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Vol.164 新規薬剤承認を担う薬事・食品審議会委員に対する製薬マネー

医療ガバナンス学会 (2020年8月11日 06:00)


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仙台オープン病院 消化器外科・一般外科
澤野豊明

2020年8月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は外科診療の傍、製薬会社から医師等に流れる金銭的な取引が診療に及ぼす影響について研究している医師です。先日2020年5月、我々のチームから薬事審議会の委員への製薬企業からの支払いに関する研究論文を新たに発表しました。本稿ではその詳細について解説したいと思います。
発表した論文の主たる概要は以下です。

・各製薬企業が公表するデータに基づき、薬事・食品衛生審議会のうち、医薬品の承認に関わる医薬品第一部会、医薬品第二部会、再生医療等製品・生物由来技術部会、薬事分科会、薬事・食品衛生審議会総会の2017・2018年度の委員に対して、各社から2016年度に提供された謝礼等の金額(C項目支払い)を個人単位で解析
・108名の薬事審議会委員のうち51名(47%)が謝金等を受け取り、総額は1億1,576万円
・1委員あたりの受取金額の平均値は107万円だったが、30%にあたる32名が合計50万円以上授受
・500万円以上受け取っている委員は8名(7%)で、全員が大学に所属する教授
・8530申告におよぶ寄附金・契約金等の自己申告を解析したところ、少なくとも409(4.8%)の申告が過小に申告され、そのうち112(27.4%)の申告では、医薬品承認の議決権に制限が生じる1企業からの50万円以上の申告を過小に自己申告されており、定められたルールに反して委員が医薬品承認の議決権を得ていた可能性がある
・本研究結果は2020年5月18日にClinical Pharmacology & Therapeutics誌に原著論文として掲載された

以下に今回の研究についての詳細を書きたいと思います。

医学領域では、製薬企業との金銭的利益相反(COI)が医師や研究者の意思決定に影響を与え、薬の処方の偏りや不適切な使用によって、患者や公的医療制度に悪影響を及ぼす可能性があります。そう言った影響を最小限にするため、利益相反には透明性が求められます。しかし、これまでの研究では、製薬会社が大学教授や診療ガイドラインの執筆者など影響力の強い専門家に資金提供を行うことが慣例となっています。製薬企業は、自社の製品の利益の最大化につながることを期待しこのような行為が慣例化していると考えられています。

日本を始め、多くの国では政府の諮問機関によって医薬品は市場に出回るための承認を得ます。その諮問機関の代表例が米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)です。これらの規制当局の関係者は、その役割や立場が公益性から、製薬企業からの影響や不正を避けるために、製薬企業との金銭的な取引を禁止されているのが一般的です。 新薬申請の審査過程においては、規制当局だけでなく、外部の諮問機関からも専門的な見解を得て、その意見が新薬の可否を決定する上で大きな影響を与えることが多いのが実情であり、そういった立場の人物への金銭的な取引も本来はある程度の規制が必要と考えられています。

日本は、米国、中国に次ぐ世界第3位の医薬品市場を有しています。日本での医薬品規制制度は、主に厚生労働省と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が担当し、薬剤承認業務の一部を厚生労働省が管轄する薬事・食品衛生審議会という外部の公的な諮問委員に委託しています。 厚生労働省は我が国の最終規制機関としての役割を担い、PMDAは各種の医薬品の適応症の承認に係る科学的審査を担当する独立行政法人です。PMDAによる審査の後、厚生労働省は薬事・食品審議会において公式な審議を行い、審議会の委員の意見を踏まえて医薬品の承認の妥当性を決定します。しかし、新薬の承認に関わる審議会が国民の健康や保健システムに及ぼす影響は大きいと考えられるにもかかわらず、これまで審議会委員と製薬企業の関係性についてはほとんど調査されてきませんでした。また、現在審議会委員に課せられている利益相反に関するルールが十分に遵守しているかどうかについても、検証されてきませんでした。

