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Vol.009 中国がアフリカで成功する理由~遣唐使の時代から続く人材育成~

医療ガバナンス学会 (2020年1月16日 06:00)


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秋田大学医学部医学科5年
宮地貴士

2020年1月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

前回の寄稿( http://medg.jp/mt/?p=9372 )では、中国のアフリカ進出を支えるハングリー精神と現地における中国人ネットワーク、さらには大国の利害について書いた。今回は、中国による投資を草の根から支えている現地人材について書きたいと思う。

「先進国である中国で世界最先端の医療を学べたのは素晴らしい経験だった」。中国医薬大学(China Medical University)を卒業し、ザンビアの地方病院に勤めるルビンダ医師は言う。「中国語で、卢 宾达。中国人の友達がつけてくれたよ」。

彼は、中国でエンジニアとして働く従妹から世界最先端を行く中国のテクノロジーや教育環境を幼いころから聞いていた。従妹は中国政府がザンビアの高等教育省を通じて提供する奨学金を得て、大学から中国に留学した。

ルビンダ医師の両親は会計士だった。医師になることは両親から勧められたようだ。「中国で医学を学びたい」そう決意したのは、高校2年生の時だ。従妹から、中国政府による奨学金はザンビア国内の新聞に案内が出ると聞いていた。高校3年生の1月、Zambia Daily Mailにて従妹と同じ奨学金プログラムを発見、応募した。一次審査は書類だった。応募動機や将来の夢について英語で書いた。二次審査は面接だった。ザンビアと中国からの担当者合計10人の面接官と合計1時間。「なぜ中国で学びたいのか」。「将来はどんな医師になりたいのか」。終始和やかに行われたようだ。

5月ころ、合格通知と共に、進学可能な大学リストを受理したという。その中から医学を学ぶことができる中国医薬大学を選択した。9月からは中国に渡り、1年間、中国語の勉強をした。「医学部での授業は英語だった。中国人学生もいたけど、アフリカからの学生がかなりいた」。

中国ではアパートに一人暮らしだったようだ。授業料や教科書代、家賃や食事代は全て中国政府が支払ってくれたという。充実した6年はあっという間に過ぎた。

大学を卒業してすぐにザンビアに来た。医師としてザンビアで働くことが奨学金の唯一の条件だった。「国家試験では中国ではあまり勉強しなかった熱帯の感染症が大変だった」。ザンビアの医師免許取得後は、ザンビア大学医学部付属病院で1年半の初期研修を行った。

現在は、後期研修医2年目ながら100床規模の公立病院の責任者を務めている。「中国とは違いザンビアでは産婦人科のニーズが高い。もっと研鑽を積み、妊婦が安全なお産をできるようにしたい」。

中国はルビンダ医師のように優秀な人材の確保に国を挙げて取り組んでいる。2019年11月に開かれた中国ザンビア友好55年式典の中で駐ザンビア中国大使から驚きの発表があった。現在中国の大学機関に留学しているザンビア人は4,000人にも上るというのだ。また、留学開始を待っている人は1,014人もいる。日本が受け入れているアフリカからの留学生合計が2,380人(2018年5月1日現在、日本学生支援機構2019)。ややデータが古くなってしまうが、2015年時点でザンビア人はたったの21人だった。(日本学生支援機構2015)

中国とアフリカというと膨大なカネの流れに目が行ってしまう。実際に、2018年に行われた「中国・アフリカ協力フォーラム」で習近平国家主席はアフリカ諸国に対して今後3年間に渡り600億ドル規模の経済支援を表明した。TICADで安倍首相が目標とした「3年で200億ドル」の実に3倍である。

中国からザンビアに対する昨年度の直接投資は3億2千7百万ドル。対する日本からの直接投資は4千4百万1千ドル程度だった。2018年度の日本からザンビアへのODAである3千4百万ドル程度を加えても、中国からザンビアに対するカネの流れの足元にも及ばない。

日本からのカネの流れを阻んでいる原因の一つは、ザンビアが債務超過に陥るリスクだ。2018年4月現在、同国の対外債務はGDPの4割近くに相当する100.5億ドル(≒1兆1300億円)。2017年国際通貨基金(IMF)による債務持続可能性分析(DSA)によって債務超過に陥るリスクが「ハイレベル」と指摘された。

これが足かせとなりOECDに加盟している国々はザンビアへの有償資金協力に及び腰になっている。一方の中国やインドといった非加盟国は違う。西側諸国が低迷している間にたくさんの触手を伸ばしてるのだ。

ではなぜ彼らは債務超過に陥るリスクがある国にこれだけの投資ができるのだろうか。単に膨大なカネだけに注目するのはミスリーディングだ。

私は、現地の優秀な人材を抱えているからだと考えている。現地の事情に精通し、こちらの文化にも適応した人材は貴重だ。ビジネスを行う上で最も大切な相手のニーズをつかむことができる。

ザンビアの女性はおしゃれだ。「サロン」と呼ばれる美容室によく行く。彼女たちは日本人がパーマに憧れるようにストレートヘアに憧れている。そして、そのストレートの付け毛が「メイドインチャイナ」なのだ。こんな稀有なマーケットを開拓するには、現地の事情に詳しい人を仲間に入れておかないと不可能だ。

ルビンダ医師は産婦人科の専門を中国で取得することを考えているようだ。「自分は中国語を話せるし、中国人の患者を診ることもできる。専門取得後はザンビアにいる中国人にも医療を提供できるようにしたい」。

中国は遣唐使・遣隋使の時代から各国の優秀な人材を招き入れてきた。各国がどのような状態か、膨大な量の情報を入手し、中華の哲学を共有してきた。

日本のメディアはしばしば中国とアフリカの関係性をネガティブに報道する。8月28日~8月30日にかけて行われたアフリカ開発会議(TICAD7)の期間中は、中国によるアフリカ進出を「過剰な投資による債務のワナ」「過酷な労働環境による人権侵害」「インフラの質の悪さ」といった点から取り上げていた。

中国に対抗するようにTICAD中に行われた安倍首相による演説では「債務のワナによる財政事情の悪い国に債務管理の専門家を派遣すること」「アフリカの産業振興に向け3,000人の人材を育成すること」などが表明された。また、会議中に繰り返されたのは「日本は量よりも質」という聞き飽きた発言だった。

中国はものすごい勢いで成長している。2010年の1人当たりGDPは日本の10分の1程度だったが、2018年には4分の1まで上昇した。このままいけば、2040年頃には日本と同レベルになると推測されている。中国の人口は日本の10倍以上だ。

なぜ隣国がこれだけ成長を続けているのか。そして、アフリカにおいてこれだけ事業を拡大できているのか。単に負の側面だけを見るのではなく、日本の先人たちがそうだったように、冷静に分析し謙虚に学ぶ必要がある。

http://www.daily-mail.co.zm/china-toasts-55-years-of-friendship-with-zambia/

http://www.daily-mail.co.zm/japans-invest-in-zambia-tops-44-1-million/

https://www.jica.go.jp/zambia/ku57pq0000046g2k-att/zambia.pdf

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