医療ガバナンス学会 (2020年6月11日 06:00)
金子あつし
2020年6月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
「兄弟姉妹の日」はもともと、幼い頃に亡くなった姉と兄の記憶を称えようとクラウディア・エヴァートさんが考案したもの(日にちは、クラウディアさんのきょうだいの誕生日にちなむ)。全米のほとんどの州が、「兄弟姉妹の日」を祝日と定めている。米国では、一緒に写真を撮ってSNSに投稿したり贈り物をしあったり、きょうだいがお互いの存在を称え合う日として定着している。今年の「兄弟姉妹の日」には、歌手のテイラー・スイフトさんが弟オースティンさんとのツーショット写真を公開し、大きな話題になった。
日本では、特に病気や障害を持った人の「きょうだい」に思いをはせてほしいとの趣旨に共感した200人以上が制定発起人となり、2019年に「きょうだいの日」が制定された。
そんな「きょうだい」は、どんな気持ちを抱えて生きているのだろうか。
まず、「きょうだい児」であることが子どもに及ぼす影響は大きい。「子どもだから」ときょうだいの病状や世話の仕方について詳しく説明してもらえないことがある一方、周囲からはきょうだいの「世話役」として期待されることもある。「きょうだいの世話について、相談する相手がいない」、「いじめられかねないので、(大切な家族であると思っているにもかかわらず)きょうだいの存在を周囲に打ち明けられない」という人もいる。「親にSOSを 、つらい気持ちを発信したにもかかわらず、受け取ってもらえなかった」と感じる人もいる。そうした思いを、おとなになってからも持ち続ける(あるいはふとした瞬間に思い起こされる)という人もいる。
障害のあるきょうだいについて相手に知られ、結婚が破談になる。「親亡き後」にきょうだいの生活や経済面を支えなければならないことに、不安を抱く。成人した「きょうだい」の中には、そうした人たちもいる。
そんな複雑で、そして気軽には話せない思いが話せる「きょうだい会」が、近年各地に生まれている。新型コロナウイルス感染症の影響で物理的に人が集まる場が持てなくなった今も、SNSやWeb会議システムを使って「きょうだい」が集まる場をつくっている会もある。
「きょうだい」自身が、病気や障害を抱えている可能性も
「きょうだい」に関する記事に対し、「どれもきょうだいが障害も病気も抱えていない前提なのはmなぜなのか」と指摘されていた人がいて、ハッとさせられたことがある、遺伝性・家族性の疾患があることを考えれば、病気や障害を抱える「きょうだい」も珍しくないように思える。「きょうだい」であることを明かしているSNSアカウントの中には、自身も障害を抱えているのではないかと思っていることを明かしているものもある。むろん、ほかの家族とは異なる病気。障害を抱える「きょうだい」もいる。
「きょうだい」の中には、「障害のあるきょうだいが差別されているのを間近でみてきたこともあり、病院に足が向かない」という人もいるだろう。しかし、病気・障害は、何よりも「早期発見・早期診断」が大切である。診断されることで、みずからも福祉サービスを利用できるようになる可能性がある。また、みずからの心身の状態を知っている「かかりつけ医」を見つけておくことは、人生の大きなプラスになるだろう。
すでにみずからの障害に気づいて診断を受け、あらたな人生を踏み出した「きょうだい」もいる。みずからの心身に不安を感じたら、むろんそれ以外の方もそうだが、「きょうだい」の方には特に臆することなく病院を受診してほしい。
金子あつし
フリーライター 著書に「きょうだい児」が主人公の児童書『ひかりあれ!~二分の一成人式の前に家族について調べてみた~』、風疹について取り上げたノンフィクション『風疹をめぐる旅~消される「子ども」・「笑われる」国~』がある。