そこで今回我々が行った研究の目的は、我々がワセダクロニクルと共同で作成した2016年度の包括的な製薬マネー支払いデータベース( https://db.wasedachronicle.org )を用いて、日本の薬事・食品審議会委員に対する製薬企業から金銭的関係の特徴と分布を明らかにし、委員と製薬企業が申告した利益相反に整合性があるのかを評価することでした。

薬事審議会委員には、医学だけでなく他の分野の専門家も数十名含まれています。薬事・食品衛生審議会のうち、医薬品の承認に関わる医薬品第一部会、医薬品第二部会、再生医療等製品・生物由来技術部会、薬事分科会、薬事・食品衛生審議会総会の2017・2018年度の委員に対して、各社から2016年度に提供された謝礼等の金額(C項目支払い)を個人単位で解析しました。

医師と製薬業界の癒着に関する懸念が高まったことを受けて、日本製薬工業協会(JPMA)は、JPMAに所属する製薬企業が医師等に支払ったすべての金銭的取引の自主的な開示を義務付ける透明性ガイドラインを公表し、2012 年からは、講演料、執筆料、コンサルティング料などのすべての支払いについて、個人名と所属名を公表することになりました。

その結果、2013 年には JPMA に所属する 71 社をはじめ、数社が支払いデータの公表を開始しました。その一方で、その開示では普遍的な公開プラットフォームがないため、総合的な評価ができていなかったため、我々が2016年に米国のOpen Paymentに準じて、新たにデータベースを作成しました。

薬事・食品審議会に属する委員については、厚生労働省のホームページに掲載されている情報をもとに、各委員の氏名、所属、性別を確認しました。委員が医師かどうかについては、各委員の所属のウェブサイト等からチェックしました。さらに、厚生労働省のウェブサイトから、各委員が審議前に提出した利益相反申告書を抽出しました。審議会の委員は報告年度以前の 3 年間について、審議に関与した医薬品に関連する可能性のある製薬会社からの支払いについて、利益相反があれば報告する義務があり、特定の薬剤の審議前に必ず利益相反申告書を提出する必要があります。

ところが我々が厚生労働省から公開された利益相反申告書を検証したところ、3人の委員からの90の申告が公表していないことが明らかになりました。これを厚生労働省に問いあわせたところ、数日中に公開されました。我々の新たに入手可能になったデータは、他のデータと同時に公表されておらず、性質が異なる可能性があるため、本研究には含みませんでしたが、いかに厚生労働省が審議会委員の利益相反について杜撰な管理をしているかが明らかになった形でした。

本研究で明らかにしたのは、2016 年度の製薬企業からの講演・執筆・コンサルティング等の業務に対する審議会委員への支払い(C項目支払い)です。つまり研究費や学術寄付などのその他の支払いについては、データベースに含まれていないため、本研究では検討していません。その中で、50 万円以上、500 万円以上の支払いを受けた個人の割合を算出しました。50 万円、500 万円という基準は薬事・食品審議会が独自に定めたもので、1つの製薬会社から 50 万円以上 500 万円未満の支払いを受けている委員は、支払いを行った会社に関連する特定の医薬品の承認に係る議決に参加することはできません。また、一つの製薬会社から500万円以上の支払いを受けている委員は、その製薬会社に関連する医薬品の審議が行われる会議全体に参加することができないというものです。

また、審議会委員の製薬企業からの支払いの自己申告書の正確性については、以下の方法で評価しました。前述の通り、審議に出席する全ての薬事審議会は、新薬承認申請中の企業および新薬が競合する企業から受け取った金額を申告するよう求められます。利益相反申告書では、各企業からの支払いについて、なし/50万円以下/50万円以上かつ500万円以下/500万以上の4つのカテゴリーの中から選択する必要があります。その申告と我々のデータベースに登録されている支払額を比較し、開示額が少ないものを「過少申告」と定義し、その割合を算出しました。また、個人が医薬品の承認の議決に参加できなくなる(1 社からの支払額が申告書では 50 万円未満と記載されていても、実際には申告額以上になっているケース)ような「議決に影響を及ぼす可能性のある過少申告」の割合を算出しました

