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Vol.220 「あなたのクスリ、本当に必要ですか?」~ポリファーマシー問題について患者さんに知っておいてもらいたいこと~

医療ガバナンス学会 (2019年12月24日 06:00)


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三豊総合病院
藤川達也

2019年12月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「先生、私もいくつかの科を通院していますし薬もたくさんに増えてきましたよ。でもこんなにたくさんの薬、ずっと必要なのでしょうか?」
これはある日の診察室、かかりつけの内科医である私が70代の男性患者さんから尋ねられた質問である。そこで主治医である私はこう答えた。
「では内科から処方されている薬のうちいくつかをお休みする方向で考えましょうか。」
すると患者は一瞬意外なことを言われたような表情を見せて言葉を続ける。
「しかし長年服用してきた薬をやめてどこか体調が悪くなるのも不安ですし。。。」
長年続けてきた服用習慣を変えることでせっかく今体調が落ちついているのにどこか悪化しやしないか、と考えるのはごく自然なことであろう。最終的に患者さんと相談の結果、過去に開始となっていた胃薬と降圧剤をお休みすることにした。胃薬は抗血小板剤(いわゆる血をさらさらにする薬)と一緒に予防的に投与されていたものである。この患者に胃や十二指腸の疾患が特になかったこと、定期的に胃カメラなどを受けていることから中止は可能と判断した。また降圧剤は最近やや血圧が低めなこともあることなどから複数ある降圧剤のうちの一つは中止可能と判断した。

薬を開始する、中止するのはあくまでも主治医の判断でありその裁量権、そして責任を有する。個々の患者に応じて様々な基礎疾患を考えて「総合的に」判断する訳であるがそれでも最近は海外で不必要な薬を定める基準がまとまり(STOOP/STARTクライテリア)日本の学会でも主に高齢者を対象に慎重に投与すべき薬のリストをまとめるなどの動きがみられている。医師達の間でも薬が多すぎる(時に必要な薬が使われていない)などという意識が以前より浸透してきている。

●ポリファーマシーとは
ここでポリファーマシーという言葉を聞いたことがあるだろうか?最近メディアでも時に耳にするこの言葉であるが、「多剤処方」つまり医療機関から多数の薬剤を処方されることである。厳密に何剤以上が必ずポリファーマシーと言える訳ではないが、概ね5-6剤以上の処方薬があればポリファーマシーと言える。
では5-6剤以上の薬が処方されていればそれは全て良くないことであろうか?私も糖尿病を中心とした生活習慣病の外来を担当しているが、冒頭で紹介した患者のように5-6種類以上の薬を処方していることも多々ある。特に年齢が高齢となってくると多数の疾患を有するし、また糖尿病が進行して発症した合併症に対してまた処方薬が追加される。
問題なのは必要のない薬やさらには使ってはならない薬が含まれている場合である。使ってはならない薬が処方されることは多くないことを信じたいが、必要のない薬が処方されるケースは多々あると思われる。
なぜ起きる、ポリファーマシー
ではポリファーマシーはなぜ起きるのだろうか。その原因として考えられることとして長年、多数の疾患に対して薬が増える一方で減らされることがなかった、ある薬による副作用に対して(その副作用による症状を薬によるものと認識されずに)別の薬が処方される、複数の医療機関から同じ系統の薬が処方される、などが考えられる。
病院の薬は全て医師から処方されるものであり我々医師は自らが処方する薬が患者さんの不利益となっていないかその都度考えなければならない。ただ同時に患者側も自らの身体のことであり医師に一任するのではなく医師とともに考え、医師を「ガイド役」として上手く利用していただきたい。
多くの疾患を抱えていればどうしても不調が多くなるのは理解できるが、ちょっと医師に伝えておきたい症状にも薬が処方されることはあるので、そこまでの症状でなければ「投薬は不要である」と明確に述べること。なかなか訴えにくいこともあるが、新たに生じた症状を新しく始まった薬の影響でないかと考えてみること。日頃から薬局との連携も密にして自分の使っている薬に関心を持つこと。などに注意していただきたい。

●ポリファーマシーを避けるために心掛けたいこと
ちなみにポリファーマシーとはある意味ネガティブなワードであるため主治医に対し単刀直入に「私の薬はポリファーマシーになっているのでは?」などとは聞かないほうがよい。聞かれることで気分を害する主治医もいるだろう。しかし薬剤数が多いと感じる人には一度主治医としっかり相談することをお勧めする。医師との会話の中で、「薬の数ができるだけ少ない方がありがたい、減らせられるものは減らしてほしい」と一度は伝えておくほうが良いだろう。

●薬の調節で「名医」に
最後にある入院患者の例を示す。他院から食欲不振のために紹介入院となってきた80代の高齢患者であるが手持ちの薬は13種類に及んだ。ここ数日ほとんど食事を摂ることができなかったが「真面目に」全ての薬を服用していた。「ほどんど食事は口を通らなかったけど薬だけは飲まないといけないと思い少量の食事とともに全ての薬は飲んでいたのです。」と言う。薬だけは飲んでいたのです、というセリフに少々力が込められていた。
多数の薬剤の中には今の虚弱状態には不要と思われる降圧薬、さらには食事摂取不良な時には不要と思われる糖尿病の薬、利尿薬などが含まれる。もちろん状態に応じて前医や薬剤師からは説明がなされていると思われるが高齢者であれば十分記憶できていないケースもあるだろう。過去の検査歴などを考慮して入院後に行ったことと言えば数日間の点滴、食べやすい食事の提供、そして現時点で不要な薬剤の中止である。そして患者は見違えるように元気になり4剤の薬剤とともに感謝の言葉を述べられ自宅へ退院となった。
もちろん必要な薬は続けなければならない、そしてその中止、休薬の判断は患者独自にはするべきではない。ただし薬は良いことばかりではなく「クスリはりすく」にもなりうるため日々の診療で主治医としっかり相談できる患者―主治医間の良好な関係を築いてほしい。
(プライバシー保護のため実例を一部改編しています)

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