですが、診察中も嘔気がひどかったため横になっていただくことに。看護師さんのすすめもあり、念のためインフルエンザ検査をしたところ、なんと「インフルエンザB型」だったのです。B型インフルエンザの場合、嘔吐や下痢がみられることもありますが、嘔吐の症状のみでインフルエンザを認めたことに、私は驚きを隠せませんでした。

このケースを経験した前後から、インフルエンザと診断する方が増えてきていました。高熱の方もいれば、花粉症の症状がまた再発したのかと思って受診したらインフルエンザだった、という方もいました。「検査をしましょう」というと、「インフルエンザはまだはやっているのですか」という方も多かったのですが、インフルエンザであるという検査結果が出た時の患者さんの驚きようは忘れられません。私も、去年とは違う流行の仕方を肌で感じていました。

そんな矢先、インフルエンザが東日本を中心に再流行しているというニュースが飛び込んできました。「いまになってなぜ流行しているの?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

厚生労働省は4月26日、発生動向を把握するために定点医療機関として指定されている全国約5,000か所の医療機関から報告された1医療機関あたりのインフルエンザの報告数が、4月15日から21日までの1週間で2.54人であったと発表しました。4月1日から7日の週には1.46人まで減少していたものの、8日から14日の週には1.67人と、2週連続で増加を認めていたことがわかったのです。

インフルエンザ患者数は、約 9.6 万人と定点医療機関からの報告をもとに推計されています。ちなみに前週の推計値は約 6.5 万人であり、東京や京都といった都市部をはじめ、39もの都道府県で患者数は増加。保育所や幼稚園、小学校や中学校、高等学校において休校、学年閉鎖や学級閉鎖をした施設は301施設に上り、昨年の155施設と比べても、流行していることがうかがえます。

こうしたインフルエンザの流行の報道を受けてなのでしょうか。大型連休中に体調を崩してクリニックに受診された方で、「自分はインフルエンザなのではないだろうか」と心配されている方は少なくありませんでした。迅速検査の結果、なんと多い日には10名弱の方がインフルエンザと診断されるはやりようでした。

インフルエンザの典型的な症状は、咽頭痛や鼻汁、咳といった上気道の炎症による症状の他に、38度以上の高熱や頭痛、関節痛、筋肉痛、倦怠(けんたい)感などの全身の症状です。B型インフルエンザの場合、嘔吐や下痢といった消化器症状が見られることや、急激ではなく緩やかに体調が悪くなる傾向にあるのが特徴です。

また、インフルエンザの流行には季節性があります。日本では、毎年12月ごろからA型が流行し、年明けから3月にかけてB型インフルエンザが流行します。しかし、4月に入ってインフルエンザの再流行の兆しをみせている今年は例年通りの流行ではないようです。

国立感染症研究所の報告によると、3月18日から4月21日の5週間における国内のインフルエンザウイルスの検出状況は 「AH3 亜型」(61%)、 「B 型」(20%)、「AH1pdm09」(19%)の順でした。現状として、2種類のA型とB型のインフルエンザが流行しているため、すでにA型インフルエンザになったという方も、A型に2回かかってしまうケースやさらに、B型インフルエンザにもかかるという可能性だってありうるのです。では、どうして再流行してきたのでしょうか。

一つ目の理由として、インフルエンザワクチンの効果が切れてきたことが挙げられます。インフルエンザワクチンは、不活化ワクチンであり、病原体となるウイルスの感染能力を失わせたものが原材料となります。そのため、ワクチンを接種して得られた免疫は時間とともに弱まり、接種した2週間後から5カ月程度しか効果は期待できません。多くの方が、10月末から11月にかけて接種しているため、4月ごろには効果が切れてしまっている可能性があるのです。ちなみに、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、2017年から2018年における季節性インフルエンザの流行期のワクチンの効果は36%と推定されたと018年2月16日に報告しています。

二つ目の理由として、寒暖差の大きかったことや環境の変化もあげられるでしょう。今年の4月は、朝晩の寒暖差が激しい日もあれば、冬のような寒さが続くかと思ったら、ポカポカ陽気になったりと、体温調節も服の調整も難しく、こうした気温の変化についていけず、体調を崩した方も多かったのではないでしょうか。また、4月から職場が変わった、転職をした、引っ越しをした、など環境の変化があった方はそろそろ疲労がたまってくる頃であり、体の抵抗力も低下しがちだと思われます。

三つ目の理由として、スギ花粉の飛散量が多かったことも挙げられます。2018年の韓国のソウル大学病院のJeon医師らは、アレルギー性鼻炎をもつ人の粘膜はA型のインフルエンザウイルスが感染しやすいことを報告しています。アレルギー物質によって炎症がおきてダメージを受けている鼻の粘膜からインフルエンザウイルスが感染しやすくなっている可能があるというのです。

つまり、寒暖差や環境の変化により体調を崩しやすかった4月は、インフルエンザワクチンの効果がちょうど切れてきた頃であり、花粉によって鼻の粘膜が炎症を起こしインフルエンザウイルスが感染しやすい状態だったと言えるのです。

再流行に拍車をかける可能性があるのが、今回の大型連休でした。海外に行く人もいれば、海外から日本にやってくる人もいます。多くの人が日本国内各地へ移動することから、インフルエンザウイルスが容易に広まりやすい状況だと言えるのです。

インフルエンザは、再流行がさらに拡大して行く可能性も十分にあります。インフルエンザウイルスは、乾燥していて寒い気候を好むだけでなく、湿度が高くて雨が多い気候も好むことがわかっているからです。このまま流行が続いて梅雨入りしてしまったら、夏にもインフルエンザが流行している、なんてことがあるかもしれません。

大型連休も終わり、さあ仕事に復帰しようと思った直後、体調を崩してしまったという方は、無理をせず早めに医療機関に相談してみてくださいね。

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