本研究の結果を示します。
まず表 1 は本研究対象者の主な属性です。5 つの委員会の委員 108 名のうち、医師が 54 名(50%)、男性が 79 名(73%)でした。各委員会における医師の割合は、医薬品第1部会が48%、医薬品第2委員会が67%、再生医療等製品・生物由来技術部会が50%、薬事分科会が41%、薬事・食品審議会総会が37%でした。調査期間中に開催された会議は48回で、そのうち34回(71%)が新薬の承認に関する審議会でした。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2020_164-1.pdf

表 2 に参加者の支払額の詳細を示しています。支払総額は115,765,006円、平均支払額は1,071,898円でした。2016年に少なくとも1回の支払いを受けた委員は51人(47%)で、50万円以上の支払いを受けた委員は32人(30%)、500万円以上の支払いを受けた委員は8人(7%)でした。少なくとも1回以上の製薬企業から支払いを受けた51人の会員のうち、38人(75%)が医師でした。特筆すべきは、第2医薬品部会の委員への支払い総額は66,198,442円で、5つの委員会の全108人の委員への支払い総額の57.2%を占めていたことです。また、1人の委員への支払い額で最も高かったのは、10,863,404円でした。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2020_164-2.pdf

表3は、委員への支払いを支払い形態別に見たもので、全108名の委員への支払い総額の67.3%(77,943,585円)を講演料が占めました。次いでコンサルティング料が 20.8%(24,117,604 円)、執筆料が 9.4%(10,828,871 円)でした。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2020_164-3.pdf

表4は、委員会ごとの過少申告の割合を示したものです。5つの審議会で8,530件の申告が確認されましたが,そのほとんどが第1医薬品部会(3,676件)と第2医薬品部会(4,446件)の委員による申告でした。そのうち、409件(4.8%)の申告では、データベースから抽出した金額よりも低い支払額が記載されており、特に409件中112件(27.4%)は、正しい金額が開示されていれば、委員が医薬品承認の議決に参加できなかった可能性があります。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2020_164-4.pdf

ご存知の通り、日本では国民皆保険制度が導入されているため承認された薬はすべて国民健康保険で含まれることとなります。政府や薬事審議会に課せられた責務は、特定の製薬企業や個人の利益のためではなく、公益のために働くことであり、彼らの意見は公正でかつ根拠に基づいた偏りのないものでなければなりません。それにもかかわらず、我々の調査では、医薬品承認を司る機関に属する薬事・食品審議会の委員の47%が2016年度に製薬企業から少なくとも1回の支払いを受けており、委員1人当たりの平均支払い額は1,071,898円であったことが判明しました。さらに、審議会会員の利益相反申告の約5%は、当該製薬会社から報告された支払額を下回っており、そのうち27.4%の申告では医薬品承認プロセスへの不正の可能性があります。

各々の審議会委員は平等に議決権を与えられている一方で、支払いを受けている委員の 75%が医師であったことも興味深いことです。これは、おそらく医師は日本において唯一薬を処方する権利を持っている上、所属する医療機関内外の薬事に強い影響力を持っていることが多いため、不当な影響力を行使したい製薬企業にとっては格好の標的となっている可能性を示唆しているのかもしれません。

特に注目すべき結果は、医薬品第2部会の委員への支払いが全体の57%を占めており、しかもこの医薬品第2部会に占める医師の割合も67%と最も高かったことです。医薬品第二部会は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など、製薬会社に莫大な利益をもたらす可能性のある医薬品の命運を握っています。逆に、新薬をそれほど頻繁に扱わない再生医療等製品・生物由来技術部会の委員への支払いは最も少ないものでした。以上からは、製薬企業にとって将来的に利益を得られる可能性のある医薬品を扱う委員会への支払いが多くとなっているように解釈できます。

