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Vol.241 インフルエンザ予防接種シーズン到来 高齢者だけでなく子どもたちにも強く推奨を!

医療ガバナンス学会 (2020年12月2日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(2020年10月7日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2020100600004.html

山本佳奈

2020年12月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今年度のインフルエンザの予防接種が始まりました。今年は、定期接種対象である65歳以上の高齢者を優先し、それ以外の希望者には接種を待ってもらうという方針を厚生労働省が発表していることもあり、まだ開始されたばかりではありますが、ご高齢の方が積極的に接種されている印象です。「今年はじめてインフルエンザの予防接種を受けます」というご高齢の方も多く、初めての方から「インフルエンザワクチン、やはり接種した方がいいのですよね?」と聞かれることも多々あります。やはり、多くの方がインフルエンザと新型コロナウイルス感染症の同時流行を懸念されていることが伺えます。

アメリカ疾病予防センター(CDC)は、「今年の冬はインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスのどちらもが流行する可能性が高いと考えている。」と言っていますし、実際に、中国武漢の同済病院からは、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時感染が報告されています。今年の冬は、同時流行に警戒し、万全の体制で備えることが必要になることは間違いなさそうです。

とはいえ、日本感染症学会がインフルエンザワクチン接種を強く推奨しているのは、高齢者だけではありません。生後6カ月以上の乳幼児や小児、ハイリスク群の患者、医療者に対しても、インフルエンザワクチン接種を強く推奨しています。高齢者や免疫力の低下している人がインフルエンザに罹患すると肺炎を合併したり、小児では急性脳症を発症したりと、稀に重症化することがあり注意が必要だからです。

にもかかわらず、厚生労働省は、「乳幼児や小児の接種は10月26日以降に接種するように」と接種を遅らせるように通達しました。

外来では、「保育園に通う子どものインフルエンザワクチンを早めに接種したかったけれど、10月末まで待たないといけないから不安です」というお母さんの声をすでに耳にしていますし、日本小児科医会は、厚生労働省の通達に対して、乳幼児はインフルエンザ脳症のリスクがあることからハイリスク群であり、優先順位は高いことを挙げ、小児への接種時期を一律に遅らせることは避けるべきであるとの見解を示しています。

小児へのインフルエンザワクチンの有効性については報告があります。例えば、Brendan氏らは、2010年から2014年の米国での358人の小児のインフルエンザに関連した死亡に対するインフルエンザワクチンの有効性は65%であって、インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザ関連の小児の死亡リスクの低下と関連していたことを報告しました。また、マシューフィールドクリニックの臨床研究センターのHuong氏らは、3369人の小児を対象にした調査でも、毎年予防接種を受けた子どもたちは、予防接種を受けていない子どもたちよりもインフルエンザにかかる可能性が低いことがわかったと報告しており、小児へのインフルエンザワクチンの年1回接種の推奨を支持しているのです。

さらに、ボストンのタフツ大学のSteven氏らは2002年から2006年までの米国における約500万件記録や年間の予防接種率データから、子どもへのインフルエンサワクチン接種は、高齢者のインフルエンザに対する集団免疫を誘発する可能性があること、そして高齢者自身にワクチン接種することによってインフルエンザを予防することよりも高齢者にとってより有益である可能性があることを報告しています。

実際、約1,200万人のインフルエンザの感染者数(2018年から2019年のシーズン)のうち、15歳未満は約40%を、60歳以上は約15%を占めており、高齢者と乳幼児や小児に限ると、乳幼児や小児の方が、インフルエンザに罹っている数は多いことがわかります。高齢者の予防接種ももちろん必要ですが、乳幼児や小児の接種時期を遅らせることには疑問が残ります。

また、妊娠中は、免疫系や心機能・呼吸機能の変化によって、インフルエンザに罹患すると症状が重症化しやすいことや、重篤な合併症を引き起こす可能性が高くなることがわかっています。ニュージーランドの環境科学研究所のPrasad氏らは、妊婦中の女性がインフルエンザに関連した入院の割合が、妊娠いていない女性よりも3.4 倍高かった(期間別にみると、妊娠初期は2.5倍、 妊娠中期は3.9倍、妊娠後期は4.8 倍であった)ことを報告しており、インフルエンザによる重症化や合併症から守るためは、妊娠中のインフルエンザの予防接種が欠かせないことがわかります。

さらに、妊娠中のワクチン接種が、インフルエンザから赤ちゃんを守ることにもつながることも報告されています。デンマークのMølgaard-Nielsen氏らの報告によると、妊婦さんにおけるインフルエンザ感染に対する妊娠中の予防接種の有効性は63.9%であり、生後6カ月未満の乳児において確認されたインフルエンザ感染に対する妊娠中の母体のワクチン接種の有効性は56.8%であったのです。

となると、インフルエンザワクチンの供給が例年より早まることが見込まれている、つまり接種希望者が多くなると予想されている今シーズンは、高齢者のみならず、乳幼児や小児、さらには妊婦など、インフルエンザワクチン接種が強く推奨される方々に対する早期接種を呼びかけることが必要なのではないでしょうか。

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