これまでの報告では、製薬会社と大学教授や生物医学分野の学会の理事などの専門医との間には大きな金銭的関係があることが示されています。 実際、今回の研究でも500万円以上を受け取った8名の委員は、すべて大学教授でした。これは、彼らがある分野に特に精通しているからこそに委員として選ばれている可能性もありますが、本来はそういった真の専門家にとって製薬企業と協力して新薬や有効な治療法を発見・開発することは社会的に有益な活動であるはずであり、特に秀でた専門家であったとしても金銭的な授受がない方もいるはずです。特に研究関連費を含まないC項目の支払いについては尚更です。

2015 年には、8 名の薬事・食品審議会委員が不正な利益相反開示を理由に辞職に追い込まれました。しかし、今回の研究で対象とした2016 年度にも不正確な利益相反の開示が行われていることが明らかになりました。約5%の過小申告のうち、4分の1が薬事承認に関する議決権を不正に得ていた可能性があります。また、この利益相反申告書の開示すらも、我々が厚生労働省に開示を要求するまで不十分な形で公開されていることに鑑みれば、このままではそれが本当に正確なものであるかどうかについては全く担保されません。残念ながら厚生労働省による薬事・食品審議会委員の利益相反に関する適切なガバナンスは欠如していると言わざるを得ません。アメリカの場合、FDA内部での精査の結果、直接または潜在的な利益相反があると FDA が判断した場合には、特定の案件について FDA 諮問委員会の委員を務めることができないことが定められています。我が国においても本来、利益相反の開示の正確性をチェックし、矛盾や不明確な点を発見した場合には適切な対応を行うために、扱いやすいシステムの導入が急務と言えます。

そうは言っても実際には、政府の公的な医薬品規制を担うとはいえ、薬事・食品審議会委員が製薬企業から金銭を受け取ること自体は違法ではありません。また、専門委員の意見は審議にとって非常に貴重なものであり、実際には利益相反があっても製薬企業からの圧力や影響を受けていない可能性もあります。しかし、不正や汚職を避けるためには、透明性を追求し、公益のために活動し、公共財の利用可能性や医療費決定に携わる人物を規制するためのガイドラインはより厳格である必要があるでしょう。理想的には、薬事・食品審議会は医薬品の新薬承認の重要な役割を担っているため、製薬業界からの影響を完全に排除すべきです。
確かに現時点でも日本の 薬事審議会には独自のルールがあり、個人の自己申告で審議中の単一医薬品関連企業から500 万円を超える支払いが含まれている場合には、委員は承認審議に参加できない取り決めがあります。しかし、このような甘いルールで医薬品規制に関する意見や独立性を完全に担保することができるかどうかは疑問であり、さらに現在のように利益相反についてのガバナンスが厳格に監視・運用されていない場合には、このようなルールでは不十分です。そのため、医薬品の承認メカニズムと関係者の現状を徹底的に調査し、プロセス全体の包括的な見直しを行うことが急務であると考えています。そうすることで、国民の信頼が回復し、患者さんがより良く守られ、増え続ける医療費を減らすことにも貢献できるかもしれません。

本研究は、日本で初めての薬事・食品審議会委員への製薬マネーを調査したものですが、いくつかの限界があります。第一に、本調査は2016年度に製薬会社が行った支払いに限定されており、他の年度では同じ結論が導けない可能性があります。第二に、我々は薬事・食品審議会委員による利益相反申告書と我々の作成したデータベースとの整合性を分析しましたが、我々のデータベースでは78社の支払いしか確認できず、開示を義務付けられていない製薬企業も存在するため、この整合性に関する調査がどれだけ全ての製薬企業の支払いについて適応できるかについては不透明です。第三に、本調査は製薬企業からの支払いの存在は審議会委員の行動に何らかの影響があったことを証明するものではなく、また、各委員の議決に関するデータは全く公開されていないため、今回の結果から医薬品承認プロセスへの偏った影響を直接証明することはできませんでした。将来的には、より均一で信頼性の高い利益相反の開示システムを導入し、医薬品規制プロセスの透明性を高めることが必要です